
フィリピンで最も危険な街・トンド【マニラ編#3】
@Tondo トンド・シティ
3日目ともなると夜に出歩くことにも慣れてきて、洒落たバーに足を踏み入れて新たな出会いを求めたくなるものだ。入ったバーは図書館の様に壁一面に棚が広がっており、その棚にウォッカやらテキーラやらのアルコール飲料の数々が並べられていた。

カウンター席に座り450ペソ(1200円)のよく分からないカクテルを注文し、雰囲気に慣れてきたタイミングで隣に座っている男女3人組に話しかけた。彼らは大学の同期で、卒業後も頻繁に集まって交流を続けているらしい。
まずはメガネの男に対しオススメの街か島はあるかと尋ねてみたのだが、どうも彼は生真面目な部分があり、食べ物が目的なのか自然が目的なのか、はたまた極上のフィリピーナが目的なのかという逆質問を繰り返す始末で、手元のカクテルが450ペソもしなければ彼のメガネにぶちまけていた。
逆におすすめしない場所はあるかと尋ねると、メガネは「トンド」と即答した。そういえば墓地にいた子どもたち(マニラ編#2参照)も「トンドには行くな」「口を少しでも間違えれば簡単に殺される」と言っていたのを思い出した。
そこまで言われるとバックパッカーの血が騒ぐわけで、その夜はトンドの下調べに時間を費やした。
どうやらトンドは前科持ちや薬物中毒者、極貧民が多く集まっている場所で、窃盗・殺人は珍しいことではないらしい。トンドの雰囲気は、以下のような海外ユーチューバーが散策する動画を見ると分かりやすい。
俺はトンドを訪れることに決めた。
まず事前の準備として、徹底的に現地人の格好に寄せた。バックは持たず、何ならポケットに入れる物のボリュームも抑えた。ひとたび金を持っていると気づかれれば彼らにとっては格好の標的となるが、その点では実際に大した金を持っていなかった俺は不幸中の幸いと言える。ただし、俺の場合はデカい一眼カメラを持っていたので、上記の努力はほとんど意味をなしていない。あとは遺言を書けば準備は完了する。
トンドは広大な街であり、人口密集エリアでもある。俺が訪れたのは「Ugbo Street Market(ウブゴ・ストリート・マーケット)」という場所。ここからストリートを散策するにあたって、何点か注意事項がある。
まず着いてすぐにしなければならないことは、今までついた嘘を数え、自分を産み育てた母親に感謝し、将来生まれるはずだった子供に謝ることだ。それを終えたなら、水を買うなりストリートバスケに参戦するなりフィリピーナをナンパするなり好きにすればいい。俺は全部やった。
俺が行ったウブゴ・ストリート・マーケットはどの道にも頭上に飾り付けがされており、危険な雰囲気は感じなかった。

人々は活気に満ち溢れており、特に若者は俺が持っているカメラを見ると「Picture!」と言って写真を撮るよう頼んでくることが何度かあった。人々の写真を何枚か載せておこう。








ウブゴ・ストリート・マーケットに関しては比較的安全であると言ってよいだろう。そもそもトンドは広大な街であり、一日で歩き切ることはほぼ不可能だ。トンドの中でも本当に危険なエリアは一部だけなのである。
その本当に危険なエリアというのは、ウブゴ・ストリート・マーケットから大通りを挟んで海岸側の住宅地だ。

まず大通りにかかる歩道橋を渡ると、ショットガンを持った警備員に出迎えられる。

俺は歩道橋の上でウブゴから住宅エリアへ向かっている女子中学生に声をかけ同行してもらうことに成功していたので、幸いにも警備員には話しかけられずに済んだ。この女子中学生はその名をマリアナといい、俺のことをずっとウザそうに見てきたが、こっちは命をかけているのだからマリアナは俺に我慢しなければならない。
ストリートに入って驚いたのは、地面がぬかるんでいることと、生ゴミのようなにおいがすること。俺はとにかくマリアナについて行き、ついにはマリアナの自宅まで辿り着いてしまった。

マリアナの自宅でマリアナの母と祖母に出迎えられ、自分のことをたくさん話した。また、家の前にあるバスケコートで少年たちとバスケをした。結局そこで30分くらい過ごしたが、マリアナの家族たちにこの辺を歩くのは辞めておけと言われ、周辺を散策することなく帰った。

こんな具合で俺のトンドへの旅は終わった。
危険と言われるエリアに関しても、結局のところは人が住んでいる場所であり、彼らの邪魔をしなければ基本的に暖かく迎えてくれる。
ただし、こちらの隙を伺っている本当に危険な人間もいるので、細心の注意を払いながらも、緊張を悟られないようにする技術が求められる。
生きる理由が無いときに行くのがいいだろう。