小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#34 それでも、会いたいなら
黄昏わらべ 8月7日 日曜日 午前5時55分
愛知県 夏露町 黄昏家
とうとう、約束の日が来てしまった。
今日は8月7日。氷がやってくる日なのだ。俺は布団に深く潜った。
氷が来てくれるのは嬉しいけど、ただ。
いまだに、あれから話をできていない。
わさびと、わたとは会えていないし、一度も話していない。氷はあの2人にも会いたいと言うはずなんだ。でも、氷は知らない。
─俺らの友情は完全にあの時に切れてしまったのだ。
あの後の1学期後半、ひどい虚無感と孤独感、疲労感に襲われ、特に何も覚えていない。
どのように過ごしていたかも分からないが、多分いつものように、笑って過ごしてたんだと思う。笑うたびに、罪悪感も俺を攻撃してきたけど。
音楽の授業では先生に歌わなかったことを怒られ、いい加減部活に入れと体育教師には叱られ、テストでは、ほぼ0点に近い点数を取ってしまった。ちなみに、夏休みの宿題はまだ終わっていない。
葉凰だけが、俺に優しくしてくれたのを覚えている。俺の話を黙って聞いてくれて、その日の学校が終わった後、俺に夕飯を奢ってくれたのをうっすらと。
あと、7時間くらいで、氷は到着する。俺は、小さくため息をつき、二度寝に入った。
氷に、言える勇気が出たら良いなって思いながら。
師走わさび 8月7日 日曜日 午前6時00分
愛知県 夏露町 からふるとまと
スマホのアラームが鳴った。
私はそれを精一杯手を伸ばして、アラームを切るの表示を押して、音を止めた。
まだ、寝ていたい。
夏休みに入って、数週間経つ。
宿題はそこそこ終わった。わらべとわたは終わったかな、と気になった。
─なーんて、もう仲良くできるわけでもないのに。
それでも、私はスマホを操作して、「天体観測」の音楽を流していた。
始めようか、天体観測。2分後に、君が来なくとも。
その歌詞は、私の心を少しでも温めた。
あの時、私は逃げてしまった。
わらべとわたを置いて、走り去った。特に、私は泣いていたから、誰にも見られたくなくて。
その後、なぜかわただけが1人怒られていて、私はひどく胸を痛めたのを覚えている。
─わた、たくさん成長してたな。
小学校の頃はあんなに内気で、しゃべるのを避けていたのに、あの時、自分から話し出した。しかも、先生たちにあんなに責められていても、顔色を何一つ変えずに、言葉を発し続けていた。
何より、あんなに笑ってくれるんだって、嬉しくなった。
わらべも、あの時と変わらない優しさで、私のところまで来てくれた。それに安心して、もっと泣いてしまったのだ。
けど、そこからは私が悪い。
私が突き放したから、悪いのだ。だから、夢は実現しなかったのだ。
本当に悔しい。本当に申し訳ないって、常々思ってる。
だからね、もう一度、2人に会おうと思ってるんだ。あの2人には、たくさんの勇気をもらった。今度は私が勇気を分け与えるんだ。
2人に会えたら、今度は氷に、会いに行くんだ。
私は、歌い続けるよ。
どんなに否定されても、泣いても、逃げないから。
自分自身に、そう言い聞かせた。私は、負けてない。ベッドから勢いよく起き上がって、部屋のドアを開けた。
黎明わた 8月7日 日曜日 午前6時05分
愛知県 夏露町 黎明家
「─母さん、おはよう!!」
「おはよーう!」
今日も良いあいさつ!
