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【エッセイ】裏と表

 アンダーシャッツってやつは、すぐに裏と表がわからなくなる。ついでに後ろと前もわからなくなる。ぐるぐる回してみたり、ひっくり返してみたりして、ようやく前後左右、裏表を見つけて着る。
 この儀式みたいなものが、毎朝煩わしい。
 裏表がひっくり返っていても着心地はそう変わりないし、人前で服を脱ぐ機会などないだろうから、確かめないで着てしまえという気分に毎回なるのだが、万が一交通事故にでも遭って救急車で運ばれたときに、ドラマで観たようにハサミで服を切られる事態にならないとも限らない。
「こいつ、シャツを裏表逆に着てるよ」
と、緊急の場で医者がくすっと笑うかもしれない場面を想像すると、ああいかん、いかん、それは避けなくてはとシャツをぐるぐる回し始めることになる。
 いっそのことマジックかなにかで「表」「裏」とかどこかに書いておけばいいかという考えもよぎるが、それは益々医者を笑わせることになるだろうとやめることにした。
 そして一歩も外に出る予定のない今日も、シャツをぐるぐる回して着たのであった。

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