台湾の国名表記を巡るホロライブ炎上事件について中国オタク観点で考える -字幕組とVtuber-
ほとぼりも冷めたところで先日のホロライブ台湾表記炎上事件について個人的な所見をまとめます。
この件、実はファン活動における「日本と中国の文化の違い」みたいなものが結構大きな要因になっていた気がするけど、あまりそこに触れている人がいないので…
まず最初に簡単な自己紹介
私はVtuberのオタクをしている者で、同時に中国アニメを嗜むオタクでもあります。
バーチャル界隈全般に興味がありますが、ホロライブの配信者さんに関しては顔と名前を知っている程度。端的に言ってファンでもなんでもない部外者なので運営の事情については事実誤認などあるかもしれません。
また、中国アニメのオタクといっても目に付いたものを気ままに簡単に囓ってる一般人なので、業界人だとか界隈事情にものすごく精通しているというほどではありません。
以上を前提にあくまで一個人の感想ブログとしてお読みください。
事件の概要を簡単にまとめます。
一連の騒動に対してTwitterやnoteでオタク達の論争を眺めていたのですが、日本では
「チャイナマネー欲しさに中共の靴を舐めた」
「YouTubeは中国人向けの配信じゃないのになんで中国人に謝らなきゃいけないのか」
というような意見が多かったと思います。
さて、この騒動は大きく3つの論点にまとめられます。
①なんで台湾の国表記で炎上するの?
②なんで中国から見ることのできないYouTube配信の内容について中国人に怒られなきゃいけないの?
③結局、配信者/運営の対応の何が不適切だったの?
③については既に散々議論されているので後に回すとして、①②について触れられている文章をあまり見かけなかったので、中国アニメ事情ちょっとわかるオタクとして筆を執った次第。
このnoteは当事者を糾弾する目的ではなく、「何が原因で炎上に至ったのか」を解明することで再発防止のための方法を見つけ、以降同じトラブルに陥る人が一人でも減ることを願って書いています。
①なんで台湾の国表記で炎上するの?
大前提として、まず人の国籍や帰属意識というのは実は重要な個人情報であり、勝手にバラしたりネタにしてからかったり根掘り葉掘り聞くものではない、という認識があることを分かっておきたい。
誰が見てるか分からない場で「どこの国の~」という話題を出すことは、それ自体が悪いわけじゃないけど、どうしてもその話題を出したい理由がないのであれば避けるのが無難です。出すなら予め言っちゃいけないワードは確認しておいた方がいいと私は思います。
国籍、帰属意識、領土問題、歴史認識……は配信者にとっては地雷です。「どこの国の~」ネタを出すならば無自覚のうちにこれを踏む可能性があります。これを軽く扱って当事者に不快感を抱かせることは、時代や地域によっては戦争の原因になるくらい重大な話です。
さて、台湾といえばタピオカ…ルーロー飯…夜市……そして領土問題。
台湾の方々には不本意かもしれないけど、彼の島の話を出すなら絶対に気をつけなければいけない関連用語です。台湾の話を出すこと自体は何も問題ないけど、話題がそっちの方に寄っていかないように注意する必要があります。
台湾についてあまり詳しくない方にざっくり説明すると、台湾(正式には中華民国と呼ぶ)は建国当初から中国との間に領土問題を抱えています。
台湾は自国を「中国とは別の国…中華民国である」と主張しており、中国は「台湾とは中国の中の1つの省である台湾省だ」と主張しています。
これはこの10年20年で起こった論争ではなく中華民国という存在の誕生経緯にまで遡る数世代間の長い論争であり、その間に内戦によってたくさんの人が殺されたり傷付いたりしてきました。
ここまでいくと双方にとって「譲歩できない大問題」です。台湾という地にはそんな事情があります。
台湾の歴史については本題ではないのでこの辺にしておきます。
