イアン・ブレマー氏の2022年10大リスクを読む:4つの提言を添えて
私はユーラシア・グループの国際政治学者イアン・ブレマー氏が毎年発表する「世界10大リスク」に注目しています。心待ちにしていると言って良いでしょう。彼の言わんとするところを見てみたいと思います。
その前に2021年の10大リスクは何だったのかを確認してみましょう。そして2022年の10大リスクを眺め、次にこれをアジアの視点で考え、後半はこの10大リスクに「どう向かい合うか」についての私信に言及します。
2021年の10大リスクを振り返る
2022年を予想する前に、昨年2021はどう予想したのか、そして実際どんな年だったのか検証してみましょう。去年の10大リスクはブルームバーグの記事が分かり易いです。リンクはコチラ。
見事にこの10項目が2021年の世界を賑わせましたね。
米国の分断はバイデン大統領のレームダックにより支持率は低下し当初の輝きを失っています。コロナの長期化は言わずもがな。グリーン化へは全世界が舵を切り、米中緊張関係は世界経済と覇権に影を落とし、データ競争は益々顕著になり、サイバーリスクは国家防衛戦略化し、トルコは経済でとんでもないことになり、産油国は原油価格で右往左往し、中米は経済破綻の憂き目にあっています。
唯一顕在化していなのはメルケル首相の退陣後の影響でしょう。案外ドイツに住んでいるとヤバイことになっているのかもしれませんが、日本に伝わってくるニュースでそれを見ることはありません。
ブレマー氏、流石ですね。バッチリ当たってます。では2022年を見ていきましょう。
2022年の10大リスクは、これだ
さあ2022年です。ユーラシアグループからの発表読んでみましょう。
英語の原文がこちらで、PDFはこちら。日本語訳のPDFはこちら。英文の方がビジュアルでグラフも用いていて圧倒的に分かり易いので、グーグル翻訳使ってでも英語版の方をおススメします。日本語のPDFは単なる訳文でビジュアルは無いので、2画面で見比べながら読んでも良いでしょう。
更に「リスクもどき:RED HERRINGS」も記されています。
・冷戦2.0(第二の冷戦)
・台湾の苦境
・ブラジル
・移民
ブレマー氏は映像でも語ってくれています。日本語では日テレのインタービュー映像が分かり易い。(48分33秒)
長いのでサクッと4分ほどで見たい方は、こちらをどうぞ。(全尺は6分ですが最初を飛ばしてコアの部分から聴けます)
2022年10大リスクを読み解く
レポートの最後にブレマー氏とチェアマンのクリフ氏はこう述べています。
レポートの冒頭に述べられた通り、米国の政治的説明責任を強く指摘していますね。
私の注目点は以下の通りです。
世界はリーダーのいない「Gゼロ」となり、かつては世界の警察だった米国の覇権は弱まっています(というか放棄しているともいえる:特にトランプ氏)。秩序を失った世界にコロナ禍という”自然災害”が襲い、混沌の度を極めています。
混沌は米国の国内でも起こり、国内が分裂状態で、昨年1月の国議会襲撃は衝撃的でした。もはや米国は中国を民主主義においてどうこう言える立場に無いと言えます。国内も国外も、もはや米国は機能不全に陥って世界のリーダーとしての顔を失っています。米国社会は二極分化して睨み合い、互いを敵とみなしていいます。(日本も似たような状態になってきました)
中国が世界の2番目へと台頭してきましたが、驚異的な経済成長が一巡して習近平氏の目は国内に向いています。コロナ禍の発端と名指しされ、火消しに回って国内統治を強めました。いまや管理国家に突き進んでいます。民主主義の意味するところが、中国と米国中心のアングロサクソン社会では違うのですが、お互いに「自分の民主主義」しか語らずに対立しあっています。
コロナ禍で協調すべき世界が、互いに「お前が悪い」と罵り合い、「なんで言うことを聞かないんだ」と攻撃する。それは国同士でも市井の人同士でも起こっています。厄災に際して協調すべきなのに逆に分断へと進んでいます。
地政学リスクとして衝突の発火点は地理上の端の方から起きるのが歴史の常です。冷戦2.0による世界の歪みエネルギーの高まりがそれです。いまそれは台湾で、朝鮮半島で、アフガニスタンで、ロシアの緩衝地帯であるウクライナで起きています。今後も思わぬところで起こるでしょう。それがレポートの最後の言葉に集約されています。
「仮説」と「情報」と「検討」、これには後でも触れます。
幾朗の注目点
ブレマー氏の視点は米国から見た世界と言う意味合いが強いと感じます。ゆえに、「アジアの中の日本」としての視点で読むと、少々違う見方が出来ます。
