チワワのピカに選ばれた私たち
ピカと一緒に暮らし始めて2年になる。
15歳とも17歳とも言われる老犬は、もともとはパートナーまるちゃんの母の犬だった。
その母が突然亡くなり、主人を失ったピカの境遇ががらりと変わった。
5エーカーの土地に2軒の家を建てて暮らしていた両親だったが、母亡き後、父は小さいほうの家に移り、メインハウスには妹夫婦が越してきた。
彼らには大型犬2匹と小型犬がいて、かつてピカが暮らした家は知らない犬たちに占領された。
ちょうど同じ頃、家を探していた我々に「土地の下のエリアに家を建てたら?」と提案があった。
それを受けて、私たちはこの土地に家を手作りする事に決めた。
こんな民族大移動が起こった時、ピカは自分で次の世話役を選んだ。
我々に白羽の矢が立ったのだ。
まるちゃんとかつての飼い主であったまるちゃん母は性質がとても似ているような気がするが、ピカもそう感じたのかまるちゃんを次の主人と見立てた様子だった。
彼女は我々の作り始めた家を終の住処に決めた。
ピカは老犬だが、5エーカーと言う広大な土地を上から下まで走りまわり、この土地を守るのが自分の仕事と思っている。
土地には羊や鶏ちょっと前までは豚も飼っていた。マングース、猫、野豚、ネズミ…あらゆる野生の外敵もいる。
それらを見つけ追いかけ吠えまくるのが日課で、彼女の走りはまだまだシャープだし目もしっかり見えているようだ。
そんなピカの苦手は“人”だ。この土地では年に数回、何百人もの人が集まるパーティーを催すけれど、これがピカにとっては苦痛極まりないイベントになる。
知らない人間がダメで、特に子供は過去に嫌な思いがあったのかと思うほど嫌う。人が近づくと吠えまくり、まるちゃんの後ろにぴったりとついて歩く。
お世話係としてもどう対処して良いものか頭の痛いイベントである。
最近ピカの寝ている時間が長くなったり、同じ部屋にいる私に気づかず、慌てて探したりという小さな変化を感じている。
体にもイボがたくさんできて、目には白い膜が張っている。
食欲にもムラがある。
そんな時、やっとお互いがわかりかけてきたこの頃だけれど、別れる日もそう遠くはないのかもしれないと感じるのだ。
「お父さんがね、私を呼んでこう言うのよ。ピカが死んだらここに埋めるようにと。お母さんの大好きな木の隣、そこがピカの眠る場所だって、突然言うのよね。」
ある日まるちゃんの妹がそう言った。
高齢のまるちゃん父は、最近いろんな最後の始末を考えているらしく、ピカのこともその一つだった。それを聞くと「あぁピカはこの土地に眠るんだな」と少しほっとした気持ちになった。
これまでの人生の中で何度か動物と一緒に暮らす機会があったけれど、いろいろな事情で最後まで一緒にいることが叶わなかった。
家族が引き継いで彼らの面倒を見てくれたけれど、心のどこかで申し訳なかったなという想いがある。図らずもピカに選んでもらった事で、今度はきっと最後までお世話ができそうだ。
その日まで毎日ピカと楽しく暮らそう。