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第十一話 ハクばあちゃんの手記
※とある流しの助産師のお話。
数日前のことだったかしらね。あなたたち兄妹が、お父さんも、お母さんも、僕たちのことが嫌いなんだ。僕たち生まれて来なければよかった、なんて、泣きながら私のところへやって来たのは。
全くしょうがない子達ですねえ。あなた達がどれだけ皆に愛されているか、そして、お二人が、どれだけの困難を乗り越えてあなた方を産もうとしたか、これは話しておかないとって、私はその時思い立ったんですよ。
お二人とも、照れ屋であまりそういうことを、声高々に言う方じゃないからねえ。
それでねえ、色々思い出してみたのだけれど、私もいい加減年を重ねてしまって。部分部分は、はっきり思い出せるのだけれど、お話にするには長すぎるし。かといって短くまとめられるのも難しいしね。それでこうやって裏紙に、あの時のことを書き出して見ることにしたのですよ。学びの基本や読み書きなんてよく言いますけどね。あれは本当のことのようですよ。こうやって書いていると、あれもこれもと思い出してきたわ。それでこうやって手記みたいにして、書き記してみようかなって思ったの。
まあ、素人がやることですからね、あなたのお母さんみたいに上手なものにはならないと思うけど。あなたたちに分かりやすいように書くつもりだから、いつもみたいに喧嘩しないで、仲良く読んでちょうだいね。
そうね、まずあなたのご両親に会う前のこと、私がなぜこの場所へたどり着いたのかということを書くのがいいと思うの。お父さんとお母さんの登場はまだ先だけど、少し付き合ってちょうだいね。
私はね、今はこの薬草園の孤児院で、おばあちゃん先生なんて呼ばれているけれど、本当は取り上げ婆、つまり産婆だったんです。それも普通の産婆じゃなかったの。普通は産婆ってどの村にも、年をとった経験豊富なのが一人か二人いてね、村の女性の出産する時はお手伝いをするじゃないですか。でもねえ、あの時代はあちこちで戦が起きたりしていて、そういう人がいる村というのが少なかったんですよ。
私は昔から足腰だけは丈夫な方だった。旅も好きだったし、若い娘さんみたいに身の安全を気にする年齢でもなくってね。だからあの時代には珍しい、旅の産婆をやってたのです。
つまり流しの芸人みたいなもんですよ。どこかの村で出産があって、産婆がいなくて困るっていう話を聞いたらその村へ案内してもらって行く。その噂がまた別の村に流れて、そちらの村で呼ばれてまた案内をされて行く。そうやって日本中あちこち旅をしながら、出産のお手伝いをして食いぶちを探しつつ、放浪していたわけです。すごいでしょ?
そんな暮らしをして十数年経った頃だったかしらね。
その時は、たまたま京で、それなりに身分の高い人の出産の手伝いを頼まれたことがあったの。本当は私のような身分の人が入れるようなお屋敷じゃなかったんだけどね、皇族の末裔とかのおうちでね。けど出産をされる女性がとても体が弱くって、難産が見込まれるから経験豊富、百戦錬磨の産婆を何人も雇うっていうんで、私も声をかけられました。その頃は私もすでに五十近かった。段々移動も辛くなってきて、そろそろ何かと便利な京の辺りで、定住しようかと思ってたんですよ。そんな時だったから言われた報酬もよかったし、仕事を引き受けることにしたんです。
そこで出会ったのが、医者の修行中であった、あなたたちが大好きな、ひなおばちゃん。雛菊ちゃんだったんです。
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