美しきバルール18 家に戻る
ある夜に寮を飛び出して、凛は数年ぶりに実家に戻った。
そこから職場と定時制高校へ通う生活が始まる。
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凛が施設にいた数年間、家族にもいろんな変化が訪れていた。
母の真奈美は病気の後遺症で3歳程度の幼児のような大人になっており、
真奈美の介護のために、多くのヘルパーさんが、さらにお手伝いさんが 絶えず出入りする家になっていた。
凛の父・貴志は、真奈美の介護の為に転職せざるを得なかった。
今まで家族の前で弱音を吐いたり一切しない貴志だった。感傷的なことと惰性が大嫌い。テレビドラマが好きな真奈美に「フィクションなど見る価値はない」と言い団欒には加わらず自室で何かの研究や読書に没頭する。そんな貴志も自身の環境の変化と介護に疲れ、凛にポツポツと弱音を吐くようになっていた。
早紀(凛の姉)は大学生になっていたが、母親の介護をはじめ多くの葛藤があったようだ。突然「私は留学する!」と宣言してそのまま日本を飛び出し、その後も取り憑かれたようにバイトをしてお金を貯めては海外に飛び出して行った。
2年ぶりの実家は「自由」だらけだ。
テレビをみても、ご飯をおかわりしても、何時に寝ても誰にも文句を言われない。
凛はとまどって「いいのかな〜?」急に押し寄せた自由にとまどう。
と同時に家を出た13歳当時の、凛が隠れる為の隙間というか暗がりはもうなく、
幼児に退行してしまった真奈美の一日をフォローするので精一杯だったので、
凛の”電車にのると動悸がする”とか”気持ちが落ちて辛くて死にそう”という悩みは
よくも悪くも誰も受け止める事はできない。
「五体満足で今日生きてるだけでいいじゃないか!」に変わっていた。
凛はとにかく一日一日を過ごせれば高校卒業に向かうのだろうと、
数年経てば感受性も今より鈍くなるだろうと 時折湧き上がるドス黒い不安を紛らわす為に、詩やアクセサリー作りに夢中になった。
先生たちは、凛の細かい悩みに辛抱強く向き合ってくれた。定時制高校は様々な生徒がいる。職員室は、何かをもとめてウロウロする生徒で妙な活気があった。
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