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だから僕は、猫になりたい。

作:みけれこ

※必読【ご利用規約→https://writening.net/page?LBztNP

〇猫になりたがりな僕等シリーズ
〈第1弾〉

●比率…♂︎1:♀︎1  【性別変更不可×】
●時間…約50分

※こちらの作品は、ほんのり同性愛(GL)を思わせる表現があるので、苦手な方はご注意ください。

《登場人物》
♀︎瀬戸内 雪(せとうち ゆき):社会人、26歳。近所の病院で医療事務をしている。優しく穏やかな性格。

♂丸岡 黒(まるおか くろ):高校2年生。目付きが悪く、幼い頃から虐められていた。前髪を伸ばして目元を隠している。人との関わりが苦手なのもあり、恥ずかしさもあり、生意気な受けごたえをする。(後半、長めのモノローグ有り)

▽名前のみ登場する人物
♀︎紗季(さき)…雪の幼なじみ。近所の洋菓子店に務めている。

♂︎葉山(はやま)…黒のクラスメイト。黒に最近よく絡んでくるようになった。


▽以下から本文▽
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

------------雪の部屋。2人でお茶を飲みながら談笑する2人。

雪:黒くんさ、最近毎日遊びに来てくれてるけど、お父さんやお母さんから、何か言われたりしてない?

黒:別に何も。…急にどうしたの?

雪:ん?いや、ちょっと気になって。私も、挨拶とか特にしてないし、大丈夫かなーって。こうして、黒くんとお話できるの、私はとても楽しくて嬉しいんだけれど、親御さんに心配かけてたりしたら、申し訳ないし。

黒:…別に、そんなの気にしなくて大丈夫だよ。母さんは滅多に帰ってこないし、父さんも仕事で遅くまで帰らなくて、殆ど顔合わせないから。俺が雪さんのとこに、こうして来てるのも多分知らないよ。

雪:え…っ!それは大丈夫なのかな?未成年のお子さんを、毎回家に連れ込んでいる事になるわけだし……。んーーー…やっぱり、今度、お父さんかお母さんに会えたら、私から言っとこうかな。

黒:連れ込んでるって……、もっと別の言い方があると思うんだけど…。…いいよ、別に。わざわざそんな事しなくても。どうせ、たいして俺に興味無いだろうし。

雪:そんな事ないよ。2人とも絶対、黒くんのこと気にしてるよ。おばあちゃんもきっとね。………お母さんは、おばあちゃんのお世話で殆ど帰って来れてないんだっけ。

黒:そう。婆ちゃんはもうほぼ、俺の事覚えてないんじゃない。色々忘れてきてるって言ってたし。

雪:会いに行ってみたらいいのに。きっと喜ぶよ。例え忘れられててもさ、おばあちゃんの黒くんへの愛は変わらないよ。

黒:……雪さんってほんと、そういう恥ずかしいことよく簡単に言えるよね。

雪:恥ずかしくないよー。大切な気持ちじゃん。こういう気持ちは、忘れずに持っておきたいじゃない。

黒:…そう、かもね。……まあ、気が向いたら、会いに行ってみる。

雪:うん。……実はさ、この間うちの病院で黒くんのお母さんとおばあちゃんを見かけたんだ。2人とも元気そうだったよ。

黒:ふーん。なら、いいけど。

雪:もーー、本当は黒くんだってお母さん達の事、気になってるくせに。もっと素直になったほうがいいよ。

黒:元からこういう性格なんで。

雪:可愛くないなー。

黒:別に、可愛いなんて思われたくないし。

雪:ふふっ。そうですねー。

黒:……てゆうか、雪さんこそさ。

雪:うん?

黒:大丈夫なわけ?

雪:何が?

黒:……毎日のように、…仕事終わりにさ…俺がこうして遊びに来て…邪魔とか、嫌、とか…ないの?

雪:何言ってんの。無いよ。さっきも言った通り、黒くんとこうしてお話できるの、楽しくて嬉しいんだから。こうして、紗季(さき)ちゃんのとこのケーキを、一緒に食べてもらえるのも嬉しいし。

黒:………そう。ならいいけど。

雪:それに無理な時はちゃんと伝えてるし!黒くんこそ、何も気にしなくて大丈夫だよ。あ、でも、ちょっと不思議に思う時はあるよ。黒くんと、こういう時間を過ごしてるのが。

黒:不思議?

