Day39―視線から自閉症者を識別する
今回は臨床心理、医学的トピック。
https://doi.org/10.1186/s13229-016-0083-y
ASD者と健常者を、視線計測によって簡易的に見分けようという研究。人の映像を見ているときの視線を計測し、注視時間の差を比較。結果、いくつかの条件の写真で有意差が見られ、視線計測器で見分けられる可能性を示唆した。
背景
My #100daysOfAbstract ではたびたび登場しているが、ASD (Autism Spectrum Disorder)はコミュニケーションの障害などに特徴づけられる発達障害の一種である。その特徴として、他者の目線を極度に避ける(あるいは単に見ない)傾向が見られ、煩雑な診断の手続きを踏まなくてもASD者を見つけることはある程度可能であると考えられている。
実験
大人のASD者26人と、コントロール群35人を対象に実験を実施した。刺激として、8種類の数秒間続く映像を提示した(a. 人の顔の静止画、b. まばたきしている映像、c. 口が動いている映像、d. 沈黙している動画、e. 話している動画、f. バイオロジカルな口と目の映像、g. 同じサイズで人と図形の映像、h. 小さいサイズの図形と大きいサイズの人の映像)。ここでバイオロジカルな映像は、ドットでヒトの動きを表現している映像である。
結果、a, b, dでは、ASD者は目を見つめている時間が有意に短かった。また、b, dでは口を見つめている時間が有意に長かった。また、gではASD者は有意に人より図形を見つめており、その傾向はhのように図形が小さい場合でも見られた。
今回の実験では注視時間と、ASD診断基準となるIQ検査(WAIS-III)、Social Responsiveness Scale (SRS) との相関を見た。しかし、相関のある注視時間は少なく、ASD群においてbの口を見つめる時間とSRS、コントロール群においてgの図形を見つめる時間とSRSに相関が見られた。
この結果を基に、自閉症の診断を下せそうな注視時間の閾値をa(目を見つめる時間と口を見つめる時間), g(人を見つめる時間)で設定することができた。
所感
群間で差を見て、さらに尺度との相関を見て…という手法が自分の研究と同じで親近感を持った。ただ同じような研究を行った身として、40通りくらいの相関を見て有意差があったというのは偶然な気もする。
発達障害のある人は、人間だとぱっと見るだけで何となくわかったりするが、今回の実験はそのことを体系的に示している。しかし、結果をよく見るとASD者は分散が大きく、「一概に言う」ことが難しい分野に対して大きく切り込んだ研究だと感じた。
今後のこのような研究の発展性として、歩く映像からディープラーニングで識別するとか(犯罪者を見つけ出す技術は既に発表されている)、ウェアラブルの振動から識別するとか、色々応用可能性があると思う。しかし、プライバシーの問題など守るべきものが多すぎるため、アイディアはあってもなかなか実現はできない分野だと思う。理解ある研究が増えると個人的には嬉しい。