美しきバルール7 工藤のかあちゃん
凛の寮に中年女性が入ってきた。名前は”工藤のかあちゃん”
前回までの話↓
本人に問題があって入所したわけではなく、素行不良で学校を退学になった子供の付き添いで寮に入ってきた。(その大きな寮は、寮生ともボランティアともつかぬ入所者の家族も何人かいた)工藤のかあちゃんはその丸っこい体型と同じく丸い人柄で、みんなから名前ではなく”工藤のかあちゃん”と親しみをこめて呼ばれている。
ミヨと凛、工藤のかあちゃんは同室となった。工藤のかあちゃんは、クセのあるミヨが同室でも全く動じない。自分の夫には浮気や借金で散々苦労させられたらしい。
「でもさ、これがいい男でさ。女ができるたびにヤツと何度も離婚しようと思ったんだけどできないんだよね」かあちゃんが夫について話すときは、愚痴のようなのろけのような不思議な口調になる。丸っこいかあちゃんに全く似ていない、すらりとし美形の息子をみるとかあちゃんののろけもちょっぴり理解できた。
かあちゃんは凛と同じ造園会社で働くようになり、たちまち少年の母代わりとなった。家庭環境が複雑な子供が多くみな健康な愛情に飢えている。香水を漂わせた谷崎もよくキレる林も、かあちゃんには無邪気な一面を見せるのだ。
凛もかあちゃんといつも一緒にいられるのが嬉しかった。凛が寮長に怒られた時も、かあちゃんが「大丈夫」と一言言えば全くその通りだと思える。別の寮にいる美形の息子がかあちゃんのところに会いにきた時は、かあちゃんと取られるようなきがしてその実の息子に本気で嫉妬を覚えた。
一度だけかあちゃんの涙を見たことがある。寮には1つだけ公衆電話があり(まだスマホや携帯がない時代の話)凛がそこを取りかかったら誰かのすすり声が聞こえる。チラリとみるといつも明るいかあちゃんが泣いていた。電話の向こうは夫らしい。
なぜ、こんないい女性を大切にしないのだろう。そしてなぜかあちゃんはそんなひどい夫とすぐ別れないのだろう。寮で誰よりも信頼されてるトミタは、かあちゃんに心底惚れており、それは皆知っていた。多分かあちゃん自身もトミタの気持ちは知っている。
かあちゃんは、自分の息子が施設を出て社会生活を送ってもまだ寮に残った。
凛が寮を出る時もまだみんなの太陽みたいな存在だった。社会の吹き溜りのような寮で、みんなを照らしてくれるありがたい存在だった。
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