「協奏」と「協同」という言葉について - concerto
「きょうどう」という言葉には色々な表記がある。三省堂国語辞典には以下のように書かれている。
「共同」は〈ふたり以上の人が いっしょに・する(使う)こと。〉
「協同」は〈力をあわせること〉
「協働」は〈同じ目的のために、力をあわせて働くこと〉
ここで注目したいのが「協同」である。力をあわせること。グループワークなどで自己以外の誰かと一緒にプロジェクトを進めるにあたって一番大事なことだと思う。
グループワークとなると、「協働」の方が大切なのではないかと考えるかもしれないが、同じ目的のために力を合わせて働くのであって、同じことを力を合わせてやるのではないということが決定的な違いだと思う。グループワークは個人での作業も生まれるが、その個々の作業は決して違うことをしているのではない。全てが同じことをしているのである。すなわちみんなで同じことを力を合わせてやること=「協同」が大切だと思う。
ここでもうひとつ気になるワードとして「協奏」を挙げたい。実は「協奏」というフレーズは辞書で定義されてはいない。ここで「協奏」を定義してみたいと思う。
まずは「協」という漢字について見てみたいと思う。デジタル大辞泉によれば以下の通りである。
きょう【協】[漢字項目]
[音]キョウ(ケフ)(漢)
[学習漢字]4年
1 力を合わせる。「協会・協賛・協同・協力」
2 調子を合わせる。「協調/妥協・不協和音」
3 相談する。話し合って物事をまとめる。「協議・協商・協定・協約」
[名のり]かな・かのう・やす
そして「奏」という漢字について見てみたいと思う。またしても、デジタル大辞泉によれば以下の通りである。
そう【奏】[漢字項目]
[音]ソウ(漢) [訓]かなでる もうす
[学習漢字]6年
1 意見をまとめて差し出す。君主に申し上げる。「奏上・奏請・奏聞(そうもん)/直奏(じきそう)・執奏・上奏・伝奏(てんそう)・内奏」
2 楽器をかなでる。「奏楽/演奏・合奏・間奏・吹奏・前奏・弾奏・独奏・伴奏」
3 成果を得る。「奏功・奏効」
[名のり]かな
もうひとつ、「協奏交響曲」について、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典で調べて見ると以下のように出てきた。
サンフォニー・コンセルタント
symphonie concertante
2つ,あるいはそれ以上の独奏楽器をもつオーケストラのための一種の交響曲で,18世紀後半盛んに作曲され,特にマンハイムやパリで好まれた。例として,モーツァルトのバイオリンとビオラ,オーケストラのための作品 K.264が有名。
まとめると、このように定義できる。
みんなで意見を出し合い、話し合ってまとめ、それを素に物事を推し進めていく。まるで独奏楽器の集まりであるオーケストラのように、この繰り返しでみんなで力を合わせ、成果を得る。これが「協奏」の基本である。
ただ、それだけではない。「奏でる」という行為は、自分で音を出していかなければならない。音は、ここで言う意見であったり、アイデアだったり、アクションであったり、何かしらのアウトプットだと考えよう。これらの音を出すには、みんなでやっていることを、自分ごとにしないとできない。音を出すこと=奏でることができなければ、「協奏」ではなくなってしまう。
つまり、奏でることで、各自が自分ごとにすることができ、他の人と思いを通わせることができるのではないだろうか。それこそが、「ともに奏でること」=「協奏」であって、独奏楽器の集まりであるオーケストラのように物事を推し進めることは、あくまでも成果を得るための要素ではないだろうか。
そして、協奏と協同。協同では互いに力をあわせること、それだけしか定まっていない。だからこそ良い点もある。ただ、協同には協奏と言う概念が必要になってくるのではないだろうか。1つの曲を奏でるためにともに力を合わせる。時には各パートに別れたりしながら、自分で音を出していく。そのことが協同をよりスムーズにさせてゆく協奏の概念だと思う。
ちなみに、「協奏型地域社会」と言うフレーズを使用している資料もあったので、紹介しておこう。
協奏型地域社会とは、都市部で見られる少子高齢化・孤立化の問題に対し、多世代・多セクターを繋ぐ担い手の育成によって、地域課題を(共に奏で)解決できる地域社会を意味する。
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(文部科学省 地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)札幌市立大学「ウェルネス×協奏型地域社会の担い手育成「学び舎」事業」平成25年度成果報告書より引用・http://coc.scu.ac.jp/about/annual_report/coc_H25_report.pdf)
なるほど、多世代・多セクターをパートに分け、そのパート同士が奏で合い、地域課題を共に力を合わせて解決してゆくことのできる地域社会を構築する、といったところであろうか。協奏という言葉は、定義されていないだけに、難しいところもあるが、それを探してゆくのもまた面白いと感じるのである。