今回の問題は特定の国の事情ではなく、台湾だろうがどこだろうがそもそも【領土問題というものは非常にセンシティブな話題であり、十分な知識および主義主張のない人間が軽率に扱うべきネタではない】ということだと私は考えています。
(台湾に関する話題自体に問題がなくとも、台湾「という国」のような、領土問題に関する支持を表明したと受け取られる言葉の使い方をしてしまった場合は、時と場合によっては面倒ごとになってしまいます。)
友人や家族といったクローズドな関係内での話題ならまだしも、全世界からアクセス可能なインターネットに垂れ流すのは無防備極まりないし、それネット配信をする以上「身内以外に見られてるとは思わなかった」は通用しません。
というか、領土紛争が起こっている現地では、友人や家族にすら自衛のために本音は話さない。話せない。ということも非常によくあります。それだけ取扱要注意なネタであることをまず念頭に置いて欲しい。
繰り返しますが、領土問題に関する見解というのは、場合によっては家族や職や自分の命を守るために秘匿しなければならないような重大なことなんです。
それを頼まれてもいないのに自らネットにべらべら垂れ流して何も起こらないのは、日本がそこまで重大な領土問題の当事者国じゃないから。そして単に運が良かったから。
さて、普通の日本人が「領土問題」といわれて思い浮かべるのはおそらく竹島、尖閣諸島、北方領土ですね。
「ニュースでたまに見るけど、そんなしょーもないことのためにいちいち突っかかってきてうるさいな」
「どうせ無人島なんだしあげちゃえば良いのに」
みたいな認識の人が多いのではと思います。
たぶん一生行かないから自分の生活には関係ないし。
島根県民、沖縄県民、北海道民など当事者になる地域の方は学校でもっと深刻に指導されるのかもしれませんが、それ以外の大多数の日本人にとってはそんなもんじゃないでしょうか。
だから今回のように領土問題に関わる怒られが発生しても、大抵の日本人は「そんなことで激怒してクレーム付けてくるなんてヤバくない?」と感じるんですね。
実際の所どうして領土問題が重要なのかというと、国家の主権を守るためであったり外交上他国に主導権を渡さないため・東西の均衡を保つため…的な理由だと思いますけど、大体の日本人にとってはそれは建前であって自分の実生活にはあまり関係の無いことです。
そんな日本の緩いような寛容な教育って私は悪いものじゃないと思うんですけど、それは日本側の立場の常識であって、相手国では違ったりするんですよね。
だから韓国や中国やロシアは何度でもしつこく日本に対して島の領有権を主張してくるし、その辺の一般の人に聞いてみても「あの島はうちの国のものだ!!日本の不法支配をやめろ!」って堂々と言うのかもしれない。
その認識を理解する必要はないんだけど、大事なのは
「自分にとっては大して重要に思えないものが相手にとっては絶対に踏みにじられたくない大切なものだったりする」
ということ。
これは「どこの国の~」ネタを出すなら最も配慮しなければならない部分です。
例えばですけど、もしも日本でネット配信者が皇族の方のお名前を挙げてエロい話や下品な笑い話のネタにしたり、あるいは炊きたてホカホカご飯を地面に叩きつけて土足で踏む配信をしたら、炎上までは行かなくても強い嫌悪感を抱く人が多いと思う。
中国人にとっての台湾ネタがそれだったってだけのこと。
国旗を粗末に扱ってはいけないとか、王様の肖像を粗末に扱ってはいけないとか、宗教指導者に失礼な態度を取ってはいけないとか、そういうやつ国によって色々ありますよね。
その主張の中身に同意する必要は全くないけど、でも、そのような考え方が存在することは外国人相手の商売で飯を食うなら知っておくべきだろうと思うんです。
今回問題になった「台湾がどこの国であるか」について、日本はじめ西側諸国は大体が独立国……つまり台湾国(中華民国)と認識してるけど、中国ではそうじゃない。
「中華人民共和国の台湾省」です。
これはどっちが正義とか悪とかじゃなくて、「現状として一般的な中国人の感覚からしたら台湾を独立国と言われるのは強い反感を覚えるネタである」ということです。