自分は、自分の机の前にある椅子に座った。さあ、今日は何しようかな。
夏休みの宿題を全て終わらせた自分は、とても絶好調である。
ふと、あの時の光景がよみがえった。
2人と会えた日のこと。
たしかに仲良くなれなくて悔しいけど、でもそれは0じゃない。一歩、いや、何歩も踏み出せたのだ。
一番最初に話し始めて、わさびにも応答できて、先生にも自分の意見を言えて。自分にとっては最高な日だった。自分自身を成長させてくれる、いい機会だった。
どれも、あの二人のおかげだな。
あの二人を、いや、氷入れて三人を、自分はずっと追いかけてきたのだ。
まっすぐで、ポジティブで、話し上手な彼らが大好きだから、ここまで来れたのだ。
ただ、ここはゴールじゃない。
ゴールはまだ先、4人で笑い合うことなのだ。
「どうしたら仲良くなれるかな、、、?」
こうやって考えるのも、また一つの楽しみだ。
黄昏わらべ 8月7日 日曜日 午前8時45分
愛知県 夏露町 黄昏家
『─氷が、転校したんだってさ』
『ははっ。なんの冗談?』
俺はその日、笑いながら、友達と廊下を歩いていた。みんなでドッジボールをするために。
『いや、本当だって。5年4組の人もみんな驚いてるよ』
『え、本当なの?』
俺はその場で足を止めた。そしたら、友達も足を止めてくれた。
『うん。ただ不思議なのがさあ、、、氷の弟の日向くん(ひなた)?あの子だけは学校に来てるんだ』
『、、、!!?』
俺は友達に黙ってボールを押し付けて、その場から走っていった。
『あ、わらべ!、、、もー、グラウンドで待ってるからな!』
『─わたわた!!』
わたははっとしたようにこっちを見た。何、と小さな声で呟きながら歩いてこっちに来た。
『氷が転校したんだって、友達が!』
『え、そんなわけないじゃん』
『見に行こう!!』
俺はわたの手を引いた。
となりの5年2組に入ろうとしていた、わさびも止めて、『氷が、転校したんだって』と言った。
『え、嘘!!』
この世の終わりを示すような声色で、わさびは叫んだ。
5年4組を覗くと、本当に、氷の席はなくなっていた。健康観察板にも、氷の分のところには斜線が引いてあった。
転校したんだって、分かった。
『なんで、転校したんだろう、、、』
今にも泣きそうな声で、わさびは言った。
『でも、日向くんはいるんでしょ?』
『なんか不思議だよな』
3人で、6年4組の担任に聞きに行った。けど、先生は教えてくれなかった。
『─早く教えろって言ってんじゃん!!』
『わ、わらべ、やめた方が』
俺は、5年4組の担任に掴みかかった。
『やめなさい、わらべ!!』
先生は叫んだ。わさびも俺を引きはなそうとする。わたは一歩下がって怖々と俺らを見ていた。
『わさびとわたわただって!氷と仲良くしてたじゃん!』
『でも掴みかかるのはだめだよ!』
『、、、』
俺は泣き出した。誰も、俺の味方をしてくれなかった。わさびにはわたわたがいる。でも、俺には相棒がいない。それが悲しくて悔しくて仕方がないのだ。
『─わらべ、待ちなさい!』
先生が叫ぶのに応じず、俺はその場から走って離れた。
それ以降、俺らは一回も会っていない。
場面が変わり、今度は俺の部屋と、5年生の自分、今の自分が映った。
『氷に会いたい』
ぽつりと言った。独り言だった。大好きだった習い事のバスケもやめて、本当にやることがなくなった。バスケのチームの奴らには何も言わず、黙ってやめた。
─それはまるで、氷と似ていた。
お前は、人のことを言えないよな。
お前のバスケのチームメンバーは、今頃泣いているかもしれない。悲しませていいのか?
氷に会いたいなら、会いに行けばいい。
2人に謝りたいなら謝りに行けばいい。
─お前がやらなくて、誰がやるんだよ。
今の自分がそうやって言った。
お前がやらなくて、誰がやるんだよ。
お前が、俺がやらなくて、誰がやるんだ?
それは、もちろん誰もいるわけないじゃないか。
目を覚ませ!
「─!!」
跳ね起きた。時刻は9時前。そうだ。あの時早く謝っていれば、みんな苦しむことはなかった。みんな、ごめん。
ずっと、ぐずぐずしてられない。
行こう!!
俺は決めた。
氷に言うって。
続
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!
ちなみにみなさん
今日は何をしましたか?
自分は東京に行ってきました!
いろいろと用事がありまして、、、。
その道中にお話も考えつつね。
とても楽しい東京旅でした(*´ー`*)
それじゃあ
またね!