shiroitabi-3のコピー

美しきバルール10 焼けた農場

「農場が火事になりました」ある夜のミーティングで寮長が告げた。

前回までの話↓


林が放火したらしい。林は火をつけたあと近くを走るトラックをヒッチハイクで乗り継いで地元に戻ったそうだ。警察が捜査してると寮長が渋い表情のまま言った。

凛たちが”下界”(時にふざけてシャバという)と呼ぶ寮は住宅地にあり、社会との接点は僅かながらある。だが、そこから車で3時間あまりの農場は社会と隔離された山の奥にあった。入所したての子供や、脱走のおそれがあるものは農場に送られる。そこできつい農作業や、禅寺の僧侶のような修行(断食や過酷な運動、研修)を受けて認められた者だけ”下界”に戻れる。

寮の規律を守らない林は、先週、農場に送られた。「農場で頭を冷やしてこい!」と寮長に怒鳴られて林は「覚えていろよ!」確かにそう言ってた。(林は長年のシンナー中毒の後遺症かよくキレるのだ)ノイローゼで入所の寮長ハセヤンは粘着気質。規律に細かくて少年たちとよくぶつかるのだ。

林の腹いせだろうか。感情の起伏が激しく集中力が続かない。前歯のない口を開けてケタケタ笑う時もあれば次の瞬間激昂する。「林はもうヤバイからな」凛は上川が仲間に言うのを聞いたことがある。よく施設を脱走して地元に帰っては問題を起こし、親に何度も連れ戻されていた。

ヤバイ。そう、もう林は壊れかけているのだ。凛は、林と封筒貼りにいたスーさんは一緒だと思った。本人の弱さなのか、環境なのか、両方なのかはわからない。ヒビだけならまだ元に戻れるけど、壊れすぎるともう難しいんだ。ガラスと同じで壊れすぎてはいけない。

生きていくためには”限界を超える前に”なんとかするのだ。

13歳の凛は、心につよく言い聞かせたのだった。

続きの話はこちらをどうぞ↓


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