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美しきバルール17 マユの旅立ち

「マユさんが亡くなったそうです」寮長の言葉に凛は耳を疑った。

前回までの話↓


凛と仲良しのマユちゃんは美術大学に復学すると施設から家に戻った。長く患っていた心の病気もかなり安定して医師の太鼓判も出ていたのだが。。

マユちゃんは家で自殺したそうだ。足のついたバスタブがなぜか急に思い出されて悲しいようなおかしいような複雑な気分になる。まだ21歳じゃないか!

凛に美術の話や、小説の話、詩の話。まだまだ素晴らしい世界があると教えてくれた。マユちゃんのいうことはいつも真っ当で、口癖は「デザインの仕事につきたいの」デザイナーになりたいと夢を語ってくれた。

研修でマユちゃんの家族を見かけたことがある。身なりのきちんとした感じの良い一家だった。そんな環境でなぜマユちゃんの心が病むのか不思議なくらいだ。数日前、凛に届いた”大学生活を楽しんでいます”と書かれた手紙を何度も読み返したが、死につながるメッセージなど隠れていない。

しばらくはショックで強面の加藤の指示すら聞き逃すことが続く。

ぼんやり月を見ていた夜。ふと”この寮を出よう”という気持ちが湧き上がる。寮長に卒業の話をしたが「凛ちゃんはまだ(卒業は)早いよ」あっさり遮られてしまった。なぜか激しい頭痛と涙におそわれて、その日は大好きなパスタに果物もつく特別な日だったが部屋から出れなかった。普段お節介なミヨも何かを察してそっと部屋を出ていく。

押入れの奥、使わない財布には1310円がある。こっそり持ってきた1000円とバスに乗らずに貯めた310円。これで家に帰る交通費は足りる。時計をみたらまだ最終のバスに間に合う時間だ。

今、勝手に出て行ったら”卒業”ではなく”脱走”扱いになる。もう二度とここへ戻れないだろう。でもここを出よう。

妙に静かな気持ちで荷物をまとめた。ミヨには今日はミーティングを欠席すると伝えてある。夜のミーティングまであと一時間。

音を立てないように寮のドアを開けた。ひんやりする空気が凛を包んだ。もうここには戻れない。進むんだ。とにかく前へ行くんだ。

前へ進めるうちはとにかく行くんだ。

そして、数年ぶりに家に戻った。凛は16歳になっていた。

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