
ミズタマリ 1-4
「そっと、そーっと、頼むから、そっと触ってくれよ。」
カイトが、心配そうな声で何度も言った。
「解かってるよ、この間もちゃんと、慎重に触っただろ。」
アキラが笑って、手の中の小さな布包みを、開く。
赤黒い古い布。
よく見れば、絹と思える布地の中から出てきたのは、 小さな、細長く丸い入れ物で、不思議な色合いをしていた。
古い物なのだろうか?
それにしては、プラスチックのような照りと艶。
そして、強弱があるものの、 全体がミルクを沢山入れたような、コーヒ色をしている。
それだけ見れば、安物の湯のみ茶碗のようだ。
もし、プラスチックの湯のみ茶碗が、あればだが…
それは、湯のみに見えるが、もしかしたら、 飲み口のほうが心持広がっているから、杯かもしれない。
とにかく、それを、 入っていた木箱に、アキラがそっとのせる。
「これが… 宝物なの?」
カイトとアキラに準備が出来るまで廊下で待っているように言われた香が、 やっと呼ばれ、入ってきて木箱の上の杯を見るなり、そう言った。
「そうだよ、これが、宝物さ。」
アキラは自分の家の物でもないのに、胸を張って自慢する。
「ごめんね、小林さん。宝物って言っても、この家に伝わっているだけで、 実は、俺の何代か前の先祖が作った。普通の焼き物なんだよ。 今だと、同じような物がプラスチックで沢山あるけど、 これを作った時代には、この色合いや、光り方が珍しかったらしくて、 何だか、とても大切にされていたんだ。いわくも色々あって… この間、祖父が亡くなった時、父さんが形見分けに貰ったんだよ。 期待させてごめんね。女の人は、こんなのつまらないだろ。」
カイトは香の声が落胆していたのを感じ取って、急いでそう説明する。
「あ、ごめんなさい。そんなんじゃなくて…」
香がカイトの慌てぶりに驚き、言い訳を言いかけると、
「でもな、これには、凄い秘密があるんだぜ。」
アキラが香に向かって、声を落としてそう言った。