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【美術展に行く】心に残る展覧会2022

2022年もいよいよ押し詰まってきました。まだコロナの影響が続いてはいますが、人々の日常が戻りつつあるようです。私自身はおっかなびっくりではありましたが、今年は14の展覧での集客の多い展覧会は避けきましたが、新美の李禹煥展や静嘉堂文庫美術館はやっぱ行けばよかったかなぁと後悔も少しあります。この中から心に残る3つの展示会を紹介します。

1.  今年のベスト1
 「篠田桃紅展」@東京オペラシティアートギャラリー(5/7)

100歳を超えて水墨による抽象作品を作り続けた篠田桃紅の大規模な作品展。
 篠田桃紅のことを知ったのは確か20年位前の着物雑誌だった。篠田が80代の時だったと思うが「日常生活も創作時も着物で過ごす作家」として作品と共に度々紹介されていた。昨年亡くなった記事を見て、失礼ながらまだご存命だったのかと驚いた。
 作品展に行く10日位前にたまたまBOOKOFFでこの本を見つけた。

 これを読んで何て飄々としてしなやかな人なんだろうと感じた。これは見に行かねば!と出かけたところ、本当にすごい作品ばかりだった。
 作品は撮影不可だったので写真は上の入り口画像のみ、図録も売り切れていた。だがこの作家の作品は実物を見なければ本当の迫力・凄みは分からないと思う。特に2年のアメリカ滞在から帰国以降の作品は素晴らしい。渡米以前の作品はまだ遠慮がちに戸惑いながら線を引いていると感じたが、帰国以降の作品は迷いのない自由さが感じられる。篠田がこの線に至る精進は間違いなくあったと思う。しかし作品にその苦労は感じられない。力感があまり感じられないくらい迷いなくしなやかに引かれた線は、作家篠田の生き方そのものように思える。100歳を超えてそれを軽やかにやってのける瞬発力は、まるでアスリートのように感じた。 
 実はこの展示を見てから他の作家の抽象画を見ると、心の中で篠田と比べている自分がいる。リヒターの展示の時でさえそうだった。今のところ篠田桃紅を超える抽象画に出会っていない。来年は岐阜に行くしかないかなと思っている。

2.   建築家の展示で考えた 「吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる」(3/27)

ひげの自画像が印象的

 この建築家さんについてはほとんど予備知識はなかったし、建築家の展覧会に行ったのも初めてだった。実は通信制芸大同期の学友さんが吉阪の門下生が起こした会社で働いていたことから、この展覧会を教えてもらった。設計した建築物や描いた絵画から、いろいろ考えさせられた。

 吉阪隆正は戦後復興期から1980年まで活躍した建築家。前川國男・坂倉準三と並ぶル・コルビュジェの弟子の一人だ。
幼少期を海外過ごし、当時としては珍しいグローバルな感覚を持っていた人である。
”建築というものは、世界で相互理解するための一つの手がかりではないだろうか”という言葉がとても印象に残った。

建築家が新宿に自宅
八王子セミナーハウス。
ロンシャ礼拝堂のよう。

 自宅を含め建築物には師匠コルビュジェの影響が伺えた。しかしアテネ・フランセをはじめ現存する建物は少ない。耐震の問題はあるのだろうが、品のある建築がなくなっているのは、なんとも味気ない。
 吉阪版東京計画は山手線内が全て森になっていた。吉阪が長生きしてくれていたら、東京はもっと住みやすくなっていたかもしれない。そんなことを考えさせられた展示だった。

学友さんが参加した展示。
『宇為火タチノオハナシ』


3.漫画だけじゃない、ガチのアーティストだった
「ヤマザキマリの世界」展 @東京造形大学付属美術館(11/11)

 ヤマザキの漫画は「テルマエ・ロマエ」しか読んでいないけれど、漫画以外の著作も多く、メディアへの露出も多いことから気になっていた。
自宅から近い東京造形大学で展覧会があるというので出かけた。
展示を観て彼女の表現は漫画が一番感じが、ヤマザキは漫画だけじゃない。ガチのアーティストだった。

校舎屋上にある付属美術館
展示場へは階段を下る。
「リ・アルティジャーニ 
ルネサンス画家職人伝」
原稿ができるまで。
背景はとりみきの作画。
桐竹勘十郎・山下達郎・
立川志の輔の肖像画
19歳のインク画
手前は9歳の時の絵日記
奥は中学生の時の作品

 油彩で描かれた3枚の肖像画は、正統派で技術的にはとても上手い。
しかしなんだかおとなしい。漫画で感じる躍動感が今ひとつ感じられないのだ。ヤマザキは雄弁でエネルギッシュな人だ。一枚の絵に表現をまとめる絵画では、ヤマザキのエネルギーを表現しきれないのではないだろうか。生活のために漫画を描き始めだというが、漫画はヤマザキの最良の表現方法と感じた。そしてヤマザキの漫画が売れたのは、彼女が身に着けた確かな作画技術と歴史的知識、そして世界中で生活してきた体験からだろう。多彩な才能を見せられた展示だった。ヤマザキマリはガチのアーティストなのだと改めて感じた。

いろいろなことがあった2022年。新年は読んで頂けた皆さん、そして世界の人々が平和で穏やかな日々をは過ごせますように。