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パリ逍遥遊 イスラム圏からキリスト圏

インスタンブールの空港に降り立つのは2度目だ。一度目はオリエントエキスプレスに乗車するときだった。今回の旅のテーマは、「イスラム教の世界とキリスト教の世界のはざまでたゆたった世界」だ。このテーマに最もふさわしいのは、まずはトルコインスタンブールのアヤソフィアだろう。

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アヤソフィアは、もともとキリスト教の大聖堂で、コンスタンティノープル総主教庁として、また、東ローマ帝国の皇帝の霊廟として用いられた。イエスが磔にされた「聖十字架」等が聖遺物として置かれていたと言われている。

1453年、メフメト2世により、コンスタンティノープルがイスラム勢力下になったと同時にアヤソフィアの十字架が外され、メッカの方向を示すミフラーブが取り付けられた。堂内壁面のモザイクを破壊せずに、漆喰で塗りつぶし、オスマン帝国滅亡までモスクとして使用されていた。1922年、オスマン帝国の滅亡をきっかけに、博物館として公開され、1955年には、全ての漆喰が除去された。

2006年にはキリスト教徒とイスラム教徒が祈りをささげることが可能な場所となったにも関わらず、再び2020年7月にはモスク化されてしまい、聖母子像や天使の絵はカーテンで隠されたらしい。ここを尋ねたのは2014年12月だから、この写真は、写真の聖母子像がカーテンで隠される前の貴重なものとなった。

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キリスト教とイスラム教を行き来する世界は、スペインにも見られる。711年にムスリムのウマイヤ朝がイベリア半島へ侵入するまでは、キリスト教勢力が強かったが、この時から次第にイスラムの勢力が強くなっていく。1031年、後ウマイヤ朝滅亡後、再びキリスト教勢力が復権してくる。スペインにおいて、キリスト教徒による国土回復運動であるレコンキスタが始まるのは、722年とする史家が多い。イスラム勢力が強い中、キリスト教の小さな国が出来た年だからだ。そして、レコンキスタが終わりを告げるのは、難攻不落のグラナダが陥落する1492年である。

最後まで難航不落だったグラナダを目指し、インスタンブールからスペインマラガまで機上の人となり、そこからバスに乗った。グラナダの丘の上には、イスラム王朝の象徴であるアルハンブラ宮殿が立つ。アルハンブラとは、アラビア語で「赤い城塞」を意味する。アルハンブラ宮殿はムスリム政権下のスルタンの居所として使用されていた。イスラム教徒にとってはアル・アンダルスの象徴であり、イスラム最後の王権の大きさを如実に表している。イスラムの王族がこの宮殿から追われることになったのは、1492年、時にコロンブスがアメリカ大陸を発見した年だ。

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アルハンブラ宮殿は、スルタンの居所だけあって、その装飾は繊細優美なアラビア風、アラビア美術の粋を集めたものである。円柱、アーチ、壁、そのすべてが漆喰とタイルで装飾され、抽象化された植物、幾何学模様、アラビア文字が組み合わさった模様で装飾されている。この模様は、まるでエッシャーの版画を彷彿とさせる。それもそのはず、エッシャーの方が、このアルハンブラ宮殿にインスピレーションを得たらしい。天井は、鐘乳石装飾と言われる漆喰の彫刻によって覆われ、鉢の巣、鍾乳洞を思わせ、豪華そのものだ。

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レコンキスタ後、モスクはキリスト教の教会となり、礼拝堂や修道院が建築される。アルハンブラ宮殿を訪ねた夜、宮殿内にある修道院で過ごした。アルハンブラの思い出のギターの音色を自分の脳にこだまさせながらいただく夕食は格別だった。
グラナダを後にし、バスにて一路コルドバにある「メスキータ」を目指す。メスキータは、スペイン語でモスクを意味する。最初イスラム教のモスクとして建設され、1236年からカトリック教の聖堂となる。850本といわれる石柱が林立する内部は壮観で、柱の上には赤と白が交互に彩色された馬蹄形のアーチが連なっている。オレンジの木が植わっている沐浴の為の中庭、礼拝のためのくぼみであるミフラーブはモスクの面影を残している。ミフラーブには、植物図案の繊細な彫刻やモザイクが飾られ、純アラビア風である。

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グラナダの白壁に小さな窓、黄土色の瓦屋根の家並みを後に、セビリア(Sevilla)を次に目指した。コルドバから西へ約130キロ、再びバスに乗車。コルドバと同じく、13世紀中ごろまでイスラム支配下にあった。その後、巨大なモスクは破壊されたが、モスクなどのイスラム教の施設にある塔であるミナレットは、今でもスペイン最大のゴシック聖堂であるセビリア大聖堂の鐘塔となっている。セビリアを訪れた日は、12月24日。24時に始まるクリスマスミサに参加、居ずまいを正す良い機会であり、イスラム教とキリスト教の間をたゆたう世界におけるクライマックスだ。翌日、セビリアからマラガまでRENFEスペイン鉄道へと滑り込んだ。この鉄道、定時運航率99.9%を誇り、セキュリティチェックは、飛行機の搭乗並みだった。

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