美しきバルール11 マユちゃん
ある日、休学中の大学生というマユが入所した。美術大学でデザインを学んでいるそうだ。
前回までの話↓
凛はマユの知識、本の話題、持ち物、、すぐに夢中になった。マユの祖父が始めた事業が成功して実家はかなり裕福らしい。「マユちゃんの家には猫足のバスタブがあるんだって!」同室のミヨが凛に教えてくれた。
マユは一見何の問題もないようにみえる。知的で仕事もちゃんとこなす。だがちょっとしたきっかけで自分の殻に入ると途端に日常生活が困難になる。凛と一緒に絵を描いて遊んでいた翌日、些細なきっかけで鬱になり現場を10日間欠勤した。10日後に登場したマユは透けそうな白さだ。ずっと部屋をでれなかったのだろう。「色白だなあ、、」強面の元ヤクザ加藤の呟きに凛は必死に笑いをこらえた。
加藤をはじめとする造園会社の面々は暴れたり問題行動も多い。実際、少年たちはヒッチハイクや仲間の助けで度々施設から脱走した。所持金ゼロでも(お金はキッチリ管理されている)地元に帰る行動力。友達の家を渡り歩いてなんとか逃げ切る逞しさ。大人しい凛にはとても真似できなかった。
一見問題ないがなかなか殻を破れないマユと、問題行動はとかく多いが生命力に満ちたここの面々。果たしてどちらが良いのだろう??
社会からはみ出したいろんな形があった。この施設の趣旨は、スパルタともいえる日々の労働や、禅僧を思わせるストイックな食生活や修行の数々。それらを徹底的に繰り返すことで「ヒト本来の強さを磨き、心身ともに社会生活を送れるしなやかさを作る」ことにある。
凛は、起床時に流れる所長の朗読も、過酷な労働も、もちろん断食も、この濃すぎる生活が嫌でしかたなかった。研修のBGMは”G線上のアリア”。30年以上経った今もこのメロディを聞くと切なくなる。
が、ここでの生活は確かに凛を変えた。不完全で愛すべき人たちとの出会いは本当に貴重だった。マユとの出会いで美術の道を決心したし、その後何かにつまずくたびにここの生活を思い出す度、這い上がる底力、勇気がわくのだった。
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