「笑ゥせぇるすまん」オリジナルストーリー/「骨董ぐるい」前編・みけ子作
*藤子不二雄(A)氏原作の「笑ゥせぇるすまん」。TV放送されていた当時、大好きで毎回楽しみにして見ていました。喪黒福造氏の首相就任⁉️を祝い、大昔に考えたオリジナルストーリー思い出して、1本のシナリオもどきにまとめました💦 全部で5千字近くになってしまいました。お時間とご興味のある方は是非お読み下さいませ〜♬
モノローグ
私の名は喪黒福造。人呼んで笑うせぇるすまん。ただのセールスマンじゃございません。私のとり扱う品物はココロ、人間のココロでございます。お〜ほっほっほっほほ〜。
この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり。そんな皆さんのココロの隙間をお埋めいたします。いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。さぁて、今日のお客様は……。
古尾実夫(こび じゅつお)(43歳・メーカー勤務・営業職)
お〜ほっほっほっほほ〜。
古美術店のウインドウの前に佇む、やや疲れた雰囲気のスーツ姿の男。少しくたびれたスーツに中肉中背、特徴のない顔だが左の頬に大きめのホクロのある顔。視線の先には鶏龍山(けいりゅうざん)の徳利。大胆な絵付けで雅味のある土味の肌。そんな李朝陶器の逸品をじっと見つめる古尾。敷居の高そうな高級骨董の店のウインドウをため息を吐きつつただ見つめるだけの古尾。そんな日々を過ごし、数ヶ月経つ。古尾の背後にそれを見つめる喪黒の後ろ姿……。
↑京都の骨董店・いもとさんのページを参照させていただきました。
ある日、いつものように憧れの徳利をまた見に訪れる古尾。しかし、そのウインドウには毎日見つめていた鶏龍山徳利はない。唖然とする古尾。
古尾「ない……無いっ!あの鶏龍山の徳利が無い❗️売れてしまったのか〜○| ̄|_。あぁ、憧れの鶏龍山がぁ。うううう〜っ」うなだれる古尾。
その時、骨董店から荷物を手にして出てくる喪黒。
喪黒「古尾さん、これあなたが買いたかった鶏龍山の徳利ですよ。私が買いました……。それにしても骨董って高いですねぇ。この徳利欲しいですか?よろしければこれ、あなたに差し上げますよ。いかがですか?」
古尾「えぇっ⁉️鶏龍山の徳利を❓❓❓どうしてまた??それにしてもどうして私の名を?」
喪黒「申し遅れました。私はこう言う者です」
名刺を差し出す喪黒。
場面変わって「Bar 魔の巣」。グラスを黙って磨いているマスター。カウンターに並んで座って古尾と話す喪黒。
喪黒「古尾さん、私は少し前からあなたがあの骨董店でこの徳利を欲しそうに見ていたのを知っていましたよ。本当に愛しそうに見つめていましたね。その古尾さんの骨董を心から愛する気持ちに、私は感動したんですよ。ですからこの徳利は差し上げます。遠慮なく受け取って下さいよ。ほっほっほ。」
古尾「し、しかし……。」
喪黒「欲しいんでしょ?差し上げるって申し上げているんですよ。もしご必要がなければ、他の人にお譲りするまでですが〜。」
古尾「そんなっ!下さい!ぜひ私に下さい‼️どうしても欲しいです❗️お願いしますっ‼️」
喪黒「そうでしょ?これは心から骨董を愛する古尾さんが持ってこそ、ふさわしい逸品ですよ。遠慮なく受け取って下さいね。」
古尾「あ、はぁ、本当にうれしい事です。しかし夢じゃないかと……。」
喪黒「お〜ほっほっほ。いえね、だいぶ前からこの徳利にご執心だった古尾さんの姿が気になっていましてね。こんなに愛される品物を私も手に入れたくて買ったのですよ。でも私じゃあ宝の持ち腐れです。ほっほっほ。良かったら骨董にハマったきっかけなど、お聞かせ願えませんか?」
そんな喪黒を横から見つめる古尾。自分が骨董の品にハマったきっかけをポツポツと話しだす。
古尾「私はしがないサラリーマンです。給料も安いです。こんな私ですが、学生の頃から絵を描いたり、陶芸に取り組んだりと美術関係のことが大好きでした。休みの度に美術館や博物館に足を運びました。女房とはその美術館で知り合って結婚しました。女房はこんな安月給のサラリーマンである私をいつも助けてくれて、骨董のうつわを少しずつ買ってコレクションすることも、反対しませんでした。『あなたが好きな骨董に囲まれて、嬉しそうにしているのを見るのが好き』ってまで言ってくれて……。だから毎月、ちょっとずつ小遣いを貯めて、気に入った骨董を買うのを本当に楽しみにしていたんです……。」
喪黒「ふむふむ」
古尾「骨董については、図書館に通って図録を見て勉強したり、博物館にも頻繁に通いましたよ。その中で出会って惚れ込んだのが、李朝の酒器類でした。昔から、李朝のうつわは日本人の精神性に合っていると言うのか……。とにかく心を奪われるような、わびた美しさなのですよ。ただ本当に愛好家も多い李朝の酒器は値段が高くって。自分の小遣い程度で買える品物はほとんどありませんでした。だからいつも骨董店のウインドウで指を咥えて見ているだけでした。でもやっぱり李朝の酒器を手に入れたい気持ちは止められなくて……。最近はさすがに女房も、私の骨董趣味を嫌がるようになりましてね。それも当然です。安月給は変わらず、子供たちの習い事費用や学費がかさむんですから……。」
喪黒「そうでしょ?そんなもんですよ。サラリーマンをしていて、そんなに高価な骨董の品を頻繁に買えるはずはありません。でも私はね、こんなに深く骨董を愛して、大切に思ってくれるあなたに所有されてこその骨董のうつわだと思うんですよ。その持ち主に相応しいのがあなた、古尾さんですよ。どうかこの徳利。もらって下さい。」
戸惑いつつ、でも欲しい気持ちを抑えられない古尾。続けて言う喪黒。
喪黒「この鶏龍山の徳利は差し上げます。ただ、この徳利を最後に、他の骨董に目をくれたり、新たに買ったりしてはいけませんよ。ほっほっほ。」
古尾「も、もちろんです❗️こんな夢のような素晴らしい品、一つあれば十分です。一生大切にします❗️他のものを欲しがったり、買ったりしません。誓います‼️」
喪黒「これは本当に骨董を愛する古尾さんに対する、私の心からのプレゼントですからね。いいですか、お約束は絶対守って下さいね。金輪際、他に目移りしたり骨董に入れ込んで、ご家族を経済的に追い込んだりしてはいけませんよ」
喪黒「ど〜〜〜ん‼️」
古尾「うわ〜〜〜〜〜っ❗️」
喪黒の勢いに弾き飛ばされる古尾。
後編へつづく……
「笑ゥせぇるすまん」はどのストーリーを見直しても面白いです。作られた時代背景は違いますが、今見ても新鮮なんですヨ。
https://www.youtube.com/watch?v=N8t6CMQuHn4
↓鶏龍山ではありませんが、ちょっと古い雰囲気のあるガラスの徳利です。秋の夜長に日本酒などいかが?