その前に、コロナ禍で大きく書き換えられた2年前の2020年の10大リスクを読むと、「いま」の「なぜ」が分かってきます。歴史は流れで読むのが大切ですが、2020年初頭からのコロナ禍の衝撃以来、世界が大きく変わって問題の吐き出し口が局地化してきています。詳しくはもう一度こちらを読んでください。
現在進行形で危機となったロシアのウクライナ「侵攻」、アフガニスタンの「崩壊」、ミャンマーの「虐待」、中米の「経済破綻」、ビッグ・テックGAFAMの「世界制覇」、北朝鮮の「暴発」・・・。
世界の絶対的リーダーが居なくなり、米国と中国の対立、そこにロシアの「暴挙」も起こって、世界はより混沌に進んでいます。
日本はその中で意思決定力が壊滅的に弱く、国の主導者たちは右往左往して「なにを・どうする」をハッキリ言いません。夏の参議院選挙も睨んで与党は地雷を踏まないことだけに汲々として意思決定を明確にせず混沌を深める方向にしか進んでいない。その最たるものが今国会で見てとれます。
世界で起こり現在も進行形で進んでいることはトランプ前大統領に代表される「協調しない」「自分が助かれば良い」です。
(私はこのままいくとトランプ氏が大統領に返り咲くと見ています)
コロナ禍のパンデミックに国際間協調は無いし主導国も存在しない「Gゼロ」状態。米中は罵り合い、ロシアは漁夫の利を狙い、グローバルなサプライチェーンは寸断されました。
気候変動が本来向かうべき省エネに向かわず、逆にエネルギー問題に目を向ける結果となり価格高騰を招いています。国際緊張を高めればエネルギー価格は願いとは逆に上がっていきます。それを演出するかのようなロシアのウクライナへの動きです。ロシアは2020年まで経済制裁を受けていましたから、ここで一気に挽回したいところでしょう。都合の良いことに、欧州のガスラインはロシアが起点です。
地政学的リスクの高まりは、ウクライナ、イラン、イスラエル、北朝鮮、そして台湾で起こっています。「Gゼロ」ゆえのリーダー不在で、対立はくすぶり続け、エネルギーの吹き出し口を探しています。ただ米中関係は、米国が大統領の中間選挙の年であり、中国はオリンピックと内政問題があり、両国のつばぜり合いはあっても全面的な衝突に向かうには「盛り上がりが足りない」と見ています。それよりも両国の間にあって「漁夫の利」を狙うかのようなロシアの動きが不気味です。
10大リスクの裏にある経済リスクに私は注目しています。
提言1:日本ができること、個人ができること
混沌の時代、シンギュラリティと言う名の大変化の時代を泳いでいく術を現代人は求めています。それは案外難しいことではなく、シンプルに、人間本来に立ち戻ることだと思います。頭で理解するより、体で理解する。自然の中の生き物としての人間に戻ることだと私は考えます。
国がどうの、会社がどうのと言ったところで簡単には変えられません。人を変えるのは難しいのです。ならば自分が変われば良い。簡単ですね。そのうえで考えるヒントは、
他人事ではなく、自分事に落とし込む。
これが日本というか、日本人の個々人で出来ることだと私は考えます。世界が悪い、社会が悪い、あいつが悪い、と悪者探しするよりどう協調できるかのアイディアを「発明」し、それを周囲にシェアしていく。
世界も混沌、日本も混沌。ならば日本として、というより日本人ができるのは個々人が自分で判断して「自分で決める」ということでしょう。そこで悪者探しをしていては相手を攻撃することに埋没してしまいます。
2年半もコロナ禍にありながら後手後手の対応しかできない「出来ないクン」与党を筆頭にした政治に何かを期待しても仕方ない。ゆえに自分の身は自分で守る、これしかないでしょう。だから、
自分で決める。
政府をあてにせず、個人で繋がって助け合う。良いアイディアを発明してシェアし合う。ネット万能の時代ですから、各自が発信して他人と繋がりあうことは簡単にできます。これも自分事ですね。
要は ”あなたが” やるか、やらないか、だけです。
個人が繋がること。それは過去の日本と同じだと思います。ムラ社会の中では互いの気持ちも分かりあう中で暮らしていました。昭和の時代を知る私はそのカケラを少年時代に感じていました。個人が繋がりあっていた時代はさほど昔の話じゃない。いまはネットとITという強い味方がいます。これをどんどん使って助け合う社会に進めば日本は安泰です。だから、
個人で繋がる。
もともと自然災害大国ニッポンですから、いざコトが起きると団結します。タイヘンに見舞われた人の心が分かるのが日本人の特徴です。明日は我が身、地震で一瞬のうちに財産や身内を失うことを知っています。それが極まらないと助け合えないというのが残念で仕方ない。被災地ボランティアでもある私はそう思います。つまり、