例えば日本だって、他所の国の人から「沖縄を日本国沖縄県と呼ぶのは不適切!沖縄を日本のものにするな!あれは琉球王国だ!日本とは別の国!」とか言われたらハ?ってなると思います。でも実際に沖縄在住の方でそういう考え方の人も全くいないわけではないだろうし、外国の方からそんな感じで怒られてネット上でトラブルになった事例もあります
ここでどちらの主張が正しいかを議論して相手を納得させようとするのは無意味です。常識が違うんだから、それを言い出したら永遠に平行線になって何も解決しない。
そこには一個人の努力では解消できない「相違」が存在していることを、ビジネス上の認識として頭に入れておくべきだと思うんです。
ここまで観念的な意味でふわっとした説明をしましたが、もっと具体的に「台湾ってどんな経緯でそんな面倒な状況になってるの?」という話については真剣に解説すると本が1冊書けちゃうのでここでは割愛します。
ただ、個人的にみんなに知っておいて欲しいのは、実は台湾人と中国人はお互い親戚同士だったり友達同士だったりすることもあるということです。
「中国が台湾を侵略して不当に奪おうとしている!」
「中国人と台湾人は敵同士!」
と思い込んでる日本人が多いんだけども、それは別に間違っていないけど必ずしも合ってもいない。
たとえば母親が台湾人で父親が中国人というご家庭もあります。
両親が中国から台湾に移住してきて自分自身は台湾生まれというご家庭もあります。
先祖代々生まれも育ちも台湾だけど中国を支持してるというご家庭もあります。
台湾人の中にも今の政権を認めておらず中華民国からの独立を主張する方々もいます。
この状況で、何が正解だと思いますか?
領土問題についてあなたは”正しい”見解を言えますか?
「台湾を応援するぞ!」「中国を応援するぞ!」みたいな雑な言葉をその場の軽率なノリだけでネット空間に放つのは、最初の話に戻りますけども自分のためになりません。特にネット配信業でお金を稼いでる方は口に出す前によく考えた方がいいかなと思います。
以上が「なんで台湾の国表記で炎上するの?」の件についての所見です。
さて、本題は「なんで中国から見ることのできないYouTube配信の内容について中国人に怒られなきゃいけないの」の件ですよね。
ここについての理解が人によってバラバラで、恐らくホロの運営体制がちょっと複雑なことも原因の1つではないかと私は思っているので、知ってる範囲でまとめます。
②なんで中国から見ることのできないYouTube配信の内容について中国人に怒られなきゃいけないの?
今回の騒動、大半の日本人は「中国人が見られないはずのYouTube配信の内容について中国人に批判されるのは筋違い」という印象を持ったはずです。
なんですが、実はホロライブの配信は中国の配信サイトであるbilibili動画でも同時配信されているようです。
で、これに関して公式であるとか非公式であるとかいろんな情報が出回ってるんですね。
これがどういうことなのかについて説明します。
そもそも日本の二次元コンテンツってbilibili始め中華圏でもすごく人気で、いわゆる「チャイナマネー」を見込んで最近中国向けの展開を始めた日本企業も多いという話、皆さん耳にしたことあると思います。
日本の有名Vtuberの多くは中国でも百万~数十万クラスのフォロワーを獲得していて、中国のオタクに名前を出せばだいたい普通に通じます。
2020年6月末時点でのbilbili動画Vtuberフォロワーランキング▼
新的百万!2020年2季度VTB/Vup粉丝总数统计!【数据可视化】より
(集計ページはこちら。日本勢が非常に強い)
ななかぐら、鹿乃、キズナアイ、白上フブキ、神楽メア…上から見ていくと日本の配信者がずらりと名を連ねています。
ここでちょっと考えて欲しいんですけど、どうして、正式に海外展開してないはずの日本人配信者の「日本語トーク」動画や配信に中国で人気が集まるのでしょうか?
中国オタクには親日的で日本語のできる人が多いから?
