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誰が、誰に向けて、どこで発信した情報か ~韓国の観光地『景福宮』の情報から考える~

私が景福宮を訪れた日は、大雨と小雨を繰り返す雨の日だった。観たかった守門将交代式と光化門交代式は雨のために中止で残念だったが、1日に2回行われる無料の日本語ツアーに参加することができた。しかし、なんとお客は私一人。流暢に日本語を操る同世代の韓国人女性のガイドさんとのマンツーマンのツアーとなった。 

勤政殿(国宝)

ツアー開始直後に知らされた衝撃的情報

「景福宮は日本に2回破壊されていますが、ご存じでしたか?」と聞かれ、キョトンとする私。特に嫌な感じもなく、さらっと聞かれたこともあって、どのように反応して良いのか迷ってしまった。ガイドさんは淡々と、1回目は1592年の文禄の役の時に豊臣秀吉が破壊したこと(注1)、2回目は第二次世界大戦の時に日本軍に破壊されたこと、そしてちょうど今説明を聞いているこの場所に朝鮮総督府が建てられていたこと、1990年に朝鮮総督府が取り壊されたことを説明してくれた。
それを聞きながら、私は「なぜ私はその情報を事前に知らなかったのだろう」と考えていた。 

注1)別の説もある「景福宮を焼いたのは豊臣秀吉でなく朝鮮民衆蜂起だ」※私は歴史家ではないので、それぞれの説に対する見解はわかりません

日本人が日本の観光客向けにガイドブックに書いた情報

私はガイドブックの定番である地球の歩き方のファンであり、ネットが普及した今でも購入することが多い。基本的な情報が網羅されており、事前リサーチの時間削減につながるからだ。景福宮は地球の歩き方にこのように書いてあった。

景福宮
朝鮮王朝の太祖、李成桂により建てられた正宮。1395年の創建と伝えられ、ソウルに残る5大古宮のなかで、最も規模が大きい。1592年に焼失し、その後再建された。(以下略)

地球の歩き方ソウル2023~2024年版 P90(2023年5月2日初版第1刷)

なるほど。1592年に焼失した理由が書いていなかったから気が付かなかったのか。ちなみに、欄外で朝鮮総督府について以下の通り書かれている。

info
日本統治時代に建てられた朝鮮総督府庁舎は、景福宮の勤政殿と光化門の間にあった。光復節50周年である1995年解体記念式典が催され、翌年までに完全に撤去された。

地球の歩き方ソウル2023~2024年版 P90(2023年5月2日初版第1刷)

韓国人が日本の観光客向けにリーフレットに書いた情報

では景福宮で自由に手にすることができる日本語のリーフレットにはどのように書いてあったのか。

朝鮮最高の宮殿、景福宮
(前略)宣祖25年(1592)、文禄の役の際に全焼してしまい、270年余間復旧されずに放置されていたが、高宗4年(1867)に興宣大院君の主導により建て直された。
(中略)ところが日本の植民地時代、日本による意図的な損傷を受け、さらに1915年には朝鮮物産共進会の開催を名目で90%以上の建物が取り壊されてしまった。しかし1990年から本格的な復元事業を行い、昔の朝鮮総督府の建物を撤去するとともに、景福宮の本来の姿を取り戻しつつある。

景福宮 日本語(リーフレット)

この情報は私がガイドさんから聞いた話とニュアンスが近い。ガイドさんはこのパンフレットを見学者が見ることを前提に話しているので、当たり前と言えば当たり前ではある。 

限られた枠にどの情報を入れるのか、それが重要だ

私は地球の歩き方も、リーフレットも、ガイドさんの説明も、否定するつもりもないし、歴史的な議論をするつもりもない。(歴史で「事実」だとされることが国によって異なることはよくある話だ)。ただ、ここからわかるのは、誰が、誰に向けて、どこで発信した情報か、が違うことで、情報の切り取り方が少し変わる、ということである。本やリーフレットは物理的に載せられる情報に限界があるのでなおさらだ。
地球の歩き方であれば、きっと韓国旅行を楽しんでもらおう、という気持ちで編集されているはずなので、戦争について触れることを避けるのは不自然ではないと思う。
リーフレットについては、これまで景福宮で何が起こってきたのかを多くの人に知ってほしいという想いで編集されているのだとしたら、このような表現になることもまた、あり得るのだと思う。そしてそこで働くガイドさんはそのリーフレットを基に補足情報を伝えてくれることを考えれば、彼女の説明に何ら不自然な点はない。

これはすべての情報に言えることだが、その情報がなぜ発信されているのか、発信者の意図を考える必要があることを示している。情報は表面的に受け取るのではなく、もっと立体的に理解するべきものだ。

現地のツアー参加がおすすめ

 この日の景福宮のツアーに参加したのが私一人であったことからもわかる通り、それほどガイドツアーに参加する人は多くないらしい。でも私はツアーに参加して大満足だった。韓国人の考える日本、が少しわかったような気がしたからだ。そしてなにより、私の質問すべてに答えてくれて嬉しかったし楽しかった。景福宮を訪れる人にはぜひ参加してもらいたいツアーだ。

チマチョゴリを身に纏った観光客がたくさんいて、映えスポットで写真を撮っている。
家族で着る人、カップルで着る人、様ざまだ。タイムスリップした気分。
※チマチョゴリなど韓服を着た人は入場料が無料になります

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