小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】 #2 黄昏わらべ、師走わさび、涼路わたの6月1日
黄昏わらべ(たそがれ わらべ)
6月1日 水曜日 午前8時15分
愛知県 夏露中学校 1年4組
「─ということで今日は校外学習のくじを引きます」
周りが少しだけざわつく。みんな、楽しそうにしている。
どうやらもうすぐ、歴史を学べるテーマパークの「胡桃森」というところに行くらしい。その時の行動班は、全10クラスから1人ずつ集め、合計10人が1班になる。何班になるかはくじで決まるため、今から担任がシャッフルしたくじを引くのだ。
俺は楽しみではなかった。
わさびとわたと同じ班になってしまうのかと思うと、緊張していた。相当運がよくないと、あの二人とはきっと会えないだろうけど。
あれから、氷が引っ越してから、ずっとあの二人とは話せないままでいた。お互い会うことが気まずくなってしまったからだ。
わさびとわたと氷は大切な幼馴染みで、氷は今は静岡にいて、わさびとわたとは同じ学校だが、全然話していない。
同じ班になっても、多分俺は上手く話せる気がしない。だけど、話したい。もう一度、あの時みたいに4人で話せたらなんて幸せなんだろうって思うよ。思うけど。
今こう思っているのは俺だけかもしれない。あの2人、3人は4人でいたい、と思ってくれているのだろうか。
「─おーい、わらべ!お前だぞ!」
「っ!あぁ!」
俺の名簿番号の19番は意外と早く回ってきた。
結局どっちを願えばいいのかも分からないまま、俺は複雑な気持ちでくじを引いた。
師走わさび(しわす わさび)
6月1日 水曜日 午前9時05分
愛知県 夏露中学校 1年10組
「─わらべー、班どこ?」
「俺14班だった」
「えー、俺13班ー!まじか、惜しー」
「一個違いか!うわー」
─なるほど、14班。
少し安心しながら、悲しいという感情がどこかにあった。
まだ、遠い。
まだ、話せない。
コミュ力おばけとの別名を持つ私でさえこの問題は解消されないままだった。
あとは、わただけ。わたと班が違ってれば─
と、思考が停止した。頭を殴られたような気がした。それで、自分が最低だってよく分かった。
安心するには、笑顔でいるには、違った方がいいはず。でも、本当は一緒にいたい。同じ班で話したい。
自分に嘘を付いてしまいそうになる私にもう一発殴ってやりたかった。
そのまま机にうつむこうとしたところで、「もしかして、寝不足?」と声が聞こえた。
「ん?あ、愛華葉(あげは)か」
こんなタイミングで最悪だよ。
空元気に見えないように、「違うし!」と怒って返した。その時に、10組の教室の前を女子二人が通った。
涼路わた(りょうじ わた)
6月1日 水曜日 午前9時11分
愛知県 夏露中学校 1年5組
「─わたちゃんはまだ、ピアノ弾いてる?」
「ん?弾いてるよ」
急に音楽の質問で、驚いた。
気にするようなことかな?と思いながら、質問返しした。
「夜音ちゃんはどうなの?」
宮本夜音(みやもと よるね)は何の迷いも無く、笑顔で返した。
「もちろん!楽しいしさ!」
うん、かわいい。
「弓道とか、習字とかは?」
「やってるよ。、、、どした?」
「いや、私、今習ってるテニスやめよっかなーって、、、」
「え!?やめるの?」
他愛のない話をしながら10組の教室の前を通る。ついでに、黒板を見てみる。日直はまだ消した無かったらしく、さっきの授業の班決めの字が残っていた。
─27班。
わらべは14班、わさびは27班。自分は、1班。
良かったのか。それとも残念だったのか。
自分はよく分からなかった。あれから何年だか記憶が薄いが、いつのまにか話さなくなっていた。
話したいけど、話せない。
自分の勇気の無さが情けないと思った。
「わたちゃん!そこ、階段!」
「え!?」
他のことを考えていた。
だから段差に気付かず、そのままこけそうになった。
「あぶな、ありがと、夜音ちゃん!」
目の前のことに集中しよう。
自分は理科室へ行く足を進めた。
続
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