もちろんそれもある。
でも当たり前だけど、みんながみんな日本語ネイティブ話者の日本語トーク配信を楽しめるわけがない。
いくら日本語のできる中国人オタクが多くても、そのレベルに達してる人はごく僅かです。普通の人は日本語ネイティブ話者の配信なんて聞いたところでほぼ理解できないと思います。
そこで重要なのが「字幕組」という存在。
同人誌の違法アップロード問題で聞いたことある方も多いかもしれませんが、実は中国のオタク界隈の中には伝統的に「もの凄く日本語能力が高くてネイティブ話者の日本語もちゃんと理解できるレベルの人」が公式作品に翻訳を付けてネットに流すという文化が存在するんです。
これは中国だけじゃなく欧米にもあるものです。英語ではファンサブと呼ばれてますね。
恐らく発祥は違法アニメ動画の作り手集団。
日本のアニメに翻訳字幕を付けて違法公開する人達です。
ぶっちゃけやってることは違法アップロードなんだけど、事実として、そういう人達がいたからいま世界中に日本のオタク文化が広がっているという側面は否定できません。
時代的なことを考えると彼ら彼女らも一世代ではなく2代目3代目として受け継がれているはずです。
広告収入目当ての邪悪な人達もいるかもしれないけど、大多数はそうではなく本当に純粋に日本のコンテンツが大好きで、日本語が分からない友達にもハマって欲しくて布教のためにやってる人が多いらしい。
で、彼ら彼女らはアニメや同人誌の翻訳転載をするならば当然Vtuberの動画の翻訳転載もするわけですよ。
中国のオタク界ではこういう人達を「字幕組」と呼びます。
はじめは日本語ができる一個人の活動から始まったものが同志を集めてチーム作業でやるようになってきているみたいです。決して珍しい存在ではなく、日本原作コンテンツであれば大抵どの作品にも字幕組がいます。
字幕組ってメイン活動は日本語コンテンツを中国語に翻訳して流すことなんだけども、それだけじゃなくて、両国のファン交流時の言語サポートとか、グッズ代行しましょうかとか、こっちに来るなら観光案内するよ~とか…
自分のように下手な中国語で中国アニメをかじろうとする日本オタクに声を掛けて助けてくれたりなんかもして、なんというか犯罪者集団とかではなく普通に「語学力の高いオタクの熱心なオタ活」なんですよね。
さて、いきなり話を逸らしますが、中国の絵師ってやたらと画力の高すぎる神絵師ばかり…なんで中国のオタクのファンアートはあんなに上手いんだろう…と思ったこと、ありませんか?
実は中国では「一般人が趣味として絵を描く」という概念があまりないらしいです。
職業イラストレーターでもなく美術学生でもなく、特に専門の教育を受けたり職業にしてるわけでもない人がただ趣味の一環として余暇を使って絵を描いたり文を書いたりして、時には本を作って売りに行く…日本では濃いめのオタクならよく見かける行動なんですけど、それって中国のオタク界ではそんなに普通ではないことです。
そもそも中国の学生ってものすごーーーく勉強がハードで、中学から大学まで全寮生活だったり、授業の後も深夜まで補講があったり、早朝から深夜までずっと勉強漬けなのでそれ以外のことをする時間が物理的に取れないみたいなんですね。
最近は小中学生があまりの勉強漬けに耐えきれず自殺してしまったり、勉強しすぎによる疲労で授業中に突然死したなんて悲惨な話も聞くんですけど、つまり普通の学生はそうやって過ごすのが当たり前なので、部活や趣味に打ちこむという生き方が無いそうで。
だからあちらのオタクは日本のアニメを見て登場人物が放課後に「部活」や「バイト」をしてるのを見てすごく憧れるんだとか……
で、大人になってからの価値観も日本とはやっぱり少し違っていて、時間があるなら副業するかスキルアップのための勉強に使う。とにかく時間はお金に換算できるものに使う、ということが普通なんだそうです。中華圏の方って副業してる率が本当に高い気がします。
そうなると余暇の使い方でも資格試験とか語学は人気があるけど、絵や文の練習をするのは(そんな一銭にもならないものになんで??)と感じてしまうっぽい。
その様な環境なので、中国のオタクでファンアートを描くような人というのは基本的に「プロのイラストレーター」「美大出身者」なんです。
だから中国の絵師はみんなやたらと激ウマなんです。プロじゃない人はそもそも絵を描かないので。
プロか、それ以外か。の世界であって、アマチュア絵描きという概念が存在しない。
(ただし最近の優秀な無料ソフトの普及の効果か、ここ数年になって若い学生オタクが趣味でお絵描きしてる様子も見かけるようになってきました)
ここで話が戻りますけど、オタクの活動の中に「ファンアート」「二次創作」というカテゴリが(日本ほど大きくは)存在しない世界……それでも熱い想いを抑えきれないオタクはいます。
ならば、その世界でオタクはどんな行動に出るのか……………「翻訳」です。
なんとなく分かりましたか?