助け合う。互いに。
提言2:半径3メートルを幸せにしよう
自分の半径3メートルの人なら視野に入るし、自分の意志が働きます。混沌と分断の時代だからこそ自分の周囲を大切にする。
自分の周囲の人と繋がることで助け合えるし、周囲の縁に見え隠れする分断は消えていきます。そこには共感があり互いのコンセンサスが生まれます。半径3メートルの共感が広がると幸せが広がります。
ひとりが付き合えるのは150人までだそうです。スマホがあるから近くに居なくても150人は「あなたの周りの人」として3メートルの中に入ってきます。150人だったら顔も名前も出てきますよね。
コロナ禍で直接会えないことを補う手段を私たちは既に手にしています。ネットも使った「150人が周りの人」になるんです。皆さんも手の中のスマホの向こう側の150人と、いつも繋がっているんです。その人が幸せになったら自分も幸せですよね。
だから「150人の周りの人」と仲良くする。周りの150人は、いわば「じぶんの150人」です。その150人を大切にして、連絡とりあって、互いに助け合う、ネットを使って共存し合う。
提言3:半径3メートルが150人に、150人が日本全部に
では具体的な行動に落とし込みましょう。やり方は簡単です。
「じぶんの150人」を大切にする。
その次に、ひとりが150人の幸せを続けるのなら、その先にいる150人も、その一人一人が「じぶんの150人」を大切にするでしょう。150人の輪を広げれば、あっという間に日本全部が幸せになります。そこが島国の良いところ。境界線がハッキリしているのでやりやすい。
150人が「じぶんの150人」を幸せにする。
150人の輪をどんどん広げれば、日本全部をカバーできますよね。
「そんなうまいこと出来っこない」、そういう否定が飛んできそうです。そういう人に私はこう囁きます。
なぜかキレイゴトは嫌われます。キレイゴトを言うと無視されます。
そうやって親が、学校が、社会による無言の圧力が、無意識にそんなの無理と決めつけてきます。誰もが「キレイゴトは無理」なんだと処世術的かつ無意識に処していくうちに大人になりました。いまやガンジーが実行したようなキレイゴトは「むりぽ」の一言で吐いて捨てられます。
でも、よくよく考えてみるとキレイゴトでいけば、住みやすくなる、暮らしやすくなる、仲良くなる、平和になる。分かっているのになぜかできない。だから、これです。
人間は迷う動物です。迷った時は自分の心に問うてほしい、そこに見つけて欲しいのがこれです。子供への無償の心を思い出す時、誰もが思い出します。
親ならずとも無防備な赤ちゃんに何か「してあげたい」と思う、そんな無償の愛を思い出す時、誰もが感じる温かい気持ち。それを「あなたの150人」にするだけのことです。その時はこの利他の心で、
見返りは求めない。育ってくれた子供に親は「カネ返せ」とは言いません。
提言4:丁寧に生きる
時間密度がどんどん高まって、現代人は日増しに時間に追われ、我を忘れ、日々のあれこれに忙殺されてゆきます。忙しいのにスマホからは目が離せない。忙しいのにゲームしてしまう。公共機関で本を読む人が少なくなって久しい。片時もネットから離れ慣れない。やることがどんどん降ってくる。もう病気ですね。
そんな狂気の時代だからこと、気付いた人から瞑想やWell-Beingなどで高速で進んでいく「いま」を止めて自分を取り戻しています。
瞑想やWell-Beingも良いですが、私がおススメしたいのが、これです。
忙しい、忙しい。その「忙」と言う字は心を失うと書きます。忙しいからこそ丁寧に生きる。ひとつひとつを丁寧にやる。仕事も、家族との付き合いも、隣人との会話も、コンビニの店員にも、ごみ収集人にも、一日に会う人全員に「ありがとう」の心で接する。たったそれだけです。
丁寧に生きるとは、「いま」の繰り返しを意識して丁寧に過ごすことにほかありません。自分のやっていることをもう一人の自分が見つめて「ありがとう」を言い続ける。
そのためには、今までより手間や時間が必要になります。では、どうやったら時間を作れるか。それは簡単です。
やらないことを決める。
これだけです。簡単ですね。実にシンプルです。
「やらないこと」を決めると時間が出来て、「やりたいこと」をする時間が出来ます。やりたいことの中に「あなたの150人」にむけて「できること」を「決める」。それを「丁寧に」にやって一日を過ごす。
丁寧に生きる。
私はそう決めて、明日が来るのを楽しみにしながら今日を生きています。
ではでは
三川屋幾朗@mikawaya1960
公共メンター https://menta.work/plan/954