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ファインダーの向こう側

作:みけれこ

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●比率…♂︎1:♀︎1【性別変更可○】
●時間…約20分~30分

《登場人物》
♀︎前川 風夏(まえかわ ふうか):27歳。事務派遣社員。好きな飲み物は紅茶。高校生の頃に知り合った1つ下の後輩、秋久に10年間片思いをし続けていた。3回告白してフラれている。

♂︎加取 秋久(かとり あきひさ):26歳。写真家。好きな飲み物はコーヒー。長い付き合いだが、風夏との会話は敬語が混じりつつ、基本的にはタメ口。風夏の気持ちには答えられないが、自分なりの償いで長いこと友人付き合いを続けている。

※セリフ量は風夏のが多め。ゆるーい会話劇です。

▽以下から本文▽
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-------------古びたアパートの一室。コーヒーの香りが静かに漂う中、カメラをずっと弄っている秋久。その横顔を、コーヒーを飲みながら静かに眺める風夏。

風夏:ねえ、秋(あき)くん。

秋久:…ん?何?

風夏:コーヒー冷めてるよ。

秋久:あ、忘れてた。

風夏:さっき自分で淹れたのに。

秋久:カメラに夢中になってた。

風夏:そうだね。

秋久:…ごめん。久しぶりに会えたのに、何か。

風夏:別にいいよ。気にしてないから。ただ、折角淹れたコーヒー、冷めちゃってるから気になっただけ。

秋久:まぁそれは、冷めても美味しいよ。大丈夫。

風夏:そっか。…ねぇ、凄い今更な事言ってもいい?

秋久:え、何?

風夏:実は私、コーヒーより紅茶の方が好きなんだ。

秋久:…本当に今更なこと言うね?これまで何度かこうして家に来て、コーヒー飲んでたのに。え?てか、前にコーヒー好きって言ってたよね?

風夏:うん。だってさ秋くん、凄い拘ってコーヒー淹れてくれるんだもん。言いにくくて。あと、あの時コーヒー好きって言ったのは、秋くんに合わせたっていうか。…正直、本心では無かった。

秋久:まじか…。えー…、それって俺のせいって事じゃん。何か、すみません。

風夏:いや、でもね、秋くんが淹れてくれるコーヒーはさ、これなら飲めるって思ったんだよね。飲みやすくて、びっくりした。やっぱり、拘ってちゃんと淹れると違うもんなんだね。

秋久:そりゃそうでしょ。それが伝わっていたなら良かった。…まだ飲みます?淹れるよ?

風夏:ううん。まだ残ってるから大丈夫。……あのさ。

秋久:ん?何?

風夏:昔話しよっか。

秋久:…昔話?……むかしむかし、あるところに…ってやつ?

風夏:(吹き出しながら)違うよ。言い方が悪かったかな。なんて言えばいいんだろ。んー…思い出話?私達の、昔の話をちょっとしたいなって思って。

秋久:何でまた急に。

風夏:別に?なんとなく。久しぶりに会えたし。ちょっと昔の事をね、話したくなった。

秋久:…ふーん。

風夏:秋くんは、そのままカメラいじりながら、聞いてくれてればいいよ。

秋久:…分かった。

風夏:うん。……秋くんと出会ったのは、高校の学園祭の時だったよね。撮影部だったけ。その部活の展示会をやっててさ。それを観に行ったら、秋くんと出会ったんだよね。

秋久:そうだったね、懐かしいね。あの頃の写真とか下っ手くそで、今見ると笑えるけど。でもあの時にしか撮れない味みたいなのがあって、あれはあれでいいかって思えたりするんだよね。

風夏:そうなんだ。私、あの時見た秋くんの写真、何か凄く好きだったんだよね。上手く言えないけれど、凄く惹かれた。

秋久:そうなんだ。確かに、熱心に見てくれてる人がいるなって思ったのを覚えてる。

風夏:そう。声掛けてくれたもんね。それこそ熱心に、その写真の事とかカメラの事とか語ってくれてさ。正直、何を言ってるのかは、よく分からない事も沢山あったけど、凄く楽しそうに話してる秋くんは、素敵だなって思った。