雪:うん。私もさ、このマンションに住み始めて、もう随分経つけど。今までなかなか、黒くんと接点を持つ機会って無かったじゃない。お互い隣に住んでる人っていう認識しか無くて、時々顔を合わせた時に軽く挨拶をする程度でさ。

黒:まあね。

雪:それがまさかさ、こんな風に、一緒にケーキを食べながら、お茶をする仲になるなんて思わなかったなーって。何か、人との縁って本当に不思議だなって。

黒:…まぁ、確かに。

雪:ふふ。

黒:なに笑ってんの?

雪:いや、なんか。こうなる切っ掛け?になった日の事、思い出しちゃって。今思うと、あの時の黒くん、何か可愛かったなーって。

黒:また可愛いって言う…。

雪:ふふ、ごめんごめん。だって、本当に可愛かったんだもん。何か捨て猫みたいで。

黒:捨て猫って…。

雪:ふふふ。だってさ、学校帰りに突然の雨にあって。びっしょりと濡れてるのに、鍵を忘れたからって、家にも入れずにさ、すっごく震えて玄関前に座ってて。その時に、その長い前髪から覗いた瞳が、とても寂しげで。何か不安と寒さに怯えてる、子猫みたいに見えたなーって、ふと思い出しちゃった。

黒:俺は、結構死にそうだったんだけどね。

雪:知ってるよ。あの時の君、真っ青な顔してたし!仕事帰りにあんな場面に出くわして、何事?!って驚いて、思わず声掛けちゃったんだから。

黒:ふ…っ。あの時の雪さんの必死な感じは面白かった。

雪:そりゃ、必死にもなるでしょー。お隣に住む、若い男の子がそんな状況で居るんだから。とりあえず、家に入れないなら、自分の家に入れるしかない!って、私は割とテンパってました。

黒:結構強引に、連れ込まれたもんね、俺。

雪:連れ込まれたって…!そんな言い方、酷くない?

黒:いや、連れ込んでるって…さっき自分で言ってたじゃん。

雪:……………言ったわ。

黒:ふ……っ、本当、面白いね、雪さんって。

雪:何も面白くなんて無いですー。

黒:いや、十分面白いでしょ。あの日だって、勢いよく俺をこの部屋に入れたと思ったら、本当…凄いテンパってて。頼りになるんだか、ならないんだかって、見ててちょっと不安になったし。……面白かった。

雪:ちょっとー?大人を馬鹿にしたらいけませんよー?

黒:え、雪さんって大人なの?

雪:え!私!貴方と10も年が離れている、立派な大人なんですけど?!え?まって?今までどんな風に見られてたの?

黒:………結構、子供っぽいなって。

雪:現役高校生のくせに!何を言うか!

黒:だってほら、こうやってケーキを嬉しそうに頬張る姿とか。全然、大人の姿には見えないけど。

雪:ゔ……!!!だってそれは!!!紗季ちゃんのとこのケーキが美味しいから!!!仕方ないでしょー!?

黒:雪さんみたいな『大人』、見た事ないよ。俺。

雪:ああああ…。高校生にまで子供扱いされるなんて。いかんいかん。もっと大人な所を、ちゃんと見せていかないと、舐められっぱなしになるー。

黒:無理でしょ。

雪:こら!馬鹿にするのも大概にしなさい!私だってちゃーーんと、立派な大人なんだからね!

黒:へぇ。

雪:その信じてない視線よ。もー…。見てろよー。これから見返してやるからなー。

黒:もう既に、その反応とかが子供っぽいけどね。

雪:あーーー!!もーー!!可愛くない!黒くん!可愛くない!

黒:さっきは可愛いって言ってたけど?

雪:揚げ足とるな!!!!もーー!!

黒:ふ…っ。さっきからずっと、もーもー言ってるけど、雪さん牛なの?

雪:違います!誰のせいだと!

黒:…ははっ!やっぱり面白い。

雪:もおっ……まったく!!………それにしても、黒くん。出会った頃よりも笑う様になったよね。表情が柔らかくなったと言うか。

黒:………そう?

雪:うん。何か凍りついたような表情を、ずっとしている子だなーって思ってたから、何だか嬉しいなー。あの雨の日からもう、3ヶ月くらい経つんだね。早いような、そうでも無いような。

黒:…そうだね。

雪:あの時、急に声掛けちゃったから、黒くんも驚いたでしょ。

黒:…まさか声掛けてくるとは、思わなかったからね。………でも。

雪:でも?

黒:………あの時の雪さんに、俺は救われたよ。色々…と。

雪:色々と?

