夜更けのキッチン
栗の皮を剥く相方に スッと包丁を手渡され、気づけば 二人並んで せっせと栗の皮をむいている今日この頃。 秋の夜長と言うけれど こうして作業をしている間に 夜はあっという間にふけていく。
近頃 指がささくれ立つのは 栗の皮むきのせいなのか? 栗のアクに染まった指先を見ていて 舞い降りてきたように母とのやりとりを思い出した。
子供の頃、我が家には 八寸籠と名付けられた 両方の手のひらを開いてあわせた程の 平らな竹籠があり、そこには 常に 季節の実りが盛られていた。 夏の終わりを告げる梨に続いて、秋の訪れと共に いちじく 早生みかん 柿 ゆで栗 焼き栗 栗の渋皮煮 蒸かし芋に焼き芋…。 母が仕事で 鍵っ子になる日も 家で迎えてくれる日も 変わらず そこに実りのモノは たっぷりと乗っていた。
「子どもたちがひもじくないように」と言うよりは 「寂しさを少しでも紛らわせられるように」と、年中 八寸籠を満たし続けてくれていたのだろうと思う。 あわせて、無言のうちに 季節の移ろいを愉しむすべも 私の根っこに植え付けてくれたのだろう。
「お母さんの指 なんで黒いん?」 「栗をむいたけんよ」 とびきりオシャレな母に不釣り合いな アクに染まった指が 子供心に不憫に映り 「栗は好かん」と言ってしまったことが 母の切なそうな顔とともに記憶の奥から引きづり出されてきた。
おかあさん、喜んでくれる顔があれば アクに指が染まる事なんて なんてことないね。
そんな 他愛ない想い出を、 互いの母の思い出を つらつら話ながら 今夜も夜更けのキッチンに並んで二人たっている。