小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#31 あの日の物語
暁愛華葉 6月5日 日曜日 午前6時02分
静岡県 紅無町 宵宮家
「んー、、、よく寝た」
辺りを見回す。
氷と葉凰がいなかった。
「どこ行ったんだろ?」
立ち上がって、髪の毛を軽くゴムで結んだ。
と、「あ、愛華葉!おはよ!」という明るい声が聞こえた。
「飯食おうよ」
「おはよ。お腹空いたね」
私は一階へ向かった。
「─ごちそうさま!」
「朝食、ありがとうございました」
「ごちそうさまです」
食器を持っていきながら、おじいさんに声をかけた。
「おお。、、、ほじゃ、畑行ってくるでな。気を付けて帰れよ」
「はい。本当にありがとうございました!」
「また来てな」
おじいさんは外に出ていった。
今日の朝は、ごはんと里芋のみそ汁、鮭の塩焼きという、なんとも美味しい和食だった。
「俺、洗濯物干してくるから、帰ってていいよ!」
いや、なんていい人なんだろう。けどそんな訳にはいかないから。
「私も手伝うよ。お礼にさ」
「あー、じゃあ俺は食器洗う」
「いいの!?本当にいい人たちだね、ありがとう!」
いい人なのは氷の方だよ。
私は氷についていくために二階へ行った。
宵宮氷 6月5日 日曜日 午前6時45分
静岡県 紅無町 じいちゃんの家
「んー、今日も良い天気っ!」
「そうだね」
俺は、じいちゃんが洗ってくれた洗い立ての服をカゴから出してハンガーにかけて洗濯ばさみで止める。愛華葉はそれを物干し竿にかけてくれた。
「─ねぇ、氷ってさあ」
「ん?どしたの?」
愛華葉が何か質問してくる。
「わさびたちと仲良いってことは、愛知にいたってこと?」
「そうだよ」
突然の質問だった。そう、俺はもともと愛知にいたのだ。
「なんでここに来たかは聞かないけど」
「うん」
また何か質問するのかな?
「なんで、仲良くなったの?」
洗濯物がなくなって、最後のハンガーを渡してから、俺は愛華葉のところへ行った。
この子たち、不思議だな。
同じことを聞いてる。
なんで仲良くなったか、どうして3人を知っているのか。俺は、何者なのか。
二人とも仲が良くて、住んでる場所も近くて素敵だな、いいなって思う。
俺も、本当はそうしたかった。
4人でいたかったんだ。
俺は、はははっと笑って愛華葉に言った。
「葉凰と、同じこときいてる」
愛華葉はきょとんとした。
木暮葉凰 6月5日 日曜日 午前7時30分
静岡県 紅無町 宵宮家
「─それじゃあ、またな!」
「ほんとにありがと!」
「うん!また来てね!!」
氷は俺らに大きく手を振った。
「電車間に合う?」
「間に合うよ」
良かった。家には帰りたくないけど、時間は過ぎる。だから、行かなきゃ。
切符を買って、駅で電車を待つ。
その間に、愛華葉は口を開いた。
「、、、葉凰、氷にきいたんだ」
「え、何を?」
ん、俺まずいことしたか?