「字幕組」の活動は、日本で言い換えるなら二次創作活動にあたると思います。
結果的に権利侵害になっているとはいえ、「邪悪な人々が日本の文化遺産を喰い物にしている」というよりは「てえてえの爆発した海外オタクがクソデカ感情をなんとかするために翻訳活動に精を出している」という目で見ておく方が実態に近いのかなと私は思っています。
さて、脱線が長くなりましたが、元々中国のオタク界隈にそのような「字幕組」文化があったところにVtuberという新たなコンテンツがやってきました。
Vtuberって、ベンチャー発/個人発が多いこともあって今までのコンテンツと比べると「公式とファンの境界が曖昧」なところが多いと思います。
今までは二次創作活動といえば最悪訴えられる可能性もあるので公式にバレないように隠れてやるものだったけど、Vtuberの界隈は配信者自身が直接反応してくれたり拡散してくれたりしますね。
動画なんかも、今までだったら好きなアニメの動画をキャプチャーしてネットに垂れ流したら著作権侵害だったけど、Vtuberはむしろ布教のためにファンによる動画切り抜き投稿を推奨してたり…。
それが中国に行くとどうなるか…。
今まで「実は違法だけど布教のために実質黙認」だった字幕組という人達の存在が、表に出て公式の強力なサポーターになりつつあるんです。
勝手に翻訳字幕を付けて動画を転載する行為が胸を張ってファン活動だと言えるように変わってきたんですね。
そして、有名Vtuberの中には個人勢や(プロの翻訳者を雇うことをケチるような)ゆるい企業勢も多かった。
すると、単なるファン活動だった字幕組が「ボランティアで中国語翻訳やりますよ」と配信者にコンタクトを取り、あるいは運営側から声を掛けられ、公式公認化へ…実質的な中国支部窓口になっていく現象が起こり始めたんです。
ここまで言えば分かると思うんですが、ホロライブの中国展開、恐らくこのシステムになっている。
検索したらこんな記事が出てきたんですが、ここにちらっと触れられてる「中国の字幕ボランティアの協力を得て」という部分ですね。
ホロライブ、bilibiliと正式契約 VTuberの中国展開を開始 - MoguLive
大企業だったら現地子会社や現地支部を作って翻訳や広報の展開をしていくんだけど、恐らく2020年時点でのホロライブの中国向け運営は実質有志のファンに委託している形になってると思います。(もしかしたら活動が大きくなった段階で正規雇用したり法人化してるのかもしれないけど)
このような事情があり、ホロライブのYouTube配信はbilibiliで同時配信されていて、そこに「字幕組」の同時通訳者が解説を入れたりアーカイブに字幕を付けたりして日本語を理解できない中国ファンのみんなも楽しめるように作ってるんですね。
この状態を「公式」と言えるのか「非公式」と言うのか私にはよく分からないのですが、
少なくとも「日本の運営が全く知らないところで勝手にやってる」ということはないし、逆に「日本の運営がやってる」とも言い切れない。
これって責任者不在だと思います。
【Minecraft】超级钓鱼狐 bilibili公式チャンネルに投稿されているホロライブ所属白上フブキさんのマイクラ配信アーカイブより。
右上にofficial bilibiliのロゴが入っています。配信そのものは完全に日本向けで全て配信者本人もすべて日本語で喋っている。中央下の青字幕が(恐らく字幕組による)中文字幕であり、それを読んだ中国リスナーのコメントが流れています。
ちなみに白上フブキさんのyoutubeチャンネル登録者数は2020年10月10日現在92.4万ですが、bilibiliフォロワー数はそれを10万近く上回る117.2万。
(※この記事を執筆した時にbilibiliで生配信をしているホロライブ配信者がいなかったのと、桐生ココさんのチャンネルは現在動画がすべて削除されて閲覧不可になっているため、最も登録者数の多い白上フブキさんの動画を例として引用させて頂きました。彼女自身は今回の騒動には一切関係ありません)
こんなふうに、日本の視聴者は身内だけのつもりでyoutubeで見ているんだけど実はbilibiliでも本人のアカウントで公式ロゴ入り同時通訳配信が行われてる…という状態があるわけです。
ちなみに中国のbilibili動画は日本のニコニコ動画をリスペクトして生まれたユーザー参加型動画投稿サイトなんですが、近年では日本の配給会社と正式契約して日本アニメの公式配信を行っています。
