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美しきバルール24 数年後に

「もしもし、こちら〇〇警察署の者ですが、お話を聞かせてもらえますか?」

施設を出て数年後、警察から凛に電話がかかってきた。

前回までの話↓


何事かと話を聞けば、かつて凛が生活していた施設について詳しく話を聞かせて欲しい、とのことだった。
電話で聞かれるがまま答えたが、凛の自宅でさらに詳しく話を聞きたいという。

「実は通報があったのです」

後日、警察署から刑事が二人訪ねてきた。
(すごい!本物の刑事さんだ、、)出迎えた凛は驚いた。

一人はのっぽで痩せ形、もう一人は背の低い貫禄体型。組み合わせまで刑事ドラマみたいだった。

何を聞かれるのかドキマギしていたが、しばらく話すうちようやく訪問の理由がわかった。

「実は、凛さんがいた〇〇で未成年を強制就労させていると、通報がありましてね。」

4年前に放火があったと聞いたことがある。放火犯は、凛も知っている田崎だ。頭の回転の早い小柄な少年だった。確か、地元で何回か問題を起こして親に入所させられたと聞いた。田崎は、建物に放火したあと付近を通りがかった車をヒッチハイクして地元に戻った。(火事の被害は小さかったが近隣から立ち退き要請がでて、施設は移転する)

事情徴収された田崎が、未成年を強制的に労働させていると警察に訴えたらしい。

あの生活はなんだったのだろうか

ドラマのような刑事二人に、繰り返し質問された。労働の実態を、様々な関係者に確認し回っているらしい。

たしかにあそこは「未成年を強制的に労働」させていた。

が、あの労働がなければ、凛はずっと社会復帰できなかっただろう。高校で、その後の美術学校で、辛いことがある度、施設の生活を思い出した。徹底的に管理された生活。悩む暇がないくらい次々に押し寄せる労働。そして「あそこに戻るくらいなら、今を徹底的に戦ってやる。」と奮い立つのだった。

そう、ある意味、あそこのおかげで、生きていく強さを手に入れたのだ。

刑事に問われるまま仕事の内容や、労働時間など答えた後に「でも必要だったと思います」凛の口から言葉が飛び出した。

「確かに仕事は強制的にやらされていたけど、あの仕事のおかげで、たくましくなって社会復帰する子供も大勢いました。必要なものだったと思います」

凛の言葉に刑事はうなずき、それ以上質問することはなかった。

刑事が帰ってからも、凛は自分の口から出た言葉をぼんやりと考えていた。

その後の話

結局、未成年の労働について事件化することはなかった。

だが、これをきっかけに凛がいた施設は、子供の受け入れをやめ、成人のみの共同生活へと形態を変える。東京の郊外にあった本部は、西日本の小さな島へと移転した。先生として在籍した何名かと有志だけの少人数のコミニティとして生まれ変わったようだった。

仕事で、施設がかつてあった場所に行く機会があった。

真新しい住宅が立ち並び、あの大きな寺のような家屋はあとかたもない。

かつて多くの人が出入りしていた気配はどこにもなかった。

全国から人が訪れて、ここで生活して、そしてまた家に戻っていた。あの時集まっていた子供ももういない。

でも確かにここで、泣いて笑って、みんな一生懸命生きていたんだ。

凛は深呼吸して、また歩き出した。

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