「4人の話だよ」
「あ、愛華葉もきいたの?」
「うん」
今日の朝、氷に聞いた、わたとわさびとわらべの、友情物語。愛華葉もどこかできいたんだ。
「なんか、アニメみたいだよな」
「分かる。銭湯で会うとか、星見たりとか、素敵だよね」
本当に羨ましくて、綺麗な話だった。最後黙って転校したところは、クライマックス前、みたいな感じがする。
「四人とも、会えるといいね」
「ああ」
幼馴染みとのケンカ。それを先週、わらべは美術室で言ってくれた。幼馴染みとはわたとわさびと氷のことなんだ。
電車が俺らの前に止まり、乗り込んだ。
ふと、俺は愛華葉に共有しようと思った。普段は口がかたいが、二人で四人の話を聞いただけで、かなりプライバシーに踏み込んだ。だから、言う。
「、、、わらべさ、この間、俺に言ってくれて」
「何を?」
愛華葉は優しい顔できいてきた。
「氷たちのこと」
愛華葉は黙って聞いてくれた。
宵宮氷 6月5日 日曜日 午前8時00分
静岡県 紅無町 じいちゃんの家
二人とも、帰って行った。
また会えたらいいな。
二度と無いかもしれないこの縁に深く感謝した。
俺は、彼らに話した。
わらべのこと、わさびのこと、わたのこと、俺のこと。
いままで、誰にも話してこなかった物語を話そうと思ったんだ。俺さぁ、話したかったんだよ、誰かに。俺の気持ちを、俺らの物語を。
─ねぇ、葉凰、愛華葉。
聞いてくれてありがとう。また会いたくなったよ、二人に、あの三人に。
俺らの物語は、いつしかの春の日に始まったんだ─。
宵宮氷 2013年 5月3日 金曜日 午後5時30分
愛知県 夏露町 銭湯「榎山の湯 夏露温泉」
─その日はちょうど、暖かい春の半ばだったかな。
世間はゴールデンウィークで、どこへ行こうか、こんなところに行きたいという会話で溢れかえってた。
『わたわたー、雑巾がけ競争やろうよ!』
『うん、やろう』
俺たちは、こうやって遊びながらばあちゃんがやっている銭湯開店までの手伝いをしていた。
しばらく遊んで、銭湯の時間が来た。
『いらっしゃいませ!!』
『い、いらっしゃいませ、、、』
恥ずかしがり屋のわたわたは、声が小さかった。逆に、俺はうるさすぎるほどだった。
モップで濡れている床を拭きながら歩いていると、『こんにちはー!!』と元気な声が聞こえた。
俺と同じくらいの年の子だった。
オレンジ色の、ふさふさした髪。そのとなりには、白色の髪の女の子がいた。お母さんと、お姉さんくらいの人も立っていて、4人だった。
『いらっしゃいませ!!』
俺は負けじと大声であいさつした。
4人はわくわくしながら、温泉に入るのにロッカールームへ向かっていった。
その数十分あと、四人が出てきた。
『なあなあ、あれほしい!』
オレンジ髪の男の子は、棒アイスを指差して言った。けどお母さんは、『今日はこのまま帰るよ。家で食べよう』って言った。
そしたら、男の子は駄々をこね始めて『あれほしいっ!!』と泣きわめいて、しまいには銭湯を出ていってしまった。
『どうしよう、、、』
わたわたは不安そうに言った。
『アイス、持っていってあげようよ!』
俺は2本、冷凍ケースから出して、走って外に出た。
『─ねえ、君!』
『何っ!?』
怒りながら、俺を振り返った。後ろからは、白い髪の女の子が追ってきている。
『アイス。食べよう』
『え、いいの?』
泣き腫らしたのか、目が赤い。
『いいよ。─ほら、女の子にもあげる!』
俺は後ろから来た女の子にアイスをあげた。
『、、、ありがとう!』
二人は笑顔で食べ始めた。
さっきの泣き顔も、不安そうな顔も、どこかにいった。
ちょっとして、わたわたがやってきた。
『あげる』
わたわたは俺にアイスをくれた。
『やった!ありがとう!』
わたわたは自分の分のアイスを開けた。
4人で夜空の星を眺めながら食べ進めた。
『─名前は?』
突然、男の子が聞いてきた。
『氷。宵宮氷!』
今度は、女の子を見て、『名前は?』と言った。
『、、、黎明わた、です』
ためらいながらも、小さな声で答えた。
『じゃあ、君は?』
俺が男の子に聞くと、『黄昏わらべ!』と言った。女の子は自分から、『私は師走わさび!』と言った。
『よろしくね!』
星を見ながらアイスを食べた春の夜。
この時から俺らの物語は始まったんだ─!
続
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!
ところで 学生のみなさんは
もうすぐ春休みが来ますね!
楽しみですか?
進級&進学、就職、怖いことは色々ありますが
一緒に乗り越えていきましょう!
ちなみに自分 次は中学3年生です(*´ー`*)
それじゃあ
またね!