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ダウン症児の音楽参観の話


先月の音楽参観のことを記録しておきたい。
重度のダウン症次男が在籍するのは地域の小学校。
支援級を取ってはいるが、私たちの市ではインクルーシブ教育を実施しており、基本的には普通クラスで過ごす。

本人がしんどかったり、気分を落ち着けたい時には支援級の部屋で休んだり、遊んだりすることもできる。

さて、先月の音楽参観の話。

体育祭や音楽会も当然みんなと一緒に参加。その子、その子に合わせた支援を受けながら、できる限りのパフォーマンスをする。
今回はまだコロナの名残で、クラス毎の「参観」という形での発表だった。

支援の先生からは、「次男くんはマラカスを選んだので、マラカスです。」としか聞いていなかった。
練習は気まぐれに参加したり、しなかったり。機嫌の良い時は「ノリノリで参加しました。」と。

私が心配だったのは、悪目立ちすること。
「ノリノリになってきて、そのまま前に出てきませんかね?」と先生に聞くと、「大丈夫だと思いますよー。」

それ以上の話を聞かず、本番を迎えた。
まず最初はピタゴラスイッチ。
なんとオルガン。
え、聞いてたっけ?
いや、聞いてない・・オルガン!?
全く弾かれへんぞ。

先生と一緒にオルガンの位置へ。向かって右端の目立たない位置でほっとする。
後で聞くと、先生はそっと場所を離れようとしたが、次男が「そこにおれ」と言うように指で指示したそうで、仕方なく、先生はその場に留まる。

始まるとファ~と外れた音が聞こえてきたが、全体の演奏を邪魔しているほどでもなかったので、まぁ良し、と思いながら見ていた。
弾かずに休むところは、手を合わせて頬に当て、「ねんね」の姿勢で待ったり、彼なりのパフォーマンスを加えて。
後で聞くと、先生がそっとバレないように音量を最小にしていたらしい。

無事、1曲目が終わり、2曲目へ。
なんと・・
スーパーマンの変身用グッズを入れた巾着袋を振り回しながら場所移動・・
持っとったんかい!
ダウン症次男はアメリカのヒーローが大好きで、スーパーマンコスプレは2年目に突入。
スーパーマンTシャツと赤い風呂敷マントで1年以上がっつり過ごしたが、最近は変身前のスタイル・・シャツ、ネクタイ、メガネを身に付ける日も多い。
音楽参観の日は自分で選んだシャツ、カーディガン、ネクタイで颯爽と学校へ。
頼むからそのままステージに上がってくれ!と思っていたが、手には変身用グッズが・・・

おそらく先生が取り上げたら、怒ってステージにも上がらないだろう、と持たせてくれたのだと思う。
その判断は正しいと思うが、親としてはおもむろにステージの上で変身し始めたらどうしよう・・・と動悸が止まらなかった。
「頼むから着替えるなよ!」とステージ上の次男に〝念〟を送りながら睨み付けていた。

お友達に促されて楽器を取りにステージの袖へ。
マラカスを取って出て来ると、ステージのど真ん中に座り、マラカスをジュースの瓶か何かに見立てて、飲む真似をし始めた。

真ん中なん!?
だ、大丈夫か・・
誰か注意してぇー

シン・・とした空気の中、次男がジュースをすするような音だけが聞こえる。
私は気が気ではない。
先生が指揮棒を振り、演奏が始まった。
アフリカンシンフォニー、とても迫力がある曲だ。

曲が始まると次男が立ち上がり、マラカスを大きく振り、腕を思い切り頭上に掲げ踊り出した。
キレキレと表現していいのか・・鳴らすべきところで色々なポーズを取りながら鳴らし、止まるところでは止まり・・
しかしそれは完全なるオリジナルダンス。踊っているのは次男だけ。

お隣のマラカスの男の子に絡みながら、アフリカンシンフォニーらしく、ダイナミックな動きで、表情も豊かに踊り倒していた。

私は、「ど、どうしよう・・合ってんのか、これ・・」とかなり動揺していた。
1人踊り狂う次男。
しかし陶酔しきっているという訳ではない。
その場を移動することなく、鳴らす時にはしっかりとポーズを取りながら鳴らし、鳴らさない時にはピタッと止まっている。
リズム感も無駄に良い。

最高や・・・
やるやん・・・

いやいや!
これは誉めていいやつなのか?
合ってるのか?
頭どつきにいかなあかんやつなのか?

ぐるぐると色々な思いが駆け巡り、喉はカラカラ。早く終わってくれ!と願うが
そんな時に限って曲が長い!
4分半は長い、て!