黒:…そ、色々と、ね。

雪:ふーん?よく分からないけど、何か力になれたなら良かったし、何よりも、こうして元気に居てくれて、本当に良かった。

黒:お陰様で。ありがとうございました。

雪:いいえ!どういたしまして!……でも、実は、あの後、紗季ちゃんからは怒られたんだよねー。

黒:…また出た、『紗季ちゃん』。

雪:なーによ。駄目なのー?

黒:……別に。

雪:んー?何か不貞腐れてる?

黒:不貞腐れてなんていないから。……で、何。その『紗季ちゃん』から、何で怒られたの。

雪:…いや、…知らない男の子を家に連れ込むとか、それはどうかと思うってさ。家に入れる前に、やれる事は、他にも色々あったんじゃないかーって。未成年に突然声を掛けて家に連れ込むとか、一歩間違えたら誘拐犯になるかもだし。あとはーー…。

黒:………あとは?

雪:あーーー…とはーー…。いや、まぁ…。。なんというか、年頃の男の子を平然と家に連れ込むとか、色々と危ないっとか、ね?

黒:え?雪さん、俺の事襲うの?

雪:いや!襲いませんけど?!

黒:なーに、顔赤くしてんの。やらしーお姉さんだね。

雪:赤くしてないし!

黒:何を想像してんだか。

雪:何も想像してません!もう!大人をからかわないの!さっさとケーキ、食べなさい!

黒:はいはい。いただきます。

雪:まったく、大人で遊ぶんじゃありません!

黒:別に遊んでないけど。雪さんがいちいち面白い反応するから。

雪:面白がってるってことは、遊んでるよね?

黒:さあね。…あ、このケーキ美味い。

雪:!でしょ?!でしょでしょ!それね、紗季ちゃんのお勧めで、最近、とっても人気があるんだって!いつも売り切れちゃうんだけど、今日は残ってて!やっと買えたんだよー!

黒:…………ふーん。

雪:ふーんって、ちょっとーー。なーによ、そのつまらなそうな顔はー。せっかく、紗季ちゃんのお勧めを、君にも食べてもらいたいなーって思って買ってきたのに。

黒:別にいつも通り聞いてるじゃん。いつもの雪さんの『紗季ちゃん』語り。…俺、その人に会ったこと無いけど、雪さんのお陰で知り合いに思えてきた。

雪:思えてきたー、だけじゃなくて。紗季ちゃんが務めてるケーキ屋さん、黒くんも行ってよー。1人で行きにくいなら、一緒に行ってあげるよ?紗季ちゃんにも紹介するし!

黒:いや別に。紹介なんてしなくていいから。

雪:ええー、紹介したいのにー。

黒:………雪さんが俺に、『紗季ちゃん』を紹介したいだけじゃん。

雪:バレてる!

黒:隠す気無いでしょ。

雪:ふふ。……だって、本当に素敵な子なんだよ、紗季ちゃん。昔からね、きらきら輝いてて。私はね、もうずっと大好きなんだ。

黒:………。

雪:またその、つまらなそうな顔ー。

黒:別にそんな顔、してないって。

雪:……はぁあ。やっぱり私、ちょっと紗季ちゃんの事、話しすぎなのかなー。

黒:何、急に。

雪:んー…。いや、昔から、こうやって紗季ちゃんの話、沢山しちゃうからさ。大好きだから、ついついしちゃうんだけど。でも、いつも相手からは、つまらなそうな顔をされたり、色々あってさー。

黒:…色々?

雪:あー、うーーーーん。…まぁ…昔、お付き合いしてた人、とかとね。嫌な顔されたり、嫉妬?みたいなのをされたりとか、ね。まぁ、もう昔の話だし、なーんにも気にはしてないんだけど!でもせっかく素敵な紗季ちゃんの話をしてるのに、何なのー!って、たまに思い出して腹が立つ時はあるんだよね!

黒:………ふーん。

雪:だから、まあ…黒くんもそうなのかなって、ちょっと心配になったと言うか。

黒:俺は、

雪:ん?

黒:………俺は、そいつらとは違うから。

雪:うん?

黒:…つまらないとか、思ってないし。嫌、とかも、思ってない、から。

雪:……本当に?

黒:……雪さん、いつもその人のこと、すっごい嬉しそうに話してるから…。……俺は…そういう雪さんを見てるのは、嫌じゃない、よ。

雪:……そっか、ありがとう。

黒:……いや、別に…。……俺、表情とか、普段からあんまり変わらないと思うんだけど。…でも、つまらなそうな顔に見えたなら…ごめん。

雪:…ふふ、いやいや。なんとなく、そう見えただけかもしれないね。昔からそういう事が良くあったからさ。

黒:………で?その…『紗季ちゃん』が、何だっけ?

