小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#5 出会い頭
─第2章 昔のままじゃ、いられないから
師走わさび 6月2日 木曜日 午前5時45分
愛知県 児童養護施設からふるとまと
「─んーと、ここの問題は、、、」
チクタク、と時計の針の音だけか部屋に鳴り響く。
私はデスクライトだけを点けて、勉強していた。近くまで迫ってきた期末テストに向けてだ。
オレンジの優しい光に包まれて、気を抜くと寝てしまいそうだ。
時計を見ると、5時45分を指していた。
─あと、15分。
6時になると、小中高生を先生たちが呼びにくる。
基本、6時までは寝ないといけないのたが、次のテストは、絶対に愛華葉と差を付けて一位になる。だから、外にできるだけ灯りが洩れないように、勉強をしているのをバレないように過ごしているのだ。
流石に限界か?となり、もう一度時計を見る。─5時50分。ナイスタイミング、と微笑んだ。そろそろ布団に入ってないとバレる。
私は、勉強道具を整えてバッグの中にしまい、物音を立てないように床を歩き、布団に潜り込んだ。
今日の朝御飯は何かなぁ、とわくわくしていた。
目を瞑って、開けてを繰り返して数分。
誰かの足音が近づいてきた。その足音は、私の部屋で止まり、コンコン、というノックで扉が開いた。
「わさびちゃん、おはよう!」
「、、、え、あ!あめりん!」
扉から少女が覗き込んでいた。
師走わさび 6月2日 木曜日 午前6時
愛知県 児童養護施設からふるとまと
私は、ベッドから飛び降りた。
「おはよう、あめりん!珍しいね」
少女はあめりん─夜一夜雨凜(よひとよあめり)だ。私がここに入所してからずっと友達。
いつもならここで働いている宗田さん(そうた)が起こしにくるのに、今日は彼女だった。それに、子供はこの時間歩き回ってはいけないはずだが─
不思議そうにしてる私を察して、あめりんは話し始めた。
「早く起きちゃったところを棚本さん(たなもと)に見られちゃってさー。じゃあ、起こしに行ってくれる?って頼まれて!」
「怒られなかったんだ!」
「うん!ただ、見谷さん(みたに)だったら怒られたかもよ?」
私が前怒られたのは、見谷さんに見つかったからだ。棚本さんは優しいお姉さんだから、全然怒らない。見谷さんは優しいが、少し世話焼きなところがあるのだ。
「いいなぁ。自分は見谷さんだったから─」
「あら二人ともおはよう!」
「!!お、はようございます!」
変なタイミングで、食堂から見谷さんが顔を出した。
「今日のご飯はなんですか?」
「今日は、クロワッサンと、目玉焼きとー、、、」
「わ!楽しみだなー!」
「ね!」
さっきのことを忘れて、今日のメニューに心を踊らせていた。早く食べたい。
「あと柏ノ木さん(かしのき)と宍甘さん(ししかい)起きてきたら食べましょう!」
「「はーい!」」
聞かれてないみたいで良かったー、と安心したとき、肩に手をポン、と置かれた。
「わさびちゃん、さっきなんか言ってた?」
「、、、!!?」
やばい、バレてた。
「何もい、言ってないですっ!」
「それならいいけどー?」
笑いながら言われた。
いがつい裏返ってしまった。やっぱり嘘が下手だ。
あめりんにも笑われていると、食堂に入ってくる男の子を見掛けた。
「みっちゃん!おはよう!」
「おお!おはよう、二人とも!」
柏ノ木空馬くん(かしのきからめ)と宍甘天磨くん(ししかいてんま)だった。
「─へぇー、怒られなかったんだ!」
「そうなの!だからわさびちゃんを起こしに行って、わさびちゃん、愚痴言ってたのバレちゃって!」
「ははっ、わさびちゃんドンマイ!」
「違うって!愚痴言ってないし!」
私は目玉焼きを頬張りながら手を横に振った。
「嘘が分かりやすいねぇ、わっちゃんー」
「うるさいー!」
あー、もうなんでこんなことに!
あめりん、許さないからね!
師走わさび 6月2日 木曜日 午前7時
愛知県 児童養護施設からふるとまと
「─それじゃあ、行ってくるね!」
「うん、気をつけて!」
「また後でな!」
「行ってらっしゃい!」
手を振って、私は外に出た。
今日もいい日になるかなー、とスキップしながら学校に向かう。今日の授業は─と思い出していた時だった。突然、「わさび!」という声が聞こえた。
懐かしい声だった。
思わず振りかえると、わらべだった。
「え?」
わらべは、走ってきて、肩で息をしていた。
「どうしたの?」
「お前に言いたいことがあって─」
その時、「おーい!」と女の子の声がした。
私は、はっと気付く。
そうだ、この人めっちゃ気まずかったんだ、何話して─
私はわらべを押して、友達の方に駆け出した。
続
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