bilibili発のオリジナルアニメなども増えており、「公式コンテンツの配信プラットフォーム」という印象が強くなってきています。
(bilibili動画トップページ いま日本で放送されている最新アニメがほぼ同時に正式配信されている。)
長々書きましたが、この件、以上の背景を踏まえると
一般の日本ファンから見れば「中国人なんてお呼びじゃないYouTubeで配信してるのになんで中国人に怒られるの?」と感じるし、
一般の中国ファンから見れば「わざわざ中国版公式bilibiliチャンネルでスタッフの翻訳まで付けて中国向け配信してるのに、あまりにも中国人の国民感情に配慮のない内容では?」と感じる。
ここが、「YouTubeで配信していた内容に中国人がクレームを付けた」現象の理由だと思います。
ちなみにこれがホロライブのbilibiliアカウントのプロフィール(スマホより閲覧)なんですが、私は初めてこれを見たとき中国支社がやってるんだと思いました。
「ファンが非公式で勝手にミラーリングしてる」とは思わなかったし、そのような事情を知らないまま正式な事務所だと思っている一般のファンも多いはずです。
※「官方」というのは日本語に訳すと「公式」のこと
冒頭にも書きましたけど、一応今までの考察は自分が知ってる範囲内で中国のオタク文化とググって出てきた情報から推察したことであって、私はホロライブの運営体制を深く知ってる人間ではありません。
もしかしたら既に公開されている情報を見落として間違ってるかもしれません。あくまで断定ではなく、これってこういうことなのかな~と思いました、というオタクの日記です。(明らかな事実誤認があるようでしたらご指摘頂ければ訂正します)
最後に
③結局、配信者/運営の対応の何が不適切だったのか
これについては他の方がファン目線のきちんとしたnoteをいくつか書かれていますので今更深くは突っ込みませんが、気になったことがいくつかあるのでそれだけ書いておきます。
炎上の数日後に、ホロライブの運営であるカバー株式会社の名前で出された中国向けの文章が悪い意味で大きな話題になりました。
「ひとつの中国(一个中国)」を支持する、というような表現が使われていたからです。
「ひとつの中国」という言葉、普段は聞き慣れないかもしれませんが、中国ウォッチャー界隈では非常に馴染みのある政治用語、慣用表現です。
先に述べた台湾の領有権問題に対して中国の政府が取っているスタンス、それが「ひとつの中国」。
ざっくりいうと「中華人民共和国と中華民国、ふたつの中国が存在しているという認識は認めない。中国はひとつしかない。つまり中華民国(台湾)はうちの国の一部である」
ということです。
政治用語としてはとてもメジャーな言葉なんですけど、これって「中国人に向かって台湾はどこの領土ネタをやってはいけないことすら知らなかったレベルの人間たち」が思いつける表現ではないと思うんですよね。ただの推測だけども。
すごくネイティブ中国人っぽい言葉のセレクト、言い回しだなと思ったんだけども、ということは、もしかすると文章を現地スタッフに書かせて、日本側からその内容については特に精査せずそのまま社長の名前を付けて公表したのかな…と感じました。
もちろん日本企業が会社の声明としてそういうものを出したこと自体にも驚いたけど、そうだとしたらそんないきあたりばったりな運営体制で大丈夫か?と不安になりました。ただの推測だけど。
ちゃんと日本の社員が中身を理解して「ひとつの中国」でいいよ!って同意して出したのかもしれませんし、それは私には断言できないのであくまで推測です。
もうひとつは、今回の騒動のきっかけになってしまった桐生ココさんのbilibiliアカウントについて
先ほど動画が削除済だったので引用できなかったと書いたんですが、これは不適切な行動が原因でbilibili運営にBANされたとかではなく、アカウント自体は存在してるんだけど全ての投稿が削除されている(アカウント管理者が自分の意思で削除した)状態です。
で、ここに「字幕組は解散しましたので、字幕組の成果物(動画)は削除しました」というような文章が書かれているんです。
詳しい経緯は知りませんが、色々あったために字幕組を務めていた熱心なファンの方々が今はもうファンではなくなり翻訳活動を終了したのでしょう。
そこまでは分かるんだけども、これは正式に稼働しているホロライブの公式アカウントではなかったのか?
