【幸福指数と黒】
「梟(ふくろう)の絵を描いてみませんか?」不意に井上さんが言った。
*井上さんの話はこちら
井上さんは海外生活が長い。梟について色々と教えてくれた。
”ギリシャ神話で梟は女神アテナの使いとされている。
ローマ神話では女神ミネルバの従者。 つまり、学問、書物の象徴である”
梟=土産店の置物のような和のイメージを持っていた凛はびっくりした。
が熱く語る井上さんを見るうち、なんだかワクワクして「ぜひ、描かせてください!」思わず言葉が出た。
絵作りは全てデッサンから始まる。凛の作品は、長い時間をかけて綿密に描くスタイルだ。デッサンで絵の骨組みを作ってからでないと、必ず行き詰まる。
10枚以上梟を描いて、ようやくイメージが湧いた
たくさんの書物の上に梟を配置しよう。膨大な枚数のデッサンから、本画制作を(油彩テンペラ)開始した。
井上さん唯一のリクエストは【とにかく暗い背景】だった。だが、凛は暗い背景で絵を描いたことがない。描いたことないからどんな暗さからスタートすれば良いかわからないのだ。闇というイメージになかなか近づかない。
1作目、2作目、、構図を変え、背景の色を変えてまた描き直し。なかなか仕上がらず焦りは募る。4作目で紫の背景の絵は完成した。
これは、井上さんの求めてる暗さではないな。4作目を渡すのをやめて、背景をとことん暗くしてみた。
井上さんは、金融の世界にいたので、数式が似合う。
凛は、暗く深い背景にオイラーの公式(数学史上「最も美しい公式」とされる)を描き入れた。
オーダーのお話をいただいてから、すでに数年以上経過している。そこからひたすらアトリエにこもり3ヶ月間。
7作目のこの油彩テンペラ画でようやく描ききったと思った。
タイトルは【幸福指数と黒】にした。
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【幸福指数と黒】
53×45.5㎝
板・油彩テンペラ(混合技法)
sold out
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凛が、ここまで何作も描いたテーマは、最初で最後。今後もここまで描くことはないだろう。
「納期を気にしないで描いて」贅沢な仕事をさせてもらった。
記憶に残る一枚だ。
この絵は、今、おそらくタイで飾っていただいていると思う。
凛は、またこの梟に会いに行きたいと思っている。