小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#25 良かったら、一緒に
木暮葉凰 6月3日 金曜日 午後10時25分
愛知県 夏露町 木暮家 リビング
夕飯を食べながら、母さんに質問攻めにされた。
何をしてたの、とか、誰と帰ってきたの、とか。こういうことに、本当に黙ってくれない。
母さんはすごく過保護だ。
俺には、家で自由にする権利は無く、料理も自分で服を決めることもできない。
だから、手伝おうとしても、「全然大丈夫」とか「そんなことより早く寝てね」とか、はぐらかされてばっかり。
そういうのを見ると心が痛くなる。
おとうさんはというと、仕事だとか言って全然帰ってこない。深夜に酒に酔って帰ってくるのだ。
母さんは居酒屋?って聞くけど、そんなわけ無い。最近知った。あれは、ワインだ。赤ぶどうの匂いが微かにする。
母さんはいつ、壊れてしまったのだろうか。
母さんはどこで、心を失くしてしまったのだろうか。
気づいているんじゃないのか?
知らないフリ、それだけなんじゃないか?
おとうさんは嫌いだ。
母さんは好きでも嫌いでもない。いや、本当は好きなんだろうけど、よく分からない。
ただ、前のように笑ってほしい。
「もとの家に戻りたい、、、」
母さんと、一緒に。
力なく呟いて、それから気を失うように眠った。
暁愛華葉 6月4日 土曜日 午前6時05分
愛知県 夏露町 暁家 リビング
「んー、、、」
「どうしたの?愛華葉」
「いや、、、」
スマホを見ていると、お母さんに話しかけられた。
「静岡、誰と行こうかなって、、、」
「え、静岡!?」
「?うん、静岡」
「今日行くの!?」
「って昨日、言わなかったっけ?」
「聞いてないよー!」
え、嘘。
やっぱり私、最近自分らしくない。
わたと帰ってきて、その辺りからなんだかいつもより疲れを感じてた。学校でもらったトラベルガイドブックを読んで、ふと静岡に行ってみたいという衝動に駆られたのだ。
「んー、けど行きたいんだ」
「一人で?」
「いや、友達と」
そう言うと、お母さんの顔がぱっと明るく晴れた。
「いいよ、いいよー!行っておいで!」
「え、いいの?」
「もちろん!いつも若葉たちを見ててくれるお礼!」
良かった。衝動を止められなくて。
改めて、LINEの画面を見る。
んー。
わさびはだめ。いつも忙しいらしいから。
だとすると、葉凰?
でも最近会ったばっかりだし、、、。
いや、悩んでいても仕方がない。
私は思いきって通話ボタンを押す。LINE特有の通話待機音が流れる。
─そういえば、朝早いな。
6時に電話とか迷惑だよね?
切ろうとした瞬間、「はい」という低い眠たい声が聞こえた。
木暮葉凰 6月4日 土曜日 午前6時10分
愛知県 夏露町 木暮家 リビング
こんな時間に、愛華葉からの電話?
何かあったのだろうか。
今日はなんだかすっきりと目が覚めた。わらべの家に行ったわりには、元気が有り余っているようで、今日もどこかに遊びに行けそうだ。
「─あーっと、葉凰?」
「ん?どした?」
「えーっと、、、」
あの愛華葉でも言葉に迷っていて、少し驚いた。
大丈夫なのか?
「なんでも言っていいよ」
「んー、そうだなぁ」
もったいぶって、愛華葉は言う。
「本当になんでもいい?」
「あぁ、いいよ」
「あの、、、─」
緊張感が増してくる。
俺は注意深く聞けるように、耳をすました。
「─静岡県に、行きませんか?」
「え」
なんだ、そんなことか。
それと同時に、本当に唐突だなと思った。
、、、ん、静岡?
今から?
?
「え!?」
続
今回も読んでくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに!
それじゃあ
またね!