美しきバルール9 定時制高校へ
「君は何をやりたいんだい?」カズ兄に会うたびそう聞かれた。
前回までの話↓
施設のストイックなスケジュールの中に勉強の時間がある。W大にいたカズ兄が子供達の勉強を教えてくれる。それまで凛の「やりたくないこと」は沢山あったが「やりたいこと」を考えたことがなかった。
凛がここに入所したのは2年前。そろそろ義務教育も終わりに近くなって寮でも進路の話題がよく出た。
施設の仲間は早めに社会人になるケースが多く凛も就職を勧められる。それも悪くなかったが、ふと手にした学校案内の冊子で「美術系」という言葉に強く惹かれた。絵を描くのが特に好きだった訳でもない。
むしろ文章、詩、めいたものを同人誌に書いて、夢中になっていたくらいで、
いたずら程度しか絵を描いた事はなかった。
凛の母親は書家だし父親も趣味で絵を描いている。「美術」という言葉はわりと身近にある。親友のマユは美術大学に通っていて時々画集を見せてくれた。「美術」とか「アート」という言葉には魅力的な響きがあり、 学校案内を読みふけるうち、
そういう美術系の学校に行くには、高校を出ないと進学できないことだけ知った。
そうだ、高校にいこう!
ある日そんな考えが頭に浮かんだ。一週間の研修を受ければ家に戻れるから、と親に説得されてここに来たのは2年前のこと。そのまま家に戻れず、学校生活から離れて3年以上経っている。
果たして高校にきちんと通い続けることができるのか?
自宅近くの親切な方の家に預かってもらい=ホームステイなどで
元の中学へ復学したものの結局すぐ行かなくなった過去もある。
人はそう簡単に変らないということを凛は痛いほど自覚してる。
同い年のエネルギーあふれるザワメキ、思春期特有の残酷で鋭い感性。 その時期に自我を獲得してさなぎから大人に脱皮するのだが、凛にはその自我すらどこにあるのかよくわからない。 1時間あまりの授業時間、その間の休憩。
学校という集団生活に身を置く事、その全てが、苦痛で仕方なかったのだ。
なので、普通校に行ってもまた挫折するだろうと思った。普通校でないところ、、
凛が考えて出した結論は2つ。
1、私立の女子校に行く
2、定時制の高校へ行く
常々、考えすぎて殻に閉じこもってしまう。なら昼間仕事をして疲れきってしまえば苦手な学校でもあまりピリピリしなくなるだろうという安易な考えから2を選択した。
2には経済的な事情で高校へ行けなかった、おじさんとおばさんがくる場所だと思い込んでいたのもある。世代が違えば苦手な学校生活もなんとか続くだろう。
だが、後日それは大きな勘違いとわかる。時代は豊かになり、集団生活に馴染めない、凛のような子供が社会問題になりつつあった。定時制高校はそうした子供の受け皿となりつつあったのだ。
高校の入試会場に、おじさんおばさんは見事に一人もおらず、
肩パットのいかつい紫のスーツを着たヤンキー系の若い子が大勢いた。黒髪の子供はざっとみたところ数人。あとは、金髪、ピンク、赤、、賑やかな髪色ばかりだ。
凛は、自分の時代錯誤な誤算に苦笑しつつも、もう後戻りできないと悟る。
こうして、寮で生活しながら、昼間は働き夕方から高校とへ通う生活が始まったのだった。
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