123天文台通りの下町翁 雑記帳 ~落合恵子・著「明るい覚悟 -こんな時代に-」
文化放送の深夜放送「セイヤング」のパーソナリティだった落合恵子。当時は"レモンちゃん"と呼ばれ爽やかな声と容姿、落ち着いた話のお姉さんということで中高生時代、特に受験勉強に飽きて横になり、そのまま寝入ってしまう前に耳を傾けていた記憶が残っている。その後の彼女の作家としての執筆、絵本の店クレヨンハウス創業、実母の介護、そして反核や平和についての動きなどを横目にしつつも、日々の生活に追われて数十年。
会員になっている高麗博物館の設立40周年記念行事の講演で、じかにお話を聴き、サインも頂けるという事で何冊か並んでいる落合本から題名に惹かれて手にしたのが『明るい覚悟』だ。
頂いたサインは豪快なタッチだったが、読んだエッセイの数々は精緻そのもの。日々の彼女の暮らしぶり、小さな庭に植えた様々な花の手入れ、旬の野菜を手早く何品もの手料理にしていくさま、母親との生活の記憶、心置きない友人たちとのやりとり、彼女自身も老いていく中で大切に想ってきた人たちも老い、あるいは早くに先だって逝く人もいて、それを見送る心持ちなど、細やかに目の前に浮き上がらせてくれる。
それあるよなぁと一回りほど年下のリスナーだった私も老境に差し掛かっているので、味わいが一層染み入る、良質な一編一編のエッセイには、ちなんだ絵本や書籍、見つめている社会の動きにまつわるエピソードも散りばめられ、落合恵子ファンならずとも読みたい一冊である。 読者にも明るい覚悟を胸に灯らせる良い一冊になる。