PTATP
鬼石砂麻世(おにいしさまよ)が娘の通う国東南(くにさきみなみ)中学校で、保護者からなる団体(通称、過保護会)の会長に就任してから、一年が経とうとしておりました。
砂麻世が会長になる前は、国東南中学校は悪名高き学校であり、校舎は落書きだらけで窓ガラスは割れ、校庭では金髪の生徒たちが改造バイクで爆走し、花壇の花は引き抜かれ、校門の横に立つ二宮金次郎はにやけた顔をしてエロ本を見ているのでございました。
砂麻世は娘の入学を機に、ここを規律正しい立派な学校に変えようと、入学式後の保護者会で会長に立候補したのでございます。
問題だらけの学校に関わりたい保護者は他におらず、砂麻世は拍手喝采のもと会長に就任し、なりたくもないのにくじ引きで当選してしまったその他十二名の役員を率いて、学校改革に乗り出したのでありました。
「学校と家庭と地域が三位一体となり、子供たちを教育する必要がございます」
砂麻世はそう宣言すると、まずは職員室に踏み込み生徒たちの暴力に怯える先生達に渇を入れ、これまでの校則に手を加えさせ生徒たちが校則を遵守するよう指導させたのであります。
教育委員会にも乗り込み、体罰好きの教師を数人学校に送り込んでもらい、校則を守らない生徒たちに罰を与えたのでございます。
また家庭での教育指導にも力を入れ、度々過保護会を催し、自分の子供だけでなくよその子のことも厳しく監視するよう訴え、地域住民や警察と共に地域見回り隊を結成し、夜間にうろつく生徒たちを取り締まったのでありました。
砂麻世の二年目の会長続投が決まった頃には、国東南中学校はすっかり生まれ変わっておりました。
落書きも割れた窓もない綺麗な校舎。
パンジーの咲く花壇。
坊主頭とおかっぱ頭と三つ編み頭が並ぶ笑顔のない教室。
模範的な制服姿。
清潔な白い靴下と上履き。
見えないけれど規則に則った白い下着。
二宮金次郎は真面目な顔をしてエロ本を読んでいるのでございます。
「絶景かな。絶景かな」
砂麻世が校舎を見上げ満足げにそう声を上げた頃、国東地域の一角に、ある家族が降り立ったのでありました。
双子の転校生が国東南中学校に現れたのは、それから三日後のことでございます。
~朗読MCバトル篇~
お待たせしました。今夜のスペシャルマッチ。朗読MCバトル!メリケン生まれの双子のラッパーPTATP!
そして対するは、素行不良な生徒らを品行方正な人間に変えた伝説の国東南中学校過保護会代表 鬼石砂麻世!
先攻 PTATP 後攻 鬼石砂麻世
リズムはバラディ バラディ バラディ
Are you ready?
321レッツゴー!
★PTATP
アットなホームでパーティーひらくよ
はっと驚くソウルを聞かすよ
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
たべもんのみもんなべもんくだもん
なまもんいろもん どれもOK
じょうもんやすもん すべて滑稽
来るなら来いよ いつも歓迎
メリケン生まれのあたしら双子
パーティー好きのギャングなラッパー
大ぶりジェスチャー付きのコトバを
リズムにのせて吐き出しアッパー
毒を吐き出す すきっ歯~
指をしゃぶるは 金歯~
ウインクしながらクインな挨拶
それがP・T・A・T・P!
★鬼石砂麻世
初日そうそう 他の生徒ら
パーティーに誘う一卵性
にらんだわたしは当日に
パーティー会場乗り込んだ
呼び鈴鳴らして 扉が開く
出てきた女は中肉中背
女はわたしを抱きしめる
こちらは驚き腰抜かし
風紀の乱れは心の乱れ!と
大声をあげる
金の髪したメリケン女
あたしはツインのママよとわめく
そんな女をケンケンまたいで
無断侵入 家の中
音楽に合わせ歌い踊る
派手な格好の中学生
★PTATP
歌い踊るは生徒ら楽勝
彼ら囲んで大人が談笑
紛れ込んでる赤い服
砂麻世知ってる魔界服
十二人の役員の中の
赤い服の女
ユダだ ユダだ
ユダだ ユダだ ユダだ ユダだ
うわっと飛び掛かる砂麻世
ぐわっと彼女に責めコトバ
黙秘する彼女が指差す
砂麻世の娘踊ってる
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
腰をくねらせ踊ってる
砂麻世は娘に突進する
★鬼石砂麻世
するするとスルメのごとく
薄っぺらなカラダをよじらせて
クスクス笑って逃れる娘
主婦め!と放って咎める娘
開いた窓から逃げ出した
いらつくわたしは叫び出す
あたりめのごとく舌を裂く
悔し涙でイカを煮る
窓の向こうに娘が見える
タコのごとくアホのごとく
まじめが取り柄の娘が踊る
掟をやぶって腰振り踊る
こうなったのは誰のせい?