やっと終わった・・
最後まで彼なりの解釈でのアフリカンシンフォニーを踊りきった。
演奏中テンションが上がったのか、ノッてきて何回も絡んでいた隣のマラカスの男の子は迷惑に思っていたのでは・・と心配していたが、退場の際には次男の肩を抱いて退場。
保護者の方はいつまでもそれに拍手を送って下さっていた。
張本人の次男はその拍手に応えて「ウェーイ」と言うように観客に手を上げて、退場・・・

はぁぁぁぁぁぁ~~~  
私はため息をつき、恐る恐る隣の保護者のお顔をちらっと見て、小さな声で「すみません・・」と言うのが精一杯だった。

すると、その保護者の方は「良かったよ!」
違う保護者の方も近づいて来てくださり
「めっちゃ良かったよー!」

先生方も私の肩を叩きながら、「良かった~!」
私が、「あれ、合ってんの?頭どつきにいかなあかんやつとちゃいますん・・」と言うと、「何言ってんの!良かったに決まってる!」と。

教頭先生も「良かった、良かった!」
支援の先生も「良くがんばった~!本当に良かった。」
指揮をしていた担任の先生も「鳥肌立ちました!」

後で懇談の際に話を聞くと、担任の先生は指揮をしていて、かなり笑いを堪えていたそう。
「あそこで僕が笑うと崩れる、と必死でした。」
そのお陰で子供たちはみんな〝素〟で真剣に演奏できた。
これは普段からダウン症次男の独特な言動に大袈裟に反応せず、その場に好ましくない言動を聞いたり見た時には、「完全に無視するのではなく、〝思いやりの無視〟をしてあげて」と支援の先生からの指導があるから。

今回は〝好ましくない行動〟ではないが、かなり面白いダンスだったので、1人が笑い出すと、崩れてここまで素晴らしい演奏にならなかっただろう。

前列のお母様方はクスクス笑ってくれていた。
参観が終わった後、職員室で他の学年の先生方も動画を見て、大爆笑だったらしい。
支援の先生曰く、「教員的には〝大絶賛〟です!」

ポジションがステージの真ん中だった件について、私が「先生、真ん中て!勇気あり過ぎでしょ!」と言うと、「え?そうですか~?」としれっとしていた。

支援級を持つのが初めての先生で、次男の扱いにはご苦労されている部分も多々見られたが、そんなところは大胆やな・・

しかし、そんな大胆な判断のお陰でこの音楽参観になったのでは。
もしベテラン先生だったら、おそらく私に「お母さん、どうしましょう?」と聞いてこられて、私は「悪目立ちしなかったら何でもいいです。」と答えただろう。
そしたら、端っこで先生がすぐに駆けつけられる位置で、目立たない楽器を演奏していただろう。
それはそれで何の問題もなく、親としても満足な結果だったと思う。

しかしそれだと〝注目されてる!〟という本人自身の盛り上がりは少なく、ここまで踊ってはいなかったのではないか。
ここまで本人の可能性を引き出すことにはならなかっただろう。
まぁ、これは最悪のパターンになる可能性も少なくはなく、一か八かやけども・・

しかし、何というか、支援て「理屈」とか「テクニック」ではないんよなー、と改めて実感させられた経験だった。

支援教育は専門知識が大事なのではない、と改めて感じた。
頭で考えることも大事だが、最後はやっぱり支援する人それぞれの「人柄」な気がする。
その時、その子に必要なものを汲み取れる力や、人として本質的に相手のことを思いやれるかどうか。

そんな偉そうなことを言っている母ではあるが、あれだけのパフォーマンスをした次男をすぐに誉めてあげられなかったことを恥じている。
周りの保護者の目を気にしてしまった。
自分の子供だけが目立ち、全て〝持っていった〟形になってしまったことを
「すみません」と言ってしまう日本人母。
「みんなと一緒」の意味もかなり考えさせられた。

ちなみにお隣のマラカスの男の子は5月から編入してきた転校生。
おそらく前の学校ではインクルーシブ教育ではなかったであろうから、かなりの衝撃だったと思う。
一応、その男の子のお母様に「マラカスの演奏中にかなり絡んでしまい、演奏のじゃまをして申し訳ありませんでした。」という内容のお手紙をお渡ししたのだが、「全然大丈夫です。逆にうちの息子の方が次男くんと打ち解けようと躍起になっていた様子でした。」とメッセージをいただき、涙が出そうだった。

そんな、結果オーライな音楽参観。
最後の懇談では担任の先生と支援の先生とで、音楽参観の話を蒸し返したり、普段の授業の様子の写真などを見ながらゲラゲラ笑っただけで終わった。

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