雪:あ、うん!だからね、そんな紗季ちゃんをね、黒くんにも紹介したいって思うの!それで、紗季ちゃんのお店をさ、黒くんの学校でも宣伝してもらったりして。んで、もっともっと紗季ちゃんのお店が広まっていったらいいなってさー。ケーキもお菓子も、とっても美味しいし。

黒:…別に、俺は紹介してもらいたいとか思ってないから、必要ないよ。学校で宣伝?とかも、俺、友達いないから出来ないし。

雪:もー…この人見知りめー。

黒:その通りだけど、何か文句ある?

雪:別に文句はないけど!たださ、純粋にね。黒くんには紗季ちゃんを紹介したいのー。

黒:………雪さんこそ、なんでそんなに俺に紹介したいのさ。

雪:…んー?……んー…。紗季ちゃんのお店がもっと広まって欲しいっていう、下心?は確かにあるんだけど。まぁ、でもそれは置いといて。………なんて言うかさ、黒くんには紗季ちゃんに会ってみてもらいたいんだよね。

黒:だから、何で?

雪:……黒くん、自分の目付きが悪いって言って、前髪を伸ばして、目元を隠して、それで、なるべく人と目を合わせないでしょ。私とは、合わせてくれるようになってきたけど。…黒くんの人見知りってさ、多分その前髪が、まず壁になってるんじゃないかなって。

黒:……それがなんで、その人に会わせたいに繋がるのさ。

雪:……紗季ちゃんってね、太陽みたいな人だから。周りの人を明るく照らして、元気にしてくれるような。そんな人で。……本当に素敵なの。だから、きっとね、黒くんとも仲良くなれるし、黒くんの人見知り克服の、第一歩になるんじゃないかなって。

黒:……別に、克服したいなんて俺は思ってないから、必要ないって。

雪:……黒くんだって、とても素敵な人だから。もっともっと沢山の人と知り合ってもらいたいし。もっと周りの人達に、黒くんの事を知ってもらいたいって……、勝手ながら私は思ってる。だから、まずは紗季ちゃんと会ってみたら、黒くんがその壁を乗り越える、大きな一歩にならないかなーって。私の老婆心(ろうばしん)がそう言っているのだよ。

黒:………余計なお世話ってやつ。

雪:だーよーねー。分かってる。分かってるけどー…。………勿体ないよ。黒くんの瞳は、とても素敵なのに。黒くんだってとっても素敵な人なのに。みーんなそれを知らずにいるなんて、勿体ない。

黒:何も勿体なくないでしょ。………それに俺は………、雪さんがそう言ってくれてるだけで、充分だよ。

雪:えー?

黒:………本当に、それで俺は充分。

雪:…そっか。そう言ってもらえるのは、私も嬉しいけど。でも…いつか、紗季ちゃんとは会ってもらえたら嬉しいなー。

黒:(小さくため息)……ほんと、お節介な人だよね…雪さんってさ。

雪:はははー…よく言われるー。

黒:……そういうとこ、嫌いじゃないけど…。

雪:本当にー?ありがとう。

黒:(ボソリと)……ほんと、何も分かってない。

雪:え?なにー?何か言った?

黒:別に。何も言ってないけど?

雪:そう?何か聞こえた気がしたけど…。まぁ、いいか。

黒:……雪さんってさ。

雪:んー?

黒:…………『紗季ちゃん』のこと、好き、だよね。

雪:えっなに、急に!いや、まぁ、うん。大好きだけどね!!?

黒:…毎日毎日、本当に楽しそうに…嬉しそうに…『紗季ちゃん』の話をしてるから。さっきまでの話だって…。……雪さんにとってその人って…すっごく特別なんだなって思って。

雪:……やっぱり、黒くんも紗季ちゃんの話、聞くの嫌だ?

黒:そうじゃなくて。俺は、本当にそうやって嬉しそうに…楽しそうにしてる雪さんを、見てるのは嫌じゃない。けど…。

雪:けど?

黒:……雪さんにとって、その人が特別な人って分かるから…。だから…………俺は、その人に会いたくない。

雪:……えっと、つまり、それって……。

黒:……………。

雪:………焼きもち?

黒:………。

雪:……え?黒くん、紗季ちゃんに焼きもち妬いてるの?

