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甘くて優しかったキスを思い出して
「人には触れられたくない過去のひとつやふたつ、あるでしょう?
そこは察して、距離を置くことも時には必要だと思う。」
どんなキッカケだったか、覚えてない。
仲良くしてもらっていた年上の男性に、ふと、かけられた言葉が、今でも心に残ってる。
私は多分、この言葉に
「それはなんとなくわかるけど、人に話したり言葉にすることでスッキリしたり、気持ちが変わったりすることだってあるじゃん?」
なんて、わかりもしないで生意気にも返したんじゃなかったかな。
彼が私のどんな態度や言葉に反応して、これを言おうと思ったのか、今ならなんとなくわかる。
きっと私が触れちゃいけない何かに触れたんだと思う。
いや、当時もそれはその言葉から感じてたのだけど、相手の気持ちに寄り添うよりも自分の考えを突き通すことを優先しちゃったんだと思う。
人を受け入れるよりも先に、自分を受け入れてほしくてたまらない気持ちが強く出ちゃったんじゃないかな、今思えば。
出会いのキッカケは、就職が決まったあとで、比較的自由な時間があった頃だったと思う。
多分、人恋しさに参加した、何かの集まりで出会ったんじゃなかったかな。
その頃の私は間違いなく空気の読めない人で、行間も読まずにお喋りしていたと思うし、グイグイと距離を縮めていくような人だった。
なんかね、好きとか嫌いとかの前に、コントロールの効かない自分をなんとかしてくれる人を、無意識に探してたんじゃないかと思う。
言葉にしたら、ひどい話だよね。
そこは自分でなんとかしてくれ、とツッコミたくなる。
そんな私のそばには、優しい男性がいてくれることが多かった。
容赦なく振り回す私を大人の余裕で受けとめてくれる感じの。
よく私は自分からグイグイと近寄って、拒否したり違和感が強くない人だとわかると、心を開いていろんな話をした。
その頃は本当に自分しか見えてなくて、そんな自分の世界を広げてくれるような、自分のいる世界とは全然違う世界の人との時間が心地よかった。
国家試験を受けて、就職も決まり、自分を縛り付けていたいろんなことから解放されたころだったからね。
開放感に浸りたかったのは確かで。
それにずっと勉強をすることしか頭になかったから、その反動もあったんじゃないかな。
私はいろんな出会いの場に出かけていき、いろんな人と出会い、いろんな男性と出かけたりしたの。
勉強さえできれば、大人になってもなんとかなる、そんな考えにとらわれてた私。
対人コミュニケーションや生活スキルは、学校の勉強とは別に、生きるスキルとして大切だって視点が全くなかったのよ。
そんな私と出会った人たちは、私にどんな印象を抱いたんだろうって考えるとゾッとする。
自分の自覚以上にかなりぶっ飛んだ人間だったんじゃないかと、今は思ってる。
そんな私に優しく教えようとしてくれた貴重な男性。
それもはねのけて、わかってくれないとばかりに主張した私を、彼はどう思っていたんだろう。
キスがとっても甘かった。
それと、朝、くせっ毛だという髪の毛を念入りにセットする姿が印象的だった。
いつから会わなくなったのか、何かあったのか、注意散漫な私は全然覚えてない。
でもきっと、彼にとって私は香辛料のような出会いだったに違いないと思う。
ひどいことをたくさん言ってたと思うし、アレコレ言って振り回したと思うから。
そして、2人の最後は、彼の包容力が堪えきれなくなるよりも前に、私の自分勝手な想いで離れたんじゃないだろうかって気がしてるから。
そんな彼に伝えたい。
40歳を目の前にやっと、私、落ち着きました。
人との距離感を覚えて、人には言えない過去ができて、必要なウソも覚えました。
あのときはごめんなさい、そしてありがとう。
今もどこかでこの空を見上げているとしたら、この想いが届きますように。
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