抗がん剤の効果
2月20日、4度目の抗がん剤。夫は仕事のため、父と私2人で行くことに。
足元がふらつくのを気にして「電車は無理かなあ」と言うが、私も一緒に行くのだから電車で行こうと促した。採血をし、診察を受け、食堂で親子丼を食べ、抗がん剤の点滴をする。抗がん剤が3週間に一度のルーティーンになってきた。Tさんともまた一緒になり、嬉しそうだ。
帰宅後、足のしびれを強く感じたり、足の甲が痛い、お腹が張ってきたなどの訴えがあったが、何度も「ありがとう。ごくろうさん」と言ってくれた。体重も一番最初の抗がん剤のときと比べて2キロほど増えていたし、順調に思えた。
翌日以降、便秘、膝のガクガク(痛みも出てきた)、手の痺れと、副作用のルーティーンも味わい、出かけるのが億劫になったりごはんが食べられないとわがままを言ったりしたが、波が過ぎ去ってからは、いつも通りの生活を楽しんだ。私が仕事のため、温めて食べてねと鍋に味噌汁を作って置いておくと「何か多いなあと思ったんやけど…」と、全部平らげてしまっていたり。おいおい、仕事から帰ったら私も食べようと2人分作ってあったんだよ。その味噌汁プラス、スーパーで買ってきたおばんざい2品と、トンカツ6切れ。すごい食欲だ。夫との予定が合ってカフェRに3人でランチをしに行くときも、よく食べ、よく笑い、楽しそうだ。
3月9日、いよいよCT検査の日がやってきた。父がどう思っているかはわからないが、夫と私はこの日を心待ちにしていた。
4回の抗がん剤治療を受け、副作用に悩まされはしているもののごくごく軽い方で、何より治療を始める前より食欲が増し、胃の症状が改善されている。きっと、確実にがんは小さくなっているはずだ。もしかしたら、腹膜播種は全て消えているかもしれない。そうすれば手術をして原発を取り除き、Tさんのように奇跡の復活を遂げられることも夢ではない。
検査のみなので、朝一番に病院に入ってから30分ほどで終了した。術前にCTを撮った後のように、点滴して造影剤を早く体の外に出しましょう、と言われることもなかった。私は手ごたえを感じた。水腎症もきっとよくなっているに違いない。
父は朝食を抜いて検査に臨んだので、帰りに2人でモーニングを食べた。夕食は夫が天ぷらを揚げてくれた。鶏肉、さつまいも、なす、ちくわ、しそ、などなど、冷蔵庫の残り野菜でかきあげも作ってくれて、出来たてサクサクの食感を楽しんだ。あれもこれもと欲張って色んな具材を揚げてもらったが、さすがに作り過ぎたと夫も苦笑い。父はおいしいおいしいと本当によく食べた。私の方が先に胃もたれでギブアップしたくらいだ。
検査結果を聞きに行ったのは、検査から4日後のことだった。抗がん剤の日と同じように最初に採血をし、診察の順番が来るまで待つ。よくなっているに違いないと思ってはいるが、万が一悪くなっていたらどうしようと、不安と期待が入り交じる。
名前を呼ばれ診察室に入ると、M先生は、術前のCT画像と今回の画像をパソコンの画面に並べるように映し、説明してくれた。
「腹水が少し減ってますね。厚かった胃の壁が少し薄くなって、胃の動きもよくなっているのではないかな?腎臓も今までは胃の壁に圧迫されておしっこの通りが悪くなっていたけど、よくなっていますよ。劇的に改善したとまではいかないけど、この薬でこの効き具合なら御の字でしょう」
劇的に改善しているはずだと思い込んでいた私は少しショックだった。腹膜播種について先生は明言しなかったが、なくなってはいないことは聞かなくてもわかった。それでも、先生に「御の字」と言わせるほどの効果があったことを喜ぶべきだ。このまま抗がん剤を続けていけば、次回のCT検査ではもっとよい結果が得られるかも知れない。
「まだ抗がん剤せなあかんのか…」父も同じように、いや私達以上にがんがよくなると思い込んでいたらしく、今日で抗がん剤とはおさらばだとまで思っていたらしい。それから先もしばらくの間は「まだ抗がん剤続けなあかんのかなあ。1年くらいかなあ」と度々ぼやいていた。「まだ病院通わなあかんのかなあ」と言い出す日もあったので「お父さん、もしがんが治っても、病院は定期検査とかで一生行かなあかんねんで」とやんわり言ったくらいだ。
診察が終わり、通院治療センターへ。センターに来ていたTさんに「よくなってました」と笑顔で報告する。Tさん、父とハイタッチ。自分のことのように喜んでくれた。