わたしのせい?違います
メリケン生まれの双子野郎!
PTATPのせい
★PTATP
ま―ま― おばさんいらつく表情
さー食え こしあん 双子が参上
糖分補給でシワを伸ばしな
幸運呼び込む行動起こしな
眉間に皺寄せ幸を逃がすな
機嫌いつでも不(ふ)より上(じょう)がいい
冷たい目線、ネガティブ感情
笑いがないのは不幸の誕生
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
じゃんじゃんびりびりじゃんびりびりびり
臭(くさ)い物に蓋やっぱ臭うよ
上手いコトバでなくっていいから
臭いの元をきっぱり絶とうよ
死にたいくらいに穴にはまっても
我慢 絶対美容の大敵
どんどん吐き出せ
死霊のハラワタ~
★鬼石砂麻世
器量良しだと受けるはセクハラ
資料明日まで これはパワハラ
雨量気にする農夫はハラハラ
香料つけるはやりすぎスメハラ
何を言ってもすぐハラスメント
ヘソで茶沸かすこんな世の中で
あけっぴろげに自分を治療
魅力たっぷりわたしはワイフ
すべて公開 わたしのライフ
サルのごとく頬を赤らめ
どろり吐き出す心の内部
目を閉じるな耳をふさぐな
見ざる聞かざるすべてウーソ
頭の上に生えるのはツーノ
布で隠すはそんなのへーん
裏にあるのは般若のめーん
それでは判定に入らせていただきます。
よかったと思うほうに手をあげてください。
では、先攻PTATP。
いやいややっぱり、後攻 鬼石砂麻世。
綺麗に割れました。
結果はドロー。延長戦に突入です。
先攻後攻入れ替わります。
先攻 鬼石砂麻世 後攻 PTATP。
リズムはファラーヒ ファラーヒ ファラーヒ。
Are you ready?
321レッツゴー!
★鬼石砂麻世
過保護会が生きる道
不平不満の不穏な日々
同居の姑(しゅうとめ) 認知症
独居の舅(しゅうと)は 白内障
逃げ出したくて職を探せど
ただのばばあに仕事なし
もやもや発散 中華で八角
だんなの浮気が 職場で発覚
八方ふさがり気分は最悪
手当たり次第に浮気すりゃ
浮気相手の浮気相手が
だんなの浮気相手でキャッ!
死んでやると浮き輪つかんで
海に入れば あいててて
クラゲにさされる 肌がただれる
周囲の人に笑われる
★PTATP
笑われたって気にするんじゃない
からかわれてもそんなの平気さ
笑う門には福来る
笑う過去さ暗黒時代も
漂うクラゲいつも気楽さ
朝から宴(うたげ)で歌えば
浮気 くらりかわせるさ
ゆらり波にのってサーフィン
すらり波をかわすバイキング
さらり心の内 解禁
かなり日常嘘つき発信
やめな自分に嘘つくのを
ダメな自分をそのまま発信
なんてことない人生のランキング
ネガもポジもすべて吐き出し
陰影に富んだ星に願いを
★鬼石砂麻世
わたしの人生なんなの
ベルマーク集めが趣味なの
切って数えて貼って送って
届いた一輪車 校庭にならべ
するとなんだか嬉しくなって
横断歩道で黄色い旗持ち
緑のおばさん演じれば
気分いー
娘の中学入学で
わたしデビューしてみたら
過保護会がわたしの舞台
だからさPTATP
ツインでクイーンな黒船野郎
おまえたちを許せない
まじめな娘を返しておくれ
わたしの舞台を返しておくれ
★PTATP
敵と味方の区別はナンセンス
誰もかれもの世界はワンネス
進め 娘 進め 砂麻世
自分の道を進めばいい
温泉入って腰まで浸かって
レンコンの穴を覗いてごらんよ
穴から見えるのどんな世界?
