小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#9 揺らめく火

黎明わた 6月2日 木曜日 午後2時
          愛知県 夏露中学校 理科室

 物質の性質を調べる方法、か。
 こういうの将来に使うのかな、なんて思って苦笑した。
「わたー。ガスバーナーとマッチと燃えかすいれ持ってきて!」
「ん、了解!」
 隣の席の男子、来井芽草流(くるい めぐる)に言われて、自分は席を立った。
 普通は四人グループなのだが、今日は前の席の女子二人が休みなのだ。だから、二人。
 マッチを振って、中身があるかを確認していると、ふと思い出した。
 ─わさび、授業中寝てたなぁ。
 いつもなら暁と発言勝負してるはずなのに。
 まぁ、優等生も眠い時はあるか。
「ありがとなー」
「ん」
 軽く礼を言われたから、軽く返した。
「それでは実験を始めてください」
 先生のそんな合図が出ると、一気にマッチを擦る音がした。
「わた、いける?」
「来井やらなくていい?」
「俺はガスバーナーを点ける!」
「おけー」
 自分はガスバーナーをつけられない。
 さっきの十分休憩の間にそんな話をしていた。それを覚えているとは。さすがだな、と思った。
「任せとけっての」
 そう言って、マッチを擦った。赤くて、熱い炎がゆらゆらと揺らめいていた。

黎明わた 6月2日 木曜日 午後2時
          愛知県 夏露中学校 理科室

「、、、なぁ、わた」
「ん、どした?」
 ガスバーナーで三つの粉(小麦粉、砂糖、食塩)を熱しながら、来井が話しかけてきた。
「小泉、分かる?」
「あぁ、分かるよ。実行委員にいた」
「え、まじ!?」
 急に大声を出した、来井。それに反応して、クラスメートが振り返る。
「どうした、来井笑?」
「あ、なんでもないです」
 クラスメートが微笑む。先生も笑顔だ。
「けっこう大声だったな、今の笑」
「あぁ、本当だよ、え、てか小泉まじでいたの?」
「うん」
「うわー、実行委員行きたかったー、、、」
 そう言って、少し残念そうにする。
 小泉さんに反応しているということは、小泉さんが好きなんだろう。多分。だから、一応訊いてみた。
「小泉さん、好き?」
「あ"ぁ"!?」
 またみんなが振り返った。自分は笑った。
「あえて小声で言ったんだけど」
「いやーだってー、え、なんで分かった?」
「勘」
「すげーわー、、、」
 改めて炎を見つめた。青色の炎が、固体を熱している。
「ちなみに、どこが?」
 いつの間にか、恋バナになっていた。
「んーなんだろ、笑顔が可愛くてー、声が綺麗でー、内気だけど頼りがいがあってー、頭良くてー、、、」
 燃焼さじを持ちながら、片手で指を折り始めた。
「あとー他にいろいろ!」
「へぇー、、、」
「ま、わたは人に興味ないだろうけどね」
 さらっとディスられた。でも確かに、あんまり考えたことはない。ともかく何か返事をしようと、率直な感想を口にした。
「来井だったら、小泉さんもうれしいと思う」
「え?」
 身体を止めた。
「えっ!?」
 燃焼さじを落として、顔を赤くした。
「おいおい、大丈夫か?」
 先生がやってきて、自分は笑いながら対応した。
「なに、お前弄んでる?え、本気?」
「感想」
「っ!!」
 顔を隠している。可愛いー、と思いながら、再び別の物質を熱した。
「、、、実行委員は代わんないけどな」
「なんなんだよ笑」
 まぁ、わさびはなんでもいいか。今、関わっている訳でもないし。
 赤く揺らめく火が透明度を増して、りんご飴のような色になった─気がした。


最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!
それじゃあ
またね。

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