動画の権利自体は配信者或いは運営が持っていて、字幕組はあくまで「翻訳字幕を付けるボランティア」だったのでは?これではまるで何から何まで全て字幕組が運営してたみたいじゃん…もしかして日本の運営は中国での活動に本当に何も関わっていなかったのかな?と疑問が湧きました。
字幕付き動画の権利についてはまた難しいところなので、元動画は配信者のものでも第三者が字幕を付けたら字幕を付けた側に公開/削除の権利が移るからなのかな…?という気もしますが、、、でも投げ銭が有効になっているはずなのでいくら本国じゃないとはいえ勝手に収入源を消していいのか?と腑に落ちない所です。
まとめ
非常に長くなってしまったので最初の三つの疑問点を改めてまとめます。
①なんで台湾の国表記で炎上するの?
・台湾に限らず領土認識はとてもセンシティブで、「そんなつもりじゃなかった」「知らなかった」は通じない話題です。多くの日本人にとっては「そんなこと」だとしても違う文化圏の人には洒落にならないとみなされることがあります。
②なんで中国から見ることのできないYouTube配信の内容について中国人に怒られなきゃいけないの?
・中国でも公式の名を冠して配信していたから。もちろん投げ銭もある。お金と時間をつぎ込んで推し活していた向こうの人からすればショックを受けるのは当然のことかもしれません。
③結局、配信者/運営の対応の何が不適切だったの?
・個人的にはボランティアに投げっぱなしの運営方法が良くなかったと考えています。現地の風習がわかるスタッフを付けたり、生配信ではなく事前にマズそうなところをチェックした動画投稿スタイルなら防げたかもしれません。
最後に
文中では敢えて私自身のスタンスはあまりはっきりとは書かなかったのですが、全体的にこの件に関してどう思ってるかというと、やっぱり中国オタクとして、「異文化への無知が理由でトラブルになる」ってすごく悲しいんですね。
実際結構よくあることで自分も何度も経験してるし、ブロックも通報もしたことあるし、こちらがあちらの風習を分かってなかったせいで申し訳ないことをしてしまった経験もあれば、あちらがこちらの風習を分かってくれなかったせいで喧嘩になったこともあります。
元々中国界隈のオタクって両国の歴史関係を考えてもそういう距離感が難しくて、普通に二次元オタクしてるだけなのにどうしても政治や歴史の話になってしまったり人間関係を壊してしまったりしがちなんです。
これは本当にそう。たぶん同志ならみんな何かしら似たような経験あるんじゃないかな。
だからこそ快適なオタクライフのために、お互い「相手が嫌がりそうな歴史や文化のタブーはは事前に勉強しておく」「文化の違いが原因で悪意なくムカつくことを言われても寛容に受け止める」みたいな暗黙の了解ができていたというか、空気の読み合いをしながらそこそこうまくやってきたようなところがあると思うんです。少なくとも私はそう思ってた。
この数年で急速に両国の企業の進出が増えて、企業も個人もそういう心構えのできないままいきなり現場に放り出されて、それでうまくいかなくてトラブルになってしまうことが本当に増えてきました。
具体的に言ってしまうならお金と数字です。ただお金と数字を集めるためだけに異文化の世界を土足で踏み荒らしに行く様なことを続ける限り、このようなトラブルは起こり続けます。
これからはもっと増えると思います。
避けようのない事故は仕方ないけど、きちんと対策ができていれば避けられるはずだった事故を起こしてしまうのはもったいないです。
それはもちろんこちらだけでなくてあちらにも求めていきたいことだし、日本人が他国の文化にばかり配慮せよというわけではありません。
快適なオタクライフのために、譲り合いしたいライン、譲ってはいけないライン、そういうことをしっかり考えて事故を減らして、これからも世界のてえてえを集めていけたらなと願っています。