勝手にオマージュ Vol.1!会田誠さんに届け!あぜ道 NO6
「我慢する。我慢しとくわ。皮むくの」
香の背後より聞こえてくるみなこの声は、この時期のお決まりの文句を放ち、
香は「わかったよ。髪洗わんよ。今夜だけ」と軽く返し、
そんな二人の傍らを手のひらの薄皮に針を通して喜んでいる芸術家志望のちふゆが通り過ぎた。
時節柄一日でも洗髪しないのは大層不快であるにも関わらず、
幼なじみのみなこのために洗髪を諦めた香は、痒みを伴う乾いた頭皮に触れることを我慢し、
その頃向かいの家の一室ではみなこが小瓶に入った皮膚を眺めていて、それらはすべて香の頭部の分け目のもので、六年間の夏の終わりの香の皮膚。
思い返すは夏休み明けの小学三年の算数の時間。
はじめて使うコンパスでノートに大小様々な円を描いていくうちに、みなこは円ではなくコンパスの鋭利な針、ノートに突き刺さったその針にときめきを覚え、
ちょうど目の前には二つ結びにした髪の分け目、こんがりと焼けてはしゃいだ香の頭皮。
地肌から僅かに浮き上がったそれはかさこそとみなこを誘惑するので、みなこはどぎまぎし、ついその鋭い針でつんつんと突きながら皮膚むきをはじめたのでした。
その場所はちょうど痒みのある場所であったので、心地よくほへりとなりしばらくの間、香は針の尖りの好きなようにさせた。
二人はこうして算数の授業をより有意義な、より生物学的な高尚なものへと昇華させ、
紙の上の円はもっとミクロな髪の円、
つまりはむけた頭皮にぶつぶつと開いた毛穴となり、その穴は小さいのに官能的な蠱惑な円なのでありました。
写真:むけた皮膚の贈り物
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