小説/黄昏時の金平糖。【Ves*lis】#7 君にだけ正直に
黄昏わらべ 6月2日 木曜日 午後13時30分
愛知県 夏露中学校 美術室
葉凰が、こんなに大胆なことをするなんて思ってもいなかった。
というか俺、そんなにいつも通りじゃなかったか?
なんて言っても実は人の話を聞いていなかった。先生の話ですら聞いてない。朝、わさびにあんな突き放され方したら、どうしても頭で考えてしまう。
そんなに嫌いだったのか?やっぱりあの時みたいにはなれないのか?そもそも、嫌いだったのを隠していたのか?だいたい─
「おいわらべ、早く座れ、そこ」
「あぁ、ありがとう」
一応頭の片隅はちゃんと葉凰に集中してて良かった。
俺は椅子を引いて座った。机に、筆箱とプリントを置いた。
葉凰は向かい側に座って、筆箱とプリントを無造作に放り、片腕を机に置いて、鋭い目で俺の顔を見てきた。
「お前、なんか今日あった?」
「何もなかった」
嘘を言ってしまった。しかもさらっと。そんなわけ無い。午前に、わさびに突き放された。だが、言えるはずがない。
そんな俺に躊躇せず、葉凰は訊いてくる。
「んなわけねぇだろ。はっきり言えよ。いつもだったら、ちゃんと話し聞いてんのに、今日は上の空だし。隠し事?」
「は?隠し事な訳な─」
言葉が止まった。
これ以上嘘をついたら、友達が減ってしまう。なんて思った。せっかく相棒に代わりそうな人を見つけたのに─。
相棒、という言葉が、いつまでも響いている。
そういえば、氷が帰ってくるんだった。急いでわさびと話さなければ。今から行ったら─。
「おい、聞いてんのかって!」
ワイシャツの襟元をつかまれた。
別のことを考えていた。俺は葉凰の手を右手で掴む。
「なんでそんな怒ってんだよ」
「お前のその態度がイラつくんだよ!」
「そんなのお前に─」
自然と、右手に力が入った。
「お前に関係ねぇだろ!!」
葉凰の手を引っ張って、襟から放した。
はっ、として手を緩める。教室に、葉凰の呼吸が響いている。
俺は筆箱とプリントを持って、入り口に向かう。と、葉凰が口を開いた。
「それでいいのかよ」
「、、、!」
振り返った。葉凰が上を向いて壁に寄りかかっている。
「俺の、思い違いかよ」
そう、半笑いで言う声がかすれていくのが分かる。
俺は思わず、あいつの右手を握った。
「違う、そうじゃない!俺が悪かった!」
葉凰は、俺を見た。
「えーと、その、だから!」
右手を握る力を込めて言った。
「色々あって!」
葉凰はゆっくりと頭を起こした。そして、目を細める。
「じゃあ、言えるか?」
「、、、あぁ」
俺は一呼吸置いて、そう返事をした。
もう一度席に向かい合わせになって座った。
「朝にな─」
俺は安心しきって話し始めた。
続
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