黒:………。

雪:ええー!やだ!可愛い!えっそれって、えっと、あれかな!お姉ちゃんが取られちゃうーっていう、弟の心情的なやつ?

黒:は……?

雪:もー黒くんってば、可愛いなー。大丈夫だよー。確かに私にとって紗季ちゃんは、特別だけど。黒くんだって、私にとって大切な人なんだから。だからこそ、紹介したいって思うんだよ!

黒:…いや、そうじゃなくて…。

雪:ふふふ、何か、黒くんからの焼きもちは、可愛くて嬉しいなー。そっかそっかー。焼きもち妬いてたのかー。ふふふふ。

黒:…………はぁ。

雪:あら、溜息!幸せが逃げちゃうよ!そんな時は、そのケーキを食べると、幸せいっぱいになりますよ!お兄さん!

黒:………雪さんの、馬鹿。

雪:え!ちょっと?!急に態度悪いな?どうした?

黒:もういい。(残りのケーキを頬張り始める)

雪:えええ、ちょっと、何で急にそんな不貞腐れて…。ああ…ケーキもそんな、一気に食べたら勿体ない…。

黒:……(軽く睨みつける)

雪:……えーと。なんか、ごめんなさい?

黒:……(怒りながら、ケーキを頬張り続ける)

雪:………ねぇ、黒くん。前髪、やっぱり切らないの?

黒:………何、急に。

雪:いや、そんなに前髪が長いとさ、黒くんがよく見えないから。私も…今、黒くんがどんな顔をしてケーキを食べてるのかなーとか、よく見えなくて。ちょっと寂しいなって思って。

黒:………。

雪:まあ、私がどうこう言う事では無いって言うのは
、分かってるんだけど。……ほら!前にさ話してくれた、最近仲良くなったっていうお友達!その子もさ、前髪切った方がいいよって、言ってくれてるんでしょ?えーっと、葉山(はやま)くん?だったけ!

黒:………あいつは別に関係ないし。仲もいい訳でも無いし。俺は切りたくない。

雪:むむ…、頑なだな…。……でも、黒くんが素敵だって事に気がついたお友達が現れて、私は嬉しい!

黒:………俺は、別に興味無い。なんか、最近やたらと絡んできて、正直ウザイ。

雪:もー!そんなこと言わないのー!せっかく素敵なお友達が出来たんだから、大切にしようよ!

黒:友達じゃないし。…あいつがどうするかなんて、あいつの勝手だし。俺がどうするのかも、俺の勝手だし。

雪:んーーー…!!まぁ、そうだけどさぁー!

黒:………俺は。………雪さんが俺の事を見てくれてれば、それでいい。

雪:え?

黒:………昔、『目付きが悪くて、怖い』って言われて。その言葉が呪いのように突き刺さり続けて…気がついたら、人の目が怖くなって、自分の目元を晒しているのも怖くなって…、外に出られなくなった。…それで、前髪を伸ばして隠したら、大丈夫になったから。だから、俺はこの髪型にしてる。

雪:……そうだったんだ。あ…何も知らないのに、ごめんなさい…。

黒:……でも。雪さんには、見てもらいたいって…思う。

雪:私には?

黒:……俺、この髪型のせいもあってか、高校に上がるまでずっと…虐めにもあってた。高校に入ってからは、周りも飽きたのか、そういうの減ったけど。でも、誰も俺に興味を持とうとしなかった。両親ですら、俺に興味なんて無さそうだし。俺の事なんて、誰も見えてないんだろうなって、ずっと思ってた。

雪:そんな事…っ!

黒:俺はずっと…、生きている意味があるのかって思ってた。俺はちゃんと存在をしているのか、分からない日々で。わけも分からない不安と寂しさと孤独でいっぱいだった。……あの雨の日は、このまま消えるんじゃないか…って考えてた。……誰にも知られずにこのまま、俺という存在が無かった事になるんじゃないかって。……それが1番いいやって。

雪:黒くん…。

黒:でも、あの雨の日に。雪さんが俺に声を掛けてくれた。暖かい笑顔で、冷えきった体だけじゃなくて、心も…温めてくれた。孤独に震えてた俺を、雪さんが見つけてくれた。……あの時、俺はちゃんと存在してたんだって、初めて思えた。だから…俺の存在を認識してくれているのは…雪さんだけで、充分なんだよ。

雪:……でも葉山くんは、黒くんに、とても興味を持ってると思うよ。私も勿論、黒くんのこと見てるよ。でもさ、せっかく黒くんの存在を見つけてくれた人が側に来てくれたんだから。その…、黒くんも、葉山くんに興味を持って欲しいなって。…黒くんのペースでさ。

黒:………。

雪:…私はずっと、君の事、見てるよ。大丈夫。いつでも、こうして遊びにきて欲しいし。何かあったらいつでも連絡をくれたっていいし。また寒いって思ったら、いくらでも温めるし。私に出来ることがあるなら、精一杯やるよ。

黒:………俺はどうしたら、雪さんの特別になれるの?

