小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#33 近づいて、絡まって、遠ざかって
師走わさび 黄昏わらべ 黎明わた
6月6日 月曜日 午前1時05分
愛知県 春霧市 歴史的テーマパーク 胡桃森
わらべは、少しずつ前に進む。わさびも前に進んだ。わたはその場で止まっている。
「、、、」
何を言うにも、声が出ない。
こんにちは、久しぶりだね。それすらも言えない。
急に歌うの?
俺じゃできないよ。
でもさ、せっかく会えたじゃん。
早く歌おうとする。
えーっと、歌い出しは、、、。
あれ、おかしい、俺練習したのに。
「、、、奇跡だね」
急に、わたが言った。わらべとわさびは、驚いてわたを見た。
はははっとわたは笑った。
楽しそうだった。
「、、、」
俺は、口だけは「そうだね」と薄く動いた。でも、それだけだった。
なんて返そう?
「たしかに」って言えない。笑えない。私、これじゃあ、歌えないよ。
だめだ。
あと少し。あと少しで、思い出せるのに。
ああ、誰か教えてくれ。歌い出しを、誰か。
何も返さないのかな?それとも、何か考えてるのかな。自分、ちょっと悲しかったり、するよ。
だって、会えたんだよ。
─ごめんね。
師走わさび 6月6日 月曜日 午前1時10分
愛知県 春霧市 歴史的テーマパーク 胡桃森
ごめん。
不甲斐ないよ、私。
こんなんじゃだめだよ。
歌えないよ。
気づいたら私は、泣いていた。
そのことには、多分だいぶ時間が経ってから気がついた。
「─大丈夫?」
わらべはそう言って、私に近づいてきた。
その瞬間、顔が赤くなっていくのを感じた。わたも歩いていてやってくる。
だめだよ。来ないで。来ないで。来ないで!
「来ないで!!」
「「!?」」
黄昏わらべ 6月6日 月曜日 午前1時15分
愛知県 春霧市 歴史的テーマパーク 胡桃森
驚いて、一歩下がった。
何?来ないでって、なんで?
別に、泣いてるのなんて誰も気にしてないのに。
わたも驚いたのか、さっきの笑顔はすでに消えていた。
「あのさ、私、言いたいこと、たくさんあって、でも、今思い出せなくて、だから、だから、、、」
途切れ途切れで話すわさびを俺たちはただ、見つめるしかなかった。同時に、俺もだなって思い始めた。たしかに俺も、言いたいことはたくさんあったはずで、でも一言も話せなくて、俺こそ泣きたいんだ。
「、、、」
「それはさ、自分らも─」
わたが何か話そうとする。
その時だった。
「─何してんの、、、って、師走?」
英語教師のさっかーがやってきた。
その横には高身長で面白い理科教師の野村先生(のむら)がいた。
「、、、さっかーと、のむT?」
やっと、声を出せた。かすれた声だった。
「黄昏、黎明、師走姫を泣かせたのはお前らか?」
さっきのシンデレラが若干入っているのか、それとも、ジョークなのか、俺には分からない。
、、、いや、シンデレラを混ぜたジョークか。何言ってんだ、俺。
「あの、、、それだと、自分も黎明姫になるよ?」
わたもジョークを混ぜながら言った。
「、、、!!!」
わさびは気まずそうな顔をして、その場から弾かれたように走っていった。
「ま、待って─」
追いかけようとすると、のむTに腕を掴まれた。
「はい、事情聴取」
「や、今、ふざけてる場合じゃな、、、」
とたんに、言葉が止まった。
この場には、固まったままのわたと、何かを怪しむような表情のさっかー、にこにこと不吉な笑みを浮かべるのむTだけだった。
俺、何してんだろ。
こんな男たちに囲まれて。
本当は、今頃わさびがいて、俺もいて、わたも笑ってて、みんなで昔話する予定だったじゃん。
なんで、お前らがいるの?
「っ!おい、黄昏わらべ!!」
俺は駆け出した。
悔しかった。こんなことになるなんて、思ってもなかった。失敗は、しないと思った。もう何度目だろうか。あと何回失敗したら、みんなで笑えるのだろうか。
いろんな同級生の中を縫って走って、そのまま突き抜けた。で、気づいたら俺はパークのエントランスに、ほぼ門の外にいた。
ここなら、きっと誰も来ない。
さっきのわさびみたいに、俺の目からもいくつかの雫がこぼれ落ちた。
黎明わた 6月6日 月曜日 午前2時27分
愛知県 春霧市 歴史的テーマパーク 胡桃森
「─え、だから、わさびは泣いてたというか、その、、、目が、、、痛くて?」
え、なんの話してんの、自分?
そんなわけないでしょ、絶対。
あの後、わらべが走っていった後、自分だけが捕まった。で、事情聴取。笑えるよね。
もう少し、2人みたいにしゃべれたら、良いことを言えたら、本当はみんなで笑えていたのかもしれない。
話すことは、苦手だったから。小学校の頃から、ずっと内気だったから。2人みたいな話し上手になりたいって思った。
「目が痛くてあんなに泣くのか?」
「泣かないですよね」
「ふざけてないで、ちゃんと言え」
軽く、怒られてしまった。でも、ここで黙ったらきっと負けちゃうから。何か言わなきゃ。
と、「わたー!」という声が聞こえた。
「あ、愛華葉、葉凰!」
「え何してんの?」
「いや、今捕まってさあ、、、」
「暁、木暮じゃまするな」
さっかーは鋭い目付きで言った。
「先生、今から閉会式なんで、わたもらってきます」
葉凰がそう言うと、愛華葉が自分の手を引っ張った。本当にありがとう、二人とも。
でも。
「ちょっと待って」
2人に小声で言った。
「先生!」
驚いたようにこちらを向いた。
「やっぱり、言えないです」
それだけ言って、3人でまた駆け出した。
ごめん、先生。
関係ない人には言いたくないんだ。
走りながら、愛華葉たちが、不思議な目で自分を見てる、そんな視線を感じた。
続
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!
さあ この頃 春が近づいてきた感じがしますね!
どうですか?春は好きですか?
ちなみに自分は 春が一番好きなんです(*´ー`*)
花粉症とたたかっている方もいるかもですね笑
それじゃあ
またね!