秋久:うわぁ。それはちょっと痛い思い出だ。引いてる前川(まえかわ)さんに気がつきもせずに、熱く語るとか。ほんと、痛すぎるって。

風夏:確かに、周りの人達も若干引いてたよね。でも、秋くんは何も気にせずに熱く語ってて。あれはちょっと面白かった。

秋久:黒歴史ってやつ。

風夏:あはは。まぁ、いいじゃん。それだけ好きな物があるって凄いことだなって、あの時の私は思ったもん。

秋久:引きつつ、話を聞いてくれてたもんね。前川さん。

風夏:凄い熱心に話してくれてたから、それをぶった切るとかできなかったしね。

秋久:ほんと、お人好しだよ。

風夏:ええ、よく言われますとも。

秋久:やっぱり言われるんだ。

風夏:うん。あの時も言われたよ。一緒に見に行ってた友達は、秋くんの話を切り上げられない私の事を置いていって、さっさと他のとこ行っちゃうし。んで、あとあと落ち合わせたら「お人好し」ってさ。それ言う前に、助けてくれてもいいじゃん?って思ったのをよーく覚えてる。

秋久:…俺の話、やっぱりつまらなかった?

風夏:いやー?さっきも言ったじゃん。話してることの内容は、よく分からなかったけど。でも、物凄く熱心に話をしてくれる秋くんは、素敵だなって思ったって。それに、あの写真も本当にとても素敵だったから、だから、つまらない、なんて事はなかったよ。流石の私も、つまらない話を永遠と聞いていられる程、お人好しでは無いよ。

秋久:…そっか。ならまぁ、よかった。

風夏:あれが切っ掛けで、秋くんと仲良くなったよね。

秋久:確かに。

風夏:あの出会いがあってからさ、不思議と秋くんとは、偶然によく会うようになったよね。本当、あれは何だったんだろ。学校外で、カメラ片手に散歩している秋くんと出くわすとかさ。何かそういう事が凄く増えた。

秋久:そう言われると確かにそうかも。あの後から、休日とかに出かけると、毎回、前川さんに出くわしてた。

風夏:ね。私も見かける度に、声掛けてたから。いつの間にか、秋くんの撮影に私もよく一緒について行かせてもらったりするようになってさ。

秋久:あー、あったね。懐かしい。

風夏:地元の大きな公園まで自転車で走ったりもした事あったよね。途中から急に雪がすんごい降ってきちゃってさ。

秋久:あったあった。やばい、めっちゃ懐かしい。

風夏:雪の中のチャリって、よく考えたら危ないよね。よく走ったな、私達。めちゃくちゃ降ってたよ、あの時。

秋久:まだそんなに積もったりはしてなかったから、できたんじゃない。

風夏:あーまぁ、確かに。帰宅してから、それなりに積もり始めてた気がする。

秋久:俺はさ、確かあの時フード被ってたけど、前川さん何も被ったりしてなかったから、髪の毛にめっちゃ雪ついてて、俺、はらってあげた記憶がある。

風夏:……そうだったかも。

秋久:結構びしゃびしゃになって、ぼさぼさ頭にもなってて笑った記憶。

風夏:突然の雪だったから、何も用意してなかったしねー。

秋久:はは、だね。

風夏:手作りのお菓子とかもよく作って、渡してた記憶もあるなー。懐かしい。

秋久:あったあった。よく貰ってた。最近は作ってないの?

風夏:作らないよ。お菓子作り、すっごい苦手なんだから。

秋久:え、そうだったの?だって、結構作ってたじゃん。

風夏:あの頃はね。でも、毎回作る度に失敗しまくって、家族に失敗作処理させてたし。お菓子作りしてる時の私の機嫌は、マックスで悪くなるから近づくなって家族によく言われてたんだよ。

秋久:まじで。何それ、笑えるね。何でそんなになってたのに、作ってたの?

風夏:さぁ、自分でもよく分からない。けど……多分、単純に友達に何かをプレゼントする事が好きだったからっていうのと、……あとは、秋くんがお菓子好きだって言ってたからじゃないかな。

秋久:……そっか。

風夏:うん。…秋くんと、どうしたらもっと仲良くなれるかなとか、距離を縮められるかなとか、結構悩んでたもん。あの頃の私、割と必死だったんだよ。

秋久:…そうとは知らずに、なんかすみませんね。

風夏:いいえー別にー?秋くんが謝ることは、何も無いんじゃない?

