めでたしめでたし
秋晴れ、そよ風、笑顔。
日本海リーグ第39回戦、富山GRNサンダーバーズホーム最終戦は毎年恒例、試合後にグラウンドで選手達と一緒に集合記念写真を撮る。
再来年NPBオールスターゲームが開催される富山アルペンスタジアムのフカフカの人工芝を踏み、センターバックスクリーンを見上げ、スコアボードに並ぶ選手達の名前を噛み締める。
今シーズン公式戦40試合、そのうち37試合を球場スタンドまで足を運び、対NPB交流戦オリックスバファローズ、北海道日本ハムファイターズ、オープン戦3試合、小矢部球場や城光寺球場での練習、日本海リーグ選抜メンバーによる対GCBL(韓国独立京畿道リーグ)戦など、今年の半年間は独立リーグ富山GRNサンダーバーズにプライベートの時間を捧げ、張り付いた。
始まりは3月9日、三井アウトレットパーク北陸小矢部で14名の新入団選手会見に出席し、主たる目的は現役時代に声援を送っていた元日本ハムファイターズ島崎毅ピッチングコーチにサインを頂く事だったけれど、
「NPBに上がります。」
と目を輝かせ、口を真一文字にする彼らの明鏡止水な姿勢を目の当たりにしたから。
5月11日高岡ボールパークでのホーム開幕戦、チケット半券に記載されたナンバーによる抽選会で当選した三好辰弥選手のサイン色紙。
新入団でいきなり四番打者に起用されたが、海の者とも山の物ともつかない猫背気味で188cmの青年は、どこか天然でいつも何処を見ているのか分からない不思議君。
そんな彼がフル出場で打率.346、HR6本、打点37とリーグ三冠王に輝き、逆方向に強い打球を飛ばせるのは、不甲斐ないプレーをしても「すいません。」とただ一言だけ発し、試合後いつもよりバットを振る時間を永遠に増やすから。
今日の試合でも放ったのライトスタンドに弾丸ライナーで飛び込むツーランHRは、球場を訪れたNPBスカウト陣に強烈なアピールとなり、10月には何処かの新人入団会見でスーツを着て、拳を振り上げる姿が目に浮かぶ。
13回目の先発登板。
昨シーズンは宮崎フェニックスリーグにも派遣され、首脳陣からの期待を一身に受けていた林悠太投手。何故か彼が登板すると打線の援護が無く、今までの登板でまさかの白星0。
まるで自分に言い聞かせる様に笑顔を見せない彼は、先発予定2時間前には必ずスタジアム横の通路でストレッチとバランスボール、ラバーを使ったウォーミングアップを、黙々と淡々とこなす姿をよく見せた。
あまりの不運にたまりかねた自分は、前回の登板12回目の試合前に初めて彼に声をかけ、親指を立てるポーズを送った。
「ありがとうございます。」
鋭い眼光でただそれだけを言った彼からは、並々ならぬ決意を全身から溢れ出ていた。
それでも、その試合勝てなかった。
6回打者26人75球2三振失点1と、キレのある変化球で打たせて取るピッチングにより先発としての役割を充分に果たした彼は、試合後に自ら自分に話しかけてきた。
今まで見た事がない、クールフェイスの彼が、はじけんばかりの笑顔で
「ありがとうございます。やっと勝てました。」
と会釈をする。
”13”と言う数字は決して、不運なナンバーでは無い。
独立リーグ最強偏差値、京都大学出身川渕有馬投手が最後の最後に今季初登板。
怪我で苦しみ、バックネット裏でスコアシート記入、ボールボーイとしてグラウンドを駆け回る日々。シーズン当初からそんな姿を見せていた彼は、木曜日の練習で33球を放り、一球一球あらゆる球種を確かめながら今日のマウンドに立った。
「ガチガチに緊張してました。」
とアルペンスタジアムのブルペンで東田捕手を相手にウォーミングアップをする彼に向かっておいそれと声を掛けれる雰囲気は無く、ミットだけを見つめ腕を振り、左足を踏み込んでいた。
打者4人、13球。
一ゴロ、一ゴロ、左安、ニゴロと復帰登板を無難に終え1回を抑えた彼は、つきっきりで指導してくれた島崎毅コーチに感謝の念を送りながら、ゆっくりとベンチに足を向けマウンドを降りた。
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1対9と大勝したホーム最終戦は、リーグ優勝を逃した消化試合にもかかわらず、そんな雰囲気は全く漂っていない。
昔話の様にめでたしめでたしで終わり、安堵した表情の選手達一人一人に、ありがとうと伝えながら固い握手を交わす。
この選手達の半数は、もう来年はここに居ないかも知れない。
込み上げる寂しさは、隠しようのない狭霧。
でも、五十になれば五十の縁がある、濃厚で燦たる遅めの青春を過ごせた半年間だった。
(写真は全て筆者撮影)