小説/黄昏時の金平糖。【V*erno】#14 一歩後ろに

師走わさび 6月3日 金曜日 午前8時15分
          愛知県 夏露中学校 1年10組

「ありがとうございました!」
 日直の号令を聞きながら、私は頭を下げた。みんながありがとうございました、と言う中で一人口をつぐんで。

 最近身体が重くなってきた。なんとなく。
 わらべと話してから、結構気が沈んでいる。でも、明日から休み。2日休める。2日もあればきっと気力も回復する、はず。

 ─ってあれ、私、いつも金曜日が来ると寂しくなるのに、今日はそんなことない。
 早く休みたい、早く逃げたいって思ってる。この場所がすごく息苦しい。誰かに助けてほしいって叫んでる、気がする。
「早く、休みにならないかな、、、」
 力なくつぶやいてうつ伏せになろうとしたところで、誰かが私の肩を支えた。

「おー?寝不足か?」
 愛華葉だ。まるで助けが来たような気になり、少し嬉しかったけど、なんだか面倒臭さじわじわと出てきて、「どっか行って」と言った。
「ふーん。体調不良?機嫌悪い?元気ないな」
 そう言って私の額をさわった。なんで、私に構うんだろう。どうでも良いってのに。
 私はその手を丁寧に戻して、「私のことはどうでもいいから」と言った。
 
「まぁいいや。なんかあったら言って」
 そう言って離れていった。
 愛華葉は下の子が4人いるから、きっと面倒見が良いんだろう。だけど、今の私からしたら世話の焼きすぎだ。少し、嬉しいけど。

 だんだん考えるのが面倒になってきて、考えるのをやめて私はうつ伏せになった。

木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後3時05分
          愛知県 夏露中学校 職員室

「全部印刷し終わった?」
「あぁ。もう終わったよ」
「よし、やったね!」
 3人でハイタッチを交わした。と、女子とハイタッチした右手が思わず震えた。
「さ、体育館に向かおう。きっとみんな待っているはずだから」
「そうだね!」
「あ、あぁ、戻ろうか」
 震える右手を背中に隠して、左手で右手首を強く握った。

 ─女に触れるといつもこうなる。
 いつからか覚えてないけど、小4の時点で先輩と手を繋いで歩くときとかはよく力が入らなかった。なんでこうなるのかとかは正直興味が無いから、調べる気も病院に行く気もない。
 いや、病名なんて無いか。ただ、女が苦手なだけなんだろう。

 6月の序盤というのに蒸し暑い廊下を歩きながら、少しずつ手を離す。
 震えは止まり、なんとなく右手をポケットに突っ込んだ。
 向こう側から歩いてきた先生が「お疲れ様」などと言うから、こっちも「お疲れ様です」と返す。

 俺は二人の会話を聞きつつ、目の前の体育館を見つめていた。

暁愛華葉 6月3日 金曜日 午後3時15分
          愛知県 夏露中学校 体育館

「愛華葉ちゃんのお陰で早く終わったね!」
「あぁ。さすが学年代表」
「ん、ありがと」

 私はよくこうやって褒められる。
 だけど、みんなはウザいって言うかもしれないが、私としてこれは当然なのだ。
 5人姉弟の中で一番上だから、ちゃんとしてなきゃいけない。

「褒められてんじゃんかよ、愛華葉」 
 突然、上から声が降ってきた。
「わた?何、嫉妬?」
「もっと喜ばんの?」
 煽ってみせたが、華麗にスルーされ、自分が煽られる形となった。
「いや、これが普通というか、、、?」
「あ、そゆことね」
 迷うまでもなく、あっさりと言った。なんなんだ、こいつは。

「それはどうでもいいじゃん。私聞きたいことあってさ」
「どした?」
「願い池のお願い事、何にするの?」
 願い池は、愛知の中央らへんにある、席池(せきいけ)のこと。そこの池は、何やらの神話があり、昔から神々に守られてきたのだという。だから、そこで結婚式をあげたり祭を催すことで、神の御加護を受け、ずっと幸せでいれるらしい。
 神々に守られてきた、とかは正直信用できない。まぁ、その癖みんなはいないとか言うサンタさんとか、織姫、彦星はいるって信じてるけど。

「あー、、、」
 わたは、視線を前に戻して考えている。そして、何か思い付いたのか「あっ」と言ってこっちを向いた。
「愛華葉が素直になりますように」
 笑顔で言うな。
 私は「お前なぁ、、、」と呪いをかけるような雰囲気で低くつぶやいた。

 しばらく二人で話していると、体育館にゆっくりと戻ってくる葉凰たちが見えた。

「続」


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!
それじゃあ
またね!

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