モチャ基金


輪を嵌めて首を伸ばしたり
下唇を切って皿を嵌めるなど世界には様々な民族がいますが、
アフリカの奥地にいる、鼻で荷物を運ぶモチャ族を知っていますか。

紐がついた石製のフックを鼻にかけ、
紐に結ばれた籠を頭の方から背中に垂らし、
水や食料を入れ、運びます。

当然モチャ族の鼻の穴は皆広がっているのですが、
驚くべきことに普段彼らは鼻に五円玉を詰めているのです。

これは37年前、ある日本人研究者が偶然モチャ族に遭遇した際に、
普段の生活で異物が入らないようにと五円玉を贈ったことがきっかけです。
なるほど砂ぼこりは入ってこないが呼吸はできるということで、
以来モチャ族の生活に五円玉は欠かせないものとなりました。

五円玉は耐久性に優れておらず(硬貨としては抜群なのでしょうが)
一年もすれば欠けてしまいます。
研究者はそれ以来、毎年モチャ族へ五円玉を届けていました。

モチャ族は非常に特殊な生活形態であり、
世界中の研究者の興味の対象になることは間違いなかったのですが、
できることなら彼らを好奇の目に晒したくないと、公表はしていませんでした。

しかし昨年、研究者は病に倒れ、モチャ族の所へ行くことができなくなりました。
そこでアフリカ行きを孫へ託したのですが、その孫というのがわたしなのです。
モチャ族の長に祖父のことを告げると長はひどく悲しみましたが、
「自分達を世間に公表してほしい」と言いました。

今まで祖父にお世話になってきたから、お返しがしたいと。
つまりモチャ族の研究論文を公表して祖父に研究者としての成功を贈りたいと言うのです。
散々悩みましたが、モチャ族の強い希望もあり、来年に学会で発表することになりました。
同時に「モチャ基金」を設立し、定期的に五円玉を送れるようにしました。

五円玉が人と人を繋ぎ幸せを運んでいます。
あなたも五円玉に幸せを乗せてみませんか。

「五円玉を使ってプレゼンしてください」という東京FMのエントリーシートのために書いた文章なんですけど、いったいどのようなことを書くのが正解だったのか今もわからないままです。

念のため念押しですが、モチャ族はいません。

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