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ミズタマリ 1-2
「じゃあ、行って来るけど、起きてゲームなんかしちゃ駄目よ。 ちゃんと、薬飲んで、横になってるのよ。解かった?」
母は、そう念を押して、仕事に出で行った。
「何だよ、子供が病気なんだから、家にいろよ。」
カイトは母の姿が見えなくなってから、そう文句を言った。
香の傘から逃げるように帰ったあの日。
散々濡れたカイトは、体の熱を冷ますように、そのまま夕食まで着替えず。
夜中熱を出した。
自分の不注意で引いた風邪、それでも母は、優しく接してくれた。
昨日と一昨日、休んで看病してくれたんだから、母は悪くない。
パートだからってそうそう休めないだろう。
仕事とはそういうものだと父も言っていた。カイトも解かっている。
だけれど、一人で家にいるのは、嫌だった。
「何だよ、ゲームぐらいしても別にいいじゃないか。」
ぶつぶつ独り言を言いながら、 それでも言われたとおり薬を飲んで横になる。
文庫本を布団に持ち込んで、暫く読んでいたが、 いつの間にか薬が効いてきたのか、カイトは眠りに落ちた。
・・・・・・・・・・
ピンポーン! ピンポーン!
耳障りな電子音で目を開ける。
重い瞼をこじ開けて、窓から外を見ると、香とアキラがいた。
不思議に思って時計を見ると、もう午後も遅かった。
「小林君、ごめんね、風邪引いてたのに、 先生に頼まれて、どうしても渡すプリントがあって、」
ドアを開けると、香がすまなそうにそう言って、 何枚かの紙を差し出す。
「あ、ありがとう。ああこれ、役員のやつか、 解かった母さんに渡しとく。わざわざありがとう。」
それだけ言って、香と後ろにいるアキラに礼をする。
ドアを閉めようとしたら、その手をアキラが止めた。
「何だよカイト、愛想悪いな。せっかくお見舞いに来たのに。 少しならいいだろ、いいもの持ってきたんだ。」
返事も聞かず玄関に入る。
「なあ、小林も上がれよ、カイトの家、入るの初めてだろ。 あのなあ、実は、カイトの家には珍しいものがあるんだぜ!」
そう言って、香も誘った。
「いいの? 小林くん。」
カイトは何も言えず、うなずいた。
アキラの強引なところには、なぜかいつも逆らえない。
自分の家に香がいるのは、困るような気持ちの反面、嬉しい。
「それじゃ、お邪魔します。」
自分の靴とアキラの靴も揃えて、香が家に上がる。
ふと自分がパジャマだったことに気が付いたカイトは、 少し恥ずかしくなって、赤くなった、
そして、着替えようと考えながら部屋に戻った。