雪:…え?

黒:………前髪を切ったら?葉山と仲良くなれたら?紗季ちゃんと会えたら?……そしたら、俺は、雪さんの特別になれるの?

雪:黒くん?

黒:どうしたら、なれるの?

雪:…………あ、えっと。まって、まって。ちょっと落ち着いて。

黒:………。

雪:……えっと、私の特別になるって、どういう事?

黒:………。

雪:黒くん?

黒:…………俺、猫になりたい。

雪:…へ?

黒:…………猫になったら、目付き悪くても、いくら寝てても、何をしてても、可愛いって…。その存在だけで愛されるじゃん。

雪:まぁ、それは確かにそうかもしれないけど。いやでも、黒くんはそのままでも充分に…。

黒:(雪の言葉を遮るように)雪さんにも、愛してもらえるじゃん。

雪:……え。

黒:…俺は、猫になって、……雪さんの猫になりたい。

雪:…私の猫に?

黒:雪さんなら大切にしてくれるだろうし。

雪:そりゃ…うちの子になったら大切には、する、けど。

黒:……雪さんが…………………。

雪:うん?

黒:…………………雪さんが、誰を好きでも………。愛してくれるでしょ?

雪:……黒くん。

黒:……雪さんが悲しい時も辛い時も、楽しい時も幸せな時も。どんな時も1番傍に居てさ。何よりも特別な存在として、雪さんの心の中に…きっと居れる。

雪:…………。

黒:だから…俺は、雪さんの猫になりたい。

雪:…………。

黒:…………。

雪:………えっと…。

黒:……………なんて、ちょっと思っただけ。

雪:……………………えっと………。

黒:…………別に、何も答えなくていい。

雪:…………。

黒:………ちょっと、思っただけだから。

雪:……………………そっか。

黒:……うん。

雪:………………猫になりたい、か。面白い事…言うなぁ。

黒:…そう?

雪:……うん。あー…でも、私もその気持ちは、ちょっと分かるなって、思っちゃった。

黒:………雪さんも、誰かの猫になりたいの?

雪:……そうだねー…。どうかなー。

黒:……教えてくれないんだ。ずるいよね、雪さんって、本当にさ。

雪:……へへ、ごめんね。

(間)

黒(M):どこか切なげに目を細めるその瞳には、誰が映されているのか。それはきっと、いつも彼女が嬉しそうに愛おしそうに話す、あの人だ。

その顔を見る度に、胸が締め付けられるように苦しくなって、呼吸が上手くできなくなる。だから、俺はあの人に会いたくない。会ってはいけない。あの人と雪さんが並ぶ姿なんて、見たくもない。

どんなに望んでも彼女の想いは手に入らない。今は俺を見てくれている彼女の瞳も、その時はきっとこちらを向かない。

そうやって見せつけられて、俺は息が出来なくなるだろうから。

愛している人の傍にずっと居られて、何よりも違う特別な愛をもらえ。そして最期には愛する人の腕の中で眠れるなら、俺はそれで充分幸せだと思う。例え、雪さんが誰を愛していたとしても。

きっと猫になれたなら、この人の何より特別な愛を、独り占めできる。自分でも馬鹿みたいだと思いながら、そんな叶いもしない幻想を彼女にぶつけて。それでも、その瞳に映るものは何も変わらない事を、また実感して。自分で自分の首を絞める。

遠くを見つめる彼女を、俺は…見つめる事しかできない。


黒:……ねぇ、雪さん。

雪:ん?

黒:………これからも、遊びに来ていい?

雪:……勿論。……ねぇ、黒くん。

黒:何?

雪:…君はきっと望んでいないのかもしれないけど。でも、私はずっと君の事、見てるからね。だから、自分なんて必要ないんだなんて、言わないでね。

黒:…………ずるいよ、本当に。

[END]

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【作品掲載HP】
『^. .^{とある猫の言葉.•♬』
https://lit.link/Nekotoba



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