ニチアサの話がしたい vol,220
■今週のガヴ
・2人のマッドサイエンティスト
多種多様なコンテンツ溢れるこのご時世、我々オタクはどこかでこう思い込んでしまっていたのかもしれない。「1番組にマッドサイエンティストは1人」だと。そんな特殊な変人は2枠もないだろうと。そんなある種の思い込み、いや気の緩みを「ところがどっこい!」と盛大にブチ壊していったのが『仮面ライダーガヴ』酸賀研造とニエルブ・ストマックの両名である。
「主人公は敵組織によって人ならざる力を与えられた改造人間」という宿命を帯びた設定と共にスタートした『仮面ライダー』シリーズは、初代『仮面ライダー』の死神博士を筆頭に現在に至るまで様々なタイプのマッドサイエンティストが登場してきたわけであるが、権力構造的に対等な現役マッドサイエンティストが2人、しかもそれらが協力関係にあるというのはシリーズでも初ではないだろうか。1人でも手に余る奇人がなぜ2人も……という感じだが、殊『ガヴ』は人間界とグラニュート界という2つの世界を横断した作品でもあるので、それぞれの領域に研究者がいて然るべきと言われればそれもそうだなという気もする。
それにしても、それをすんなりお出しするのではなく、両者にそれぞれ「刺激って大事だよね」と敢えて同じ台詞を与えたり、眼鏡というアイテムを着用させ、更にそれを片手で上げる癖を共通させたり、デンテに「ヴァレンを改造したのはグラニュートなのでは」と言わせたりして、「やっぱり彼らは同一人物なのでは?」と散々ファンに勘ぐらせてから種明かしを行い「いや、別人なんかい!」という視聴者サイドの盛大なツッコミを以ってして、この1ネタを「完成」とするところは、「見るもの」と「見られるもの」同士のライブ感を重視してきた、特に平成二期以降の仮面ライダーシリーズらしい所作で思わずニヤニヤしてしまう。あと個人的にも「酸賀はニエルブの変装で同一人物だった」というより、「酸賀は純粋な興味からグラニュート研究に没頭し、絆斗を部分麻酔で仮面ライダーに改造した人」という方が酸賀さんのクレイジーさがグンと際立つなと思っていたので別人であってくれて大変うれしかった。酸賀さん、一見すると美しい外見やキザな仕草はそのままに、人としては際限なくヤバくあってほしい。
さらに、番組冒頭のこの2人のシーンを見る限り、ニエルブは自分の正体を酸賀に明かしておらず、あくまで「グラニュート研究者」として彼と交流を持っているらしい、という一捻りも面白い。この日、彼らは「情報交換」を行い、ニエルブは14話で拾っていたグミ系のゴチゾウとグラニュート器官を酸賀に差し出し、酸賀はヴァレンの変身システムの詳細とカスタードプリンをニエルブに渡す。「人間はこんなモノを喜んで食べるのかい?」と怪訝そうにしつつ、その場で早速実食しだすニエルブの好奇心旺盛さと研究者としての生真面目さは何だかちょっと愛らしくも見える。(酸賀さんの「好きな人は多いんじゃない?あ、俺も大好き!」などというチャラめの軽口を完全にスルーしているのもウケる)一方で、シータの死は赤ガヴの進化を見るための「尊い犠牲」だったとし、悲しむ様子を一切見せないところには非人間的な冷酷さと、製作陣に「次男っぽい」と評されたという超がつくほどのマイペースっぷりが垣間見え、ニエルブというキャラが持つ面白みがだんだんと染み出してきたように感じる。
また、シータ死亡の一報がストマック家に伝えられた際のランゴとグロッタの反応も印象的だった。2人はその報告に対し衝撃を受けるのだが、ランゴは「シータが赤ガヴにやられたァ!?」と、まるで予約で満席の日にバイトに当欠連絡された居酒屋の店長のような、ちょっと素っ頓狂な口調で驚き、グロッタは「ウソでしょ……」と愕然としつつも「いくらあの子たちとはいえ、赤ガヴなんかに……」と、倒されたことよりもショウマにやられたことの方が信じられないという様子で、2人とも実の妹が亡くなったにしてはそれぞれちょっとズレたリアクションなのが人間とは違う倫理観を持った人外キャラらしくていい。その上で2人とも「なんにもできない子どものくせに」と家族ならではの距離感で未熟な双子をなじったり、「ニエルブも意地悪よね。助けてやれば良かったのに」と、双子に頼られていた次男の怠慢さをチクチク責めるなど妙に人間臭いことを言うのが面白く、この「人っぽさ」と「人っぽくなさ」の絶妙なバランスがストマック兄弟の魅力なんだよな〜と毎回思わされる。
・賢者の贈り物
ショウマサイドのストーリーで注目したいのは作家オー・ヘンリーによる短編小説『賢者の贈り物』が作中に登場したことだ。「お互いにあげた物が役に立たなかったってことだよね?」と困惑するショウマに対し、幸果が言った「うーん。すきぴ同士がガチ大事なものを贈ったってわけ。お互いを思いやる気持ち!」という返答だけである意味十分な気もするが、もう少し詳しく『賢者の贈り物』について説明しておこう。
