美しきバルール21 絵を描くきっかけ
治療院の先生が「凛ちゃん、もっと絵を描いてごらんよ」としきりに勧めてくる。
その頃はアクセサリーをつくることに凝っていたので適当な返答をした。
前回までの話はこちら↓
ある日トシコさんが「ちょっとついてきて」近所の画材店に連れて行ってくれた。
小さい店内に、見慣れぬ画材が山盛りになっている。
目を白黒させていたら、トシコさんと店主が話し合って「これでどうかな?」と
突然、油彩道具一式をプレゼントされた。
イギリス製、ウインザー&ニュートン社(老舗メーカー)の素敵な油彩セット! !
凛は、あまりに本格的すぎるプレゼントにもうビックリ。
ここまでしてもらったら、本格的に描かないわけにはいかない。
そこで、どうせなら独学ではなく絵画教室で教えてもらおうと教室を探した。
近所にあった教室は、美術大学受験のための予備校。ただ近いからと言う理由で入会を決めた。もし、趣味の教室に行っていたらまだ違った未来があったかもしれない。
偶然に偶然が重なって油絵を始めることになった。高校3年生の時だ。
油絵セットを買ってもらった画材屋さんには、絵を描いては見せに行った。
店主のオジサンは、とても正直に自分の意見を言う人で、
「いいね」とか「う〜ん、よくないね」とか 実にハッキリと感想を述べる。
その価値観は、商売っ気と全く違う所にあるようだった。
ある風の強い日、絵を見せにいこうと画材屋へむかうと店主がワゴンの整理をしていた。
「こんにちは!」と凛が声をかけようとしたその瞬間、
ビュウウウウーーーーーーーーーーーーーーー!ひときわ強い風が吹いた。
そのとき、オジサンが乙女となった。いや、正確に言うと乙女の様な
ロングヘアーに変貌したのだった。
いや、もっと正確に言うと光沢のある頭頂部が燦然と輝き、
側頭部のみ生えるロングヘアーが風でたなびいたのであった。
それまでも、頭頂部の毛の固まりに不自然さを感じてはいた。が、
まさか、地毛を丸めて乗っけただけの自家製ウィッグだとは気づかなかった。
スローモーションのように風にたなびく店主ののロングヘアーは、
太陽の光を浴びて、キラキラとそれはそれは美しく、、、、
、、、、時間が止まったかと思った。
しかし、風がおさまれば乙女から落ち武者スタイルとなる。
落ち武者姿となった店主は、乱れた髪をそのままにワゴンの中を整えると
すばやく店内に戻って行った。
すべては一瞬のことだ。
凛の手には見せるはずの絵があったが、今は声をかけちゃいけないような気がして、その場を立ち去ったのだった。
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