小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#1 宵宮氷の6月1日
あらすじ
氷、わた、わらべ、わさびの幼馴染み4人は
氷の急な引っ越しにより、距離をとるようになってしまった。
とある梅雨時、わらべの母のスマホに氷が夏休みに帰ってくるとの連絡が来た。
しかし、3人は昔とは違い、一言も交わさない存在に。
相棒の悲しむ姿は見たくないと思ったわらべは、
わさび、わたに声を掛けることにした。
あと少し。
あと、もう少しだけ。
一緒にいたかった。
「合いたい」なら、会いに行こう。
「笑いたい」なら、笑い合おう。
その先に、みんながいるのなら。
─第1章 いつも
宵宮氷(よいみや ひょう)
6月1日 水曜日 午前6時
静岡県 紅無町 じいちゃんの家
ベルの音が部屋中に鳴り響く。
頭の奥でぼやぼやと共鳴する。
それを気のせいにしたくて、寝返りを打つ。と、背中に鈍い痛みが走った。どうやら壁に背中を打ってたらしい。その痛みで、俺は目を覚ます。
「痛いな、、、。、、、もう朝なのかー、、、」
歩くのもおっくうで、腕で這いずりながら窓の下まで来る。思いっきり手を伸ばして、カーテンを握る。それを左にスライドさせる。途中まできたところで、握っている部分がするっと手から抜け、俺は部屋の隅に転がる。
「あー、やっとカーテン開いたー、、、」
目を瞑って欠伸をする。そして目を開ける。開いたカーテンの隙間から眩しい光が差していて、思わず目を細める。
「、、、外明るいな、、、」
窓のサッシに手をかける。指に力を入れて、立ち上がる。
「おおー、、、」
昨日は窓を閉め忘れていたようだ。風と日光が目を乾かしていく感覚がする。後ろを向いて数回瞬きしてから、また外を見る。海が日光を反射して、キラキラと輝いている。その光が石垣、瓦屋根、電信柱、山々を洗っていく。それらも輝いていく。元々住んでいた夏露町もこんな風景だったが、海が無い。ここは海があるから余計に綺麗なのだが、しかし自分は海が無い、田んぼだらけのあの田舎が好きだった。どんな景色を見てもあの夏露に勝るものは無い、と勝手に思い込んでいる。
複雑な気分になりながら、俺はカーテンを全開にして、窓は開け放したまま一階に降りていった。
「おや、氷起きたのか」
「おっはよう、じいちゃん!」
この古家にはじいちゃんしか住んでいない。俺はとある事情があって、ここに住んでいるのだ。
「味噌汁はできてるぞ。ご飯は今から装うからな」
「はーい」
じいちゃんは椅子から腰を浮かして、コンロの火をつける。温めている間に、炊飯器を開けて、俺の茶碗にぴかぴかの白米を盛り付ける。それを、俺の前に置いた。米が湯気を立てて、美味しそうな香りを俺の鼻に届けた。
「、、、味噌汁も。はい」
「ありがとう!」
「おかずはそこから煮物を適当にとってくれ」
そう言ってじいちゃんは靴を履く。
「畑?」
「ああ。お前はゆっくり食べるんだぞ」
「うん、ありがとう!」
いただきます、と小さく呟いて箸を持った。
「それじゃあ行ってくるでな」
「行ってらっしゃい!」
作業服で、麦わら帽子を被った姿のじいちゃんが、勝手口の扉を開ける。
それを俺は、じいちゃんの畑で採れたにんじんを頬張りながら見送った。
─そういえば、じいちゃんに愛知に行きたいって言い忘れたな。
まぁ、家に帰ってきたら言えばいいか。俺も学校の準備しないとな。
考えるのをやめて、雀のさえずりに耳を傾けながら、ほかほかの白米を口に入れた。
続
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