小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#28 いいことって、続かない
宵宮氷 6月4日 土曜日 午後12時25分
静岡県 紅無町 じいちゃんの家
「─ねぇ、じいちゃん!外暗いよ!」
さっきまであんなに青かったのに。
「あぁ、もう梅雨だからなぁ。いつ雨が降るかなんて、俺も分からん」
梅雨。
そうか、もう6月か。
梅雨が来るなんて天気予報やってたかあまり観ていないが、とにかくもうすぐ雨が降る。
「洗濯物、しまった方が良いんじゃない?」
「そうだな。しまいに行ってくるわ」
ガタッと椅子から立って、二階へ向かう。
「じいちゃん、俺も行く!」
「おお、頼もしいな。ついてこい」
ベランダに出るために、大窓を開けると、目の前に灰色の風景が広がった。
なんだか湿った空気をたっぷり吸うと、何か新しい、楽しいことがある予感がして、俺の胸をくすぐった。
暁愛華葉 6月4日 土曜日 午後12時30分
静岡県 紅無町 静岡食堂・しおや
「桜えびのかき揚げうどんの方ー」
「はい」
「かき氷は食後にお持ちしますか?」
「あ、どうする?」
「溶けちゃうし、食後かな」
「食後で」
「かしこまりました」
にこやかなお姉さんが戻っていく。
「待たせてごめん」
「いいよいいよ。しらす丼、冷めるもんじゃないし」
「みそ汁は?」
「気にすんなって」
葉凰はどこまでも優しかった。
いただきます、と二人で手を合わせる。
葉凰はワサビとしょうゆをしらす丼にかけて、口に運んだ。
私はアツアツのうどんを食べた。
「うまいよ、これ」
「んー、かき揚げおいしい!」
笑顔で、でも黙って食べ進めていく。
トレーにのった、豪華な食事は15分で綺麗になってしまった。
先程みかんかき氷も食べたから、満腹である。
「「ごちそうさまでした」」
丁寧に手を合わせて言う。
「んじゃあ、払ってくる」
私がそう言うと、
「本当にありがとう」
とお礼を言って、葉凰は先に店を出た。
値段は、二人で1650円。
まあまあ安かった。
「ありがとうございました」
「またご来店くださーい!」
「ありゃーとーざしたー!!」
すごい勢いの声に押されるように、店から出ると、私は本来の6月の空気に包まれた。
暁愛華葉 6月4日 土曜日 午後12時20分
静岡県 紅無町 静岡食堂・しおや 前
「なあ、愛華葉、、、」
私は真っ先に、どうしよう、ではなく、申し訳ないという思いが出てきた。
「ごめん」
「あやまらないで、天気が悪い」
葉凰は静岡の空に目を向けた。
─大雨だった。
朝は晴れていたから、もちろん傘なんて忘れた。
天気のチェックも、していなかった。やっぱり、私って、私?
「どうする?」
葉凰がきく。
ここの店の前にいるのはなんだか邪魔だ。
「行きにあった、小さなバス停に行こう!」
私たちは走り出した。
木暮葉凰 6月4日 土曜日 午後12時21分
静岡県 紅無町
ひたすら、走る。
雨は容赦なく、俺らを叩きつける。
身体は冷たく、肺は酸素を求め、視界は悪かった。
「葉凰、大丈夫!?」
「ああ、俺は大丈夫!お前は!?」
「大丈夫!」
これじゃあ、かあさんにまた、怒られてしまう。
けど、もうどうでも良かった。
早くバス停に─!
視界にうっすらとバス停が見えた瞬間、俺の足は雨をのせたアスファルトにとられた。
「なっ、、、!!?」
「葉凰─!?」
俺の身体は一回転した。
宵宮氷 6月4日 土曜日 午後12時25分
静岡県 紅無町 じいちゃんの家
「!?」
俺は窓から眺めていて、心臓が強く脈打った。
びっくりした。俺が眺めていた、同い年くらいの人がこけた。
大丈夫だろうか。
他の方の人が駆け寄る。
どうしよう。
俺も行こうかな。家で手当てさせたほうが絶対に良い。
─悩んでる時間がもったいない!
行こう。
なんて言われたって、俺は止まらない。
だって、あの人たちを見てる度に、鼓動が加速していくから。夢が、俺の目の前まで来ている、そんな感覚がしたから。
雷が鳴り始める。
そろそろ危ない─!
俺は階段を駆け下り、サンダルを履き、ドアから飛び出した。そして俺は声をかける。
「大丈夫かあー!!?」
続
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