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猫のブラシはどこに消えた?
違う、違う。
僕ではない。
たぶん、僕ではない。
落ち着け、落ち着け、僕。
「ねえ、あなたの毛繕いのブラシ知らない?」
母さんは言う。
「昨日まであったんだよね。この部屋に」
飛び火を恐れてRはいつの間にか姿を消している。
Rは察しが良い。
昨夜、ブラシは確かにあった。
いつもの場所ではなくソファーの上に。
僕は大声で言いたい。
何故ブラシをそこに置いた?
これは事故だよ。
いつも寝てる場所にブラシの柄があった。
それを咬むのが猫である。
そしてそれを奪おうとするのが犬である。
僕とRはブラシをめぐる争奪戦を繰り広げた。
その最中、僕のネコパンチでブラシは吹っ飛んだ。
ソファの隙間にブラシはある。
ひっそりと。
しかしそれを伝える術を猫は持たない。
ああ・・ブラシ君、君には長い間お世話になったね。
いつの日か見つけてもらえるといいね。
・・まあ、そういう事情があったんだ。
でも、なんだか母さんの目を見れない。
だから僕はいつまでも爪を研いでいる。
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