朝日 昇る希望の世界?
あたしら双子 信じてさ
任せてごらんよ 学校を
ぴーちくたっぷりあいしてあげるよ
あんたの舞台は別にある
不快な舞台は終わりにし
期待のつまった舞台で歌え
ほら きな 笑いなよ
こっちの舞台に上がりなよ
★鬼石砂麻世
舞台に上がる
迎えるPTATP
わたしの前で双子の一人が
はいはいしながら四つん這い
それにまたがる双子のカタワレ
こちらに向かっておいでと手招き
わたしのカラダは放たれて
双子にくっつき またがった
刹那 三人叫びだす
さんみいった~い!
白目むく 鼻垂れる
静まり返ったこの場所で
三人は発光する
人々はひざまずく
両手を合わせて首(こうべ)を垂れる
ここは聖なる祈りの場
★PTATP
その後 どう変わったか?
国東南中学校
人々は口を揃えて
変わって 変わったと言うだろう
だけど多くは語らない
語らないのが身のためだ
自分自身を守るため
罪の意識を忘れるため
現実からの逃避行
過去はすべて蜃気楼
すべてを知るは金次郎
二宮さんちの金次郎
彼が手にするあの本を
ちょっと覗いてみましょうか?
聞くのも無残で鬼も食わない
人の心の残酷さ
あのパーティーの後、国東南中学校は変わりました。PTATPを中心に生徒会が発足、自由で風通しのよい学校となったのです。PTATPは制服をなくし、私服での登校を許可しました。髪色も髪型にも決まりはなく、生徒たちは思い思いのおしゃれを楽しみました。
自由ですが悪行をする者は一人もおりません。生徒らは各々興味あるものに打ち込みました。運動、音楽、絵画、なにもしないことを楽しむ者もおり、生徒たちが笑顔を取り戻すにつれ、先生や保護者も穏やかな顔つきになりました。
ところが、学校に関わるすべての人が、国東南中学最高です!と口にしはじめた矢先、生徒の一人がある病に罹ったのです。
皮膚が青や赤など五色に変色する奇病でした。
その病は瞬く間に生徒らの間に広がり、やがてその家族、ご近所にも感染が拡大しました。なにか原因があるはずだと、人々はここ数年のうちに地域で変わったことはなかっただろうかと考えました。ある者が言いました。
「よそ者が来たよな。この町に」他の者が続きます。
「きたきた。あいつら。PTATP」
「そうだ。やつらがこの病を持ち込んだに違いない。PTATPは異物だ、鬼だ、叩き出せ」
その頃、市議会議員になっていた鬼石砂麻世は反論しました 。
「PTATPのおかげで学校はよくなったじゃないですか。鬼なんかじゃないですよ。むしろ神じゃないですか」
けれどその声は人々には届きません。災いを鎮めるには原因を突き止め、生贄を捧げるのが一番であるとみんな信じているのです。PTATPはその役にうってつけでした。
よそからやってきた者。
リズムに乗せた不思議なコトバを操ること。
瓜二つの一卵性。
つまりは異質な存在。
各々が手に石や斧、鎌に剃刀、武器になりそうなものを持ち、PTATPの家へと押し掛けました。窓に投石し玄関の扉を蹴破ると中に押し入り、ベッドで眠っていた双子のPTATPを引きずり出し、石を投げつけ鎌で耳を刈り、斧で四肢を叩きました。
双子の皮膚は五色に染まってなどいなかったのですが、次第に血色(ちいろ)に変わっていきやがて二人は動かなくなりました。
人々は鬼退治できたことで安堵しましたが、この二つの新鮮で神聖なる生贄を誰に捧げるべきか迷いました。彼らは迷いながらも傍らに立つ砂麻世の前に生贄を供えると、新たな異物を見つけ出そうと散らばっていきました。
次なる災いに備えるために。
(完)
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