秋久:…なんとなく、言葉に棘を感じるのは俺の気の所為?

風夏:別にそんな事ないと思うけど。秋くんがそう感じるなら、そうかもしれないね。

秋久:うーーん…。

風夏:ふふ、まぁそれは置いといて。高校卒業してからは、会わなくもなったけど連絡は取り合ってたし、時々会ってご飯したりしてさ。あ、なんか、1回ポートレート?撮って貰いに、海浜公園に行ったこととかあったよね。あの時の海、めっちゃ綺麗だったなー!

秋久:…色々覚えてるね。言われると、俺も思い出すけど。なんとなく。

風夏:こう見えて、割と記憶力はいい方なんでねー。…それに、秋くんとの思い出だから、結構覚えてるよ。

秋久:……あのさ。………何か、俺に言いたいことあったりする?

風夏:んーーー。……言いたい事…というか。伝えたい事がある、かな。

秋久:………何?

風夏:…私、秋くんに告白って、多分3回くらいしたよね。

秋久:…うん。

風夏:初めの告白は、私が高校を卒業する時。2回目は秋くんが大学生になってから。で、3回目は、秋くんが大学を卒業した時、だったかな。

秋久:……本当、よく覚えてるね。

風夏:だよね。全部ちゃんと覚えてるんだよ、自分でも引いちゃうくらいに。

秋久:引いてるんだ。

風夏:うん。よくもまぁ、そんなに思い続けられるなって。何回もフラれて、そういう対象としては見られないって言われてるのにさ。流石、私。しつこい、粘り強いなって。

秋久:確かに、凄い…と思う。

風夏:ふふ、でしょ。……ちょっと格好つけた言い方をすると、私の心のカメラでずっと君との思い出を撮影して、残していってた感じかな。

秋久:…格好いいね。その言い方。

風夏:うん。…私のね、ファインダーの向こう側は、ずっと秋くんを写してた。10年間。

秋久:………。

風夏:何度告白して断られても、秋くんはこうして会ってくれたり、連絡を続けてくれてるでしょ。それはさ、君の優しさでもあったけど、同時に物凄く残酷な優しさだなって思ってた。だって、こんな風に2人で会ったりしてたら気持ちなんて、なかなか切れないし。…時々、秋くんの行動が思わせぶりなものに見えたりもして。ずっと私は、君に振り回されてた。

秋久:それは……、

風夏:分かってるよ。君にはそういう気は全く無かったって事とか。…私が君との事で、この先の恋愛に嫌気をさすとか、そういう事があって欲しくないって思っている事とか。…散々、そういう風に言われてきたわけだし。大きなお世話だけど。

秋久:………。

風夏:何度もそう言われて、それでもやっぱり気持ちを切り替えていくことは出来なくてさ。何度も何度も、君が必死に抱えてきたカメラの…向こう側に、私も写れないかなって頑張っちゃった。

秋久:…前川さん。

風夏:私にとっては君との思い出は、1つ1つが大切なものだったよ。しっかりとシャッターを切って、残していくくらい。それだけ、私にとっては大切なものだった。それは今も変わらない。

秋久:…それは俺にとっても。前川さんとの思い出は、大切だよ。楽しかった、どの時間も。

風夏:…そっか。それなら良かった。嬉しい。でもやっぱり、君のその優しさは残酷だよ。ごめんね、こんな事しか言えなくて。

秋久:…………。

風夏:だから、もうこんな中途半端な優しさは持たない方がいいよ。もしこの先、似たようなことがあったら。

秋久:………そうそう、ないと思うけど。

風夏:ふふ、確かに。私も、私みたいな人はそう居ないとは思ってる。けど、秋くんが気持ちに答えられないって思ったなら、もうこういう優しさは駄目だよ。

秋久:……うん、そうだね。

風夏:うん。(少し間を置いて)でね、もう1つ。今日は、これを伝えたかったんだけど。

秋久:……うん?

風夏:…秋くんにね、10年間、片思いしてたけど。もう私の心は、君に何も反応しなくなったよ。だからもう大丈夫。

秋久:……。

風夏:ふふ、本当に、長いこと時間かかったもんだなって自分でも笑っちゃう。…今までごめんね。ありがとう。本当にもう大丈夫だから、何も気にしないでほしい。

秋久:………。

風夏:急にこんな事言われたら、困るよね。何かごめん。

秋久:………。…その…。今日は…、それを伝えに来たの?

