
居合い書きは文章のトレーニングだ 作家の僕がやっている文章術026
800文字作文はあなどれない
文章の練習として誰もが始めやすいのは800文字作文です。
800文字で、朝日新聞の一面に掲載されている『天声人語』のようなコラムを書いてみるのです。
名文を書こうとして、筆を止める必要はありません。
どうせ誰も読まないのだ、というくらいの覚悟で気楽に書いてみます。
テーマにも悩む必要はありません。
その日に見かけた人物の印象と、どんな人なのかの想像、ときには妄想でもいいのです。
その日に出会った猫のかわいらしさについて800文字を費やすのも悪くありません。
その日の出来事を書いてみるのも、面白いところです。
その日に見た風景でも構いません。
自分のことを書かなければ文章は上達する
コツがあります。
「私は……」
で書き始めないことです。
つまり自分のことからは書き始めない。
これが鉄則です。
自分のことは、客観視しにくいのです。
そして大抵が、自分のことから書き始めるとつまらない文章に陥ってしまうのです。
小学校低学年の作文教育は、自分のことを中心に書くように指導します。
これを覚えていて「自分のことを書く」のが、取り組みやすい文章トレーニングだと誤解してしまう人はすくなくありません。
自分を中心に置いて、書いて構わないのは、売れっ子作家と有名タレントだけです。
客観視こそが文章を上達させる
800文字作文の効能は、客観の文章を書く稽古になる点です。
テーマをおさらいしておきましょう。
その日に見かけた人物
→ 街ですれ違ったちょっと気になる人への想像。
その日に出会った猫
→ どんな模様で、どんな仕草が可愛かったか。
その日の出来事
→ パン屋の香りがどうだったか。駅にどんな人たちがいたか。公園でたった一人でサッカーボールを蹴っていた少年は何を思っているのかの想像。
その日の風景
→ 街に見つけた変化。たまたま見上げた月の形。夕景の色、その発見。思ったこと。
800文字作文は、保存しておいて、数ヶ月、ときに数年後に読み返します。
保存しておいた文章集は、著者(作家)としての実力がどう変化して、どう身についていったかを振り返り、学び直す財産になります。
居合い書き
私が10年ほど前まで実践していた文章トレーニングを紹介します。
それは「居合い書き」です。
取材などで、日本各地、世界各国のどこかに出かけるときには、宛名住所だけをプリントアウトしたシールを荷物に詰めていました。それと切手です。
旅先で、絵はがきを買います。
買い求めた20枚くらいの絵はがきに、宛名住所のシールをランダムに貼ります。
そして宛名の人に限定した内容の文章を、万年筆でいっきに書くのです。
居合い書きはシュワッチ
それこそ、その街の印象、出会った人物、出来事、取材の感想などを一枚一枚、内容を変えて、その宛名の人に向けた文章で、書くのです。
20枚を一時間くらいで、書き上げます。
60分で20枚ですから、一枚の絵はがきには3分しか使えません。
シュワッチという勢いで書き通すのです。
ときには一枚を1分で書き上げていた時期もあります。
シャワーを浴びて、ベッドに早く転がりたいという欲望を抑えて、私は絵はがき居合い書きを続けました。
パジャマに着替えるのは、居合い書きした絵はがきを、郵便ポストに投函した後でした。
現在では、旅先で絵はがきそのものを入手することが困難になってしまいました。
スマートフォンの普及で、旅先の出来事を絵はがきにしたためて郵送する文化が駆逐されてしまったからでしょう。
絵はがき居合い書きの稽古は、20年くらい続けました。
書くことに躊躇するくらいなら、まず書く。
書いているうちに、悩まずに文章を書けるようになる。
その確信は、居合い書きで得た私の財産です。
まとめ
文章トレーニングは日常のなかでできる
800文字作文は、日常の文章トレーニングになる
美樹香月はかつて旅先からの絵はがきを居合い書きしていた
いいなと思ったら応援しよう!