とある町に住む貧しくも仲睦まじい夫婦が、互いにクリスマスにプレゼントを贈ろうと考えた。ところが夫は祖父の代から譲り受けてきた大切な金時計を質屋へ売り、妻の美しい髪を梳かすための鼈甲の櫛を。妻は自分の髪の毛を商人に売り渡し、そのお金で夫の金時計に付けるプラチナの鎖を買ってしまう。相手に喜んでもらおうと自分が最も大切にしているものを差し出した結果、贈り物自体が成立しなくなってしまったのだ。しかし、この一件を通じて逆に夫婦はどんな品物よりもお互いを思いやる心こそがいちばんの贈り物なのだと気付き、より一層夫婦の絆を深める。2人の行いを愚かだと見る人もいるだろうが、贈り物の真の価値を知った彼らこそ「賢者」というべき存在なのである。と言った物語だ。
そんな思いやりのこもったプレゼント交換に憧れたショウマは幸果の提案で絆斗にブシュエルゴチゾウを手渡すが、それは一方的な贈り物にしかならず「何かちがう……お互いを思いやる気持ちって難しい」と首を傾げる。そもそも金銭的に余裕がない生活の中でも愛し合って暮らしている夫婦と同じレベルの「お互いを思いやるプレゼント交換」を、最近ちょっと仲良くなった友人とやりたいというのはハタから見てもかなりハードルが高いと思うのだが、そんなことはおかまいなしに絆斗の反応に一喜一憂するショウマと、まさかそんなデカめの感情を向けていられているとは露にも思っておらず「どうしたんだ?」と訝し気にショウマの顔を覗き込む絆斗のギャップが微笑ましい。(ついでに、この後はぴぱれで請け負っていた商店街のクリスマス福引き大会が忙しくなり、なんだかんだ言いつつもショウマとお揃いのトナカイの衣装を着て手伝ってくれる絆斗が相変わらずイイ奴すぎる)しかし、ここでわずかにすれ違ってしまった2人の気持ちは埋まることはなく、むしろその後グラニュート・ロジョーの策略により更に大きくずれていくことになる。
・「闇菓子に二度と関わらない」場合
「どうする?二度と闇菓子に関わらないか、この場でオレに倒されるか!」は第1話から言い続けてきたショウマの決め台詞であり、この「最後の審判」に「ばかめ!闇菓子を諦められるか!」と愚かしくグラニュートが返して戦闘が始まるのが『ガヴ』のお決まりの流れとなっているわけだが、路上ミュージシャン可児扮するロジョーはこの問いに対し「はい!もう闇菓子には関わりません!」と宣言。いつも通り「そうか……」と残念そうに呟き、走りだそうとして「……ええっ?今なんて!?」とズッコケるガブ役縄田雄哉さんのお芝居がキュートだ。公式サイトでも「もしその場でグラニュートが闇菓子辞めます宣言をしたら、いったいショウマはどうするのだろうと企画チームの中でも序盤から話題に上がっていた」と明かされていたが、一年というロングスパンの中、(例えそれが敵の罠だったとしても)グラニュートと闇菓子の関わり方のバリエーションとして一度は必ずやっておきたかったであろうシチュエーションであろう。「闇菓子のために人間を襲うバイトを最初はほんの軽い気持ちで始めてしまったが、今はその罪を償いたい。ストマック社も辞めたいがそんな簡単に辞めさせてはもらえはしない。だから力を貸してほしい」と声を震わせてショウマに懇願するロジョー。そんな追い詰められた小動物のような表情で縋られたら、元より心優しいショウマはそりゃ怪しいと思いつつも彼のことを信じたくなってしまうだろうよ……と思わせる演者の岸洋佑さんの説得力のあるお芝居が光る。ついでに先々のことを言ってしまうと、この訴えはショウマを油断させるための嘘だったと暴露した後のロジョーのゲス感あふれる振り切ったアフレコがまた見事で、さすが岸さんは声の表現力が豊かだなと改めて感心してしまった。
しかし、絆斗はこれに「そんな寝言お前は信じんのか!?」と猛反対。(このシーン、遠くで救急車のサイレンが鳴っており「今もどこかで人が襲われているかも……」と無意識レベルで視聴者に不安を喚起させる音響さんの演出がすごい)母親の仇であるグラニュートは根こそぎブッ倒すと初志貫徹の復讐心を燃やす絆斗と、身内であるストマック一族こそが諸悪の根源だと知っているからこそ、中毒性のある闇菓子を餌に使役されているバイトたちは更生できる可能性もあるのではと思うショウマの間ではグラニュートについて情報格差があり、それが軋轢を生む原因であることはショウマも薄々分かっているのだが、だからと言ってここで全てを打ち明ける勇気は今の彼には無い……というジレンマが観ていてツライところだ。しかし、絆斗もただショウマの甘さに反発しているわけではなく、お人好しのショウマはロジョーに騙されているのではという懸念から(そしてそれは結果的に当たっていたわけだが)「俺が奴を捕まえて証明してやる!」と意気込んだり、実際にロジョーが本性を表すと「だから言っただろ!」とショウマを責めるというより心配が的中したオカン的なニュアンスの声を上げたりと、絆斗の元来の面倒見の良さが滲み出ているところも絆斗推しとしてはしみじみと良かった。
・チョコ沼ダイブ変身!
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