風夏:うん。久しぶりに連絡が取れて、会おうって話になった時から伝えようって決めてた。

秋久:…そっか。

風夏:うん。……でも、やっぱり君は、私なんて見てないんだなーって思った。ずーっとカメラと睨めっこしてるし。ちょっとだけ、やっぱり悔しいって思っちゃった。

秋久:ごめん。

風夏:別にいいよ。分かってたから。昔の私なら落ち込んでいたけど、今は、それでこそ加取 秋久(かとり あきひさ)だーって思うもん。笑っちゃうわ。

秋久:…やっぱり、前川さんってお人好しだよ。

風夏:そうですとも。そして、そのお人好しな私に甘えてたのは、君なんじゃないかな。

秋久:……そうかもしれない。

風夏:……でも私はね、そんな君のことがきっと好きだったんだよ。カメラに夢中な君の事が。あの時、夢中に語ってくれた君に、私は強く惹かれたんだと思う。

秋久:…………ありがとう。

風夏:うん。どういたしまして。…もうこうして2人で会うことはきっと無いけど、これからも君のこと、応援はしてる。

秋久:…はい。精進、していきます。

風夏:うん。楽しみにしてる。………っはぁーーー。ちゃんと伝えられたぁ。良かったー。

秋久:…今日なんか、ずっと様子がおかしかったのは、それのせい?

風夏:え、おかしかった?

秋久:うん。なんか変に緊張してる感じだったから。ソワソワしてるっていうか。

風夏:うわぁ、恥ずかしい。…いやだってさ、秋くんやっぱり普段と変わらずで、カメラばっか見てて、私に全然興味無さ気だし。どう切り出すか、すんごい悩んだんだもん。

秋久:うん、それは本当にごめんなさい。

風夏:まったくだ!

秋久:…コーヒー淹れ直すね。

風夏:え、いいよ。私、そろそろ帰るし。

秋久:……こんな事言ったら、怒るかもしれないけど。俺も、前川さんと思い出話したくなった。

風夏:はぁ?もうしたじゃん。

秋久:前川さん目線での思い出話でしょ。

風夏:そりゃそうだ。

秋久:今度は俺目線の思い出話、させてよ。

風夏:えー、何で。別にいいじゃん、もう。

秋久:……こうして会うのが最後、なら。最後に俺も、思い出話したいっていうか。前川さんに伝えたいこと、実は結構あるんだよなって気がついたから。

風夏:まーたそういう、思わせぶりな事を言う。

秋久:ごめん。そういうのは本当に無い。

風夏:分かってるよ。ほんと君って酷い男だな。今の言葉、今の私だから泣かないけど、昔の私なら大泣きしてるからね。

秋久:前川さんはもう少し、男を見る目をつけた方がいいよ。

風夏:ねぇ、それも散々今まで言われてきた気がするんだけど、まだ言う?殴っていい?

秋久:暴力反対。

風夏:くっそ殴りたい。

秋久:コーヒー淹れてきます。

風夏:逃げたな。

秋久:はは、いいじゃん。もう少し思い出話、付き合ってくださいよ。

風夏:どの口が言うの、ほんと。……多分1発は殴ると思うけど、それでいいなら。

秋久:1発くらいなら、受けますよ。殴られても仕方ないって思うことは、してきたと思うので。

風夏:……君のそういとこは、とっても嫌いだったな、昔から。腹が立つ。

秋久:お、そういう話、今日はどんどんしていきましょーよ。

風夏:……よーし、受けて立とうじゃない。覚悟しな。

秋久:どんなパンチも受けますよ。

風夏:言ったな。

秋久:物理的パンチは1発だからね。

風夏:まじで1発はいいんだ。

秋久:男に二言は無いんでね。

風夏:へぇー。よし、じゃあ、とりあえず1発。

秋久:どんとこい。あ、コーヒー淹れてからね。

風夏:殴る練習しとく。

秋久:こわ…。

[END]

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【作品掲載HP】
『^. .^{とある猫の言葉.•♬』
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