知財情報開示のあるべき姿とは
近年、製品開発などでSDGs(持続的な開発目標)を意識した取り組みが求められ、また、世界的に注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)投資にもSDGsの観点は重要である。一方で、ESG 投資における評価の点では、日本企業はアンダーウェートの状態にある。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人の 2020 年度 ESG 活動報告では、ESG 評価の国別ランキングや改善度合いにおいて、日本は海外先進国と比べて低評価である。
ところで、この1年は企業による知財・無形資産の情報開示が進められた時期にあたる。例えば、2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、知財への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ情報を開示・提供すべきであること等が盛り込まれ、2022年1月には「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」が公表された。
一方で、企業の開示状況は低迷しているようだ。2022年8月1日付け日本経済新聞によると、東証上場400社を対象にした民間調査によると、9割が「実施」と表明したにもかかわらず、具体的な内容を開示したケースは少数にとどまるとのこと。
ここ数年の特許出願に変化はあっただろうか。世界知的所有権機関が提供する国際的な特許データベースPATENTSCOPEで調べると、「持続可能な開発目標」の文字を含む特許は、2019年、2020年はそれぞれ6件、27件であったのに対し、2021年は188件、2022年は7月30日時点で220件公開されており、ほとんどが日本企業によるものであった(公開日ベース)。一方、「Sustainable Development Goals」の文字を含む特許は、2019~21年はそれぞれ13件、34件、78件であり、2022年は7月30日時点で60件であり、これら英語の特許出願にも日本企業が多く含まれていた。したがって、特許にSDGs情報を直接書き込むのは日本企業に特有の現象であり、近年急激に数を伸ばしていることがわかる。
この現象は、一方では、知財への投資状況が好適に評価されるための前準備として特定の文字を特許に明記しておくといった、目的と手段が逆転した現象であるようにも思われる。他方では、特許とSDGsの関係を結びつける重要性が日本企業に浸透している証拠であり、日本企業が特許出願を通して社会的課題に取り組む意思表示を行っている傾向にあるとも解釈できる。また、特許に直接記載しなくとも、SDGsに関連する知財投資を客観的に評価できる指標を第三者が提供すべきであるともいえ、SDGsや脱炭素といった社会的課題の観点から特許を評価する手法を開発し、結果を無料公開しているサイトもある。
特許などの独占排他権は、利益至上主義を追求し、地球温暖化などの外部不経済の問題を見過ごしてきた面がある。一方で、特許とSDGsを結びつける試行錯誤が日本企業や第三者機関で始まっており、このような活動がESG投資を呼び込む一因となり、ひいては技術力を持つ日本企業が社会的課題の解決にプレゼンスを発揮できるのではないか。