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美しきバルール2 元組長の下で働く

「今日からよろしく!」

加藤から勢いよく差し出された手は、日に焼けて黒光りしていた。そして黒光りした手の指がとても短い。よく見ると右手の第2関節から全て先がなかった。

”加藤が元ヤクザという噂は本当だったんだ!” 凛は息を飲んだ。今日から加藤のもとで働かなければならない、、私、生きて家に帰れるのだろうか。凛は絶望感に似た諦めで加藤と握手をした。

凛は幼い頃から家でじっと読書することが大好きな子供だった。
集団生活が大の苦手で、人間関係が複雑になり始める小学6年生になると
ガッコウというところに感じた違和感をごまかしきれなくなって、完全に不登校になった。体調不良ではない理由の学校欠席=ずる休みが珍しかったころ。

そのまま、中学2年生までほとんど行かず、いわゆる「ひきこもり」となる。
困り果てた親が、探してきた民間の更生施設に入所することになった。

入所者の年齢や状況にあわせて、東京と山梨に点在する施設で集団生活を送りながら社会復帰=卒業を目指すシステムだ。

凛が生活した寮は、万引き、恐喝、シンナーなど薬物中毒、いわゆる素行不良で来た子供が多い。その中で加藤の噂をよく耳にした。「加藤さんムショに2回入ったらしいよ」「背中にでけえ龍の刺青入ってるんだって!」ずっと家にこもっていた凛には別世界の話すぎて自分にはずっと無関係だと思っていた。

「加藤はこえーよ」林が呟く。寮で一番の問題児である林には前歯がない。普段はパシリとして皆にこき使われていたが、一旦キレると誰の手にもおえない。感情の起伏が激しいのもシンナー中毒の後遺症らしい。凛には、ちょっとしたことで激昂する林も怖かったが、そんな林が怖いという加藤とは!

その日の夜は一睡もできなかった。が、翌朝はよく晴れて、加藤が古いワゴンを運転して寮まで凛や林を迎えに来た。

「凛くんはよく働くなあ!お前らも見習えよ」

加藤は凛をはじめ女性には一回も切れなかった。凛たちが加藤怖さによく働いたのもある。が、加藤の美学も関係してるようだ。小さな事務所には組長時代の古い写真が一枚飾ってある。加藤も紆余曲折を経てここにたどり着いたようだ。

凛は、加藤に怒られまいと(殺されまいと?)必死に働いた。主な現場は、新しい団地の造成と学校や寺の樹木の選定。土や伐採した木がが入った一輪車は重い。雨が降った翌日の土は何度もひっくり返りそうになった。

が、加藤が怖くてたまらない凛は、毎日必死だ。朝から晩まで動いて、くたくたに疲れて眠りにつく夜は、夢もみないくらいよく眠った。家で母親と喧嘩した頃を、